缶詰はオートメーション化された工場で大量生産しているイメージがあります。でも、中には「大変な手間を掛けるケースもある」と、缶詰博士の黒川氏は言います。

「特にこのスイーツ缶はすごい。素材を4層積み重ねて、1缶ずつ手作業で仕上げています。町のケーキ屋と変わらないほどの手間が掛かってるんです!」

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  • 黒潮町缶詰製作所 / 焼きイモのしっとりタルトケーキ 118g 800円

    黒潮町缶詰製作所 / 焼きイモのしっとりタルトケーキ 118g 800円

黒潮町の美味が総動員

高知県にはおいしいものが溢れている。カツオは一年を通して水揚げされるし、野菜類も安くて新鮮。天日塩を作る製塩所がたくさんあるし、サトウキビから砂糖も作っている。うらやましい限りであります。

その高知県の西部にある黒潮町缶詰製作所が、新たなスイーツ缶詰「焼きイモのしっとりタルトケーキ」を生み出した。ツナ缶と同じサイズなのにずっしりと重いのは(内容量118g、同サイズの普通のツナ缶は70~80gほど)、中に黒潮町の美味が総動員されているから。

驚くのは、中身が4層構造になっていることだ。恐らく世界でも初めての試みだと思う。

  • 焼きイモのしっとりタルトケーキの外観と内観

    焼きイモのしっとりタルトケーキの外観と内観

表面がスマイリー

フタを開けて最初に目につくのは、カラメル色の透明な層だ。黒潮町産の黒糖とカラメルソースを寒天で固めたジュレである。

その表面には"スマイリー"な刻印がされているように見えるけど、わざわざ刻印したわけじゃない。中身がぎゅうぎゅうに詰まっているため、フタの裏側の凹凸が移ったのだ。こんな現象が起こるほどすきまなく詰めこんだということ。これも缶界ではレアなケースだ。

  • 焼きイモのしっとりタルトケーキの断面

    焼きイモのしっとりタルトケーキの断面

なぜここまで凝ったのか?

一部をカットして取り出すと、断層が見えた。これが4層の全貌であります。

製造工程の順で説明すると、まず缶底にコーヒー味のタルト生地を敷き詰める。その上に焼き芋(品種は紅はるか)のペーストを重ね、さらに輪切りにした焼き芋(直径約5cm、厚さ約2cm)を乗せて、最後に黒糖とカラメルソースのジュレで覆っているのだ。その合計が4層になるわけ。

細かい作業になるため、工場では1缶ずつ手作業で詰めている。もちろん大量生産は不可能。なぜ、ここまで凝ったのか?

  • 缶から直にいただく

    缶から直にいただく

ケーキなのに小麦、乳、卵は不使用

黒潮町缶詰製作所は、製造するすべての缶詰が災害備蓄食として開発されている。この焼きイモのしっとりタルトケーキも、東日本大震災で被災した人たちの「避難生活で、実は甘いものが食べたかった」という声を元に開発されたのだ。

災害時にこそおいしいものを食べてほしいから、サツマイモは丁寧に追熟して甘さを引き出してから使っている。黒糖とカラメルソースのジュレにはバニラとレモンの香りを加え、缶底のタルトはコーヒー味。焼き芋の自然な甘さにそれらの洋菓子的な風味が加わって、オーソドックスかつ本格的な味だ。

さらに、この缶詰には7大アレルゲン(小麦、乳、卵、ピーナッツ、そば、えび、かに)が使われていない。災害時に配布された際、アレルギー体質の人でも安心して食べられるようにという配慮からだが、そもそもこれはケーキである。なのに小麦や乳、卵が使われていないなんて、驚くほかない。

缶詰情報
黒潮町缶詰製作所/焼きイモのしっとりタルトケーキ 118g 800円
同社のショッピングサイト等で購入可