幼少期から熱血ドラマオタクというライターの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第38回は俳優の松下洸平さんについて。現在、朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)に出演する松下さん。2019年、そろそろいい男たちも出尽くしたと油断していたところに沸いて出てきた、刺客と呼びたいところです。毎日、朝ドラの放送終了後には『#八郎沼』という、彼の現在演じている役名を含んだハッシュタグでSNSが盛り上がるほどの人気ぶりです。何がそんなに私たちの心を揺さぶってくるのかを少しだけ検証してみましょう。

  • 『スカーレット』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~)に出演中の松下洸平

    『スカーレット』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~)に出演中の松下洸平
    『スカーレット』第80話の場面写真 (C)NHK

八郎さんは疲れた現代女性たちの理想男性像

舞台は滋賀県、信楽。地元に生まれ育った川原喜美子(戸田恵梨香)は、かつて信楽焼火鉢の絵付け師として丸熊陶業で働いていた。そこで出会った、十代田八郎(松下洸平)。物作りというひとつの共通項を重ねて、二人の距離は急接近、結婚へ。そして夫婦で工房を立ち上げて、器づくりに力を入れていく。

というのが『スカーレット』のあらすじ。紆余曲折を経て、喜美子と八郎には子供まで誕生している。喜美子の父親の容態も思わしくなく、物語はひとつヤマを迎えたようなイメージだ。この作品に確か第8週から松下さんは登場、その直後から恋のお相手になるのではと視聴者の予想合戦が始まり、その模様を見ながらヤキモキしていた。

意外だったのは八郎さんのビジュアルだ。舞台を中心に活躍している俳優さんらしいが、どこか素朴さの抜けない雰囲気イケメンは昨今の朝ドラヒーローでは、すごく新鮮だった。ふと喜美子と並んでいる姿を見ると、昔、戸田恵梨香さんと加瀬亮さんが主演した『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』(TBS系・2010年)を思い出したのは私だけだろうか。でもそんな見た目とは裏腹に、

「好きな人のためやったら かまへん。何でもできる」

「(貴美子が)いてるだけでええよ。横に……いてくれるだけで」

こんなうっとりセリフを連発。確かに超絶イケメンの言う甘い台詞よりも、朴訥とした雰囲気のある男性の愛の台詞は説得力がある。そして八郎さんは、戦後の『男子たる者』という風潮をそのまま表現したような、堅物なところがある。結婚するまでは女性のファーストネームを呼ばない、当たり前だけど手も出さない。女を盾にすることなく自分の背後に下がらせて、どこまでも守ってくれる。どうしても譲れない夢がある。色々並べてみると、面倒臭いところもあるのだけど最終的には優しさが残る。それが八郎さんだ。

五代様を思い起こす、十代田さんブームの予感

八郎さんにはちょっと参ってしまった。今、自分が『女性はもっと自由に強く生きよう』という本を書いていて(プロフィール参照)、男女同権を推している。そしてその意見に賛成してくれる読者の方たちがたくさんいて、令和も捨てたもんじゃないと思っていた。でも八郎さんの真っ直ぐな姿勢にキュン死にしている女性が多いということは、やはり男性の背中を頼っていきたい願望がどこかにあるのだとしみじみ。そして誠実さに敵う恋愛の武器はないのだとも悟った。

きっと松下さんはこの朝ドラを終えても、また違う形でブームを起こしそうな予感がする。先日『あさイチ』(NHK総合)でトークゲストとして出演していたシーンをチラ見したのだけど、八郎さんそのものの真面目さが光っていた。と、同時に若干の天然っぽさの香りを察知したのは私だけだろうか?

トークが進んでいくと、自身が音楽制作をしていることを話していた。朝ドラ出身、天然、ミュージシャン……この点と点を繋いでいくと、浮かんでくるのは五代様(注:『あさが来た』(NHK総合 2015年)でディーン・フジオカが演じた五代友厚役のこと)。ひょっとしたら年明けくらいに、私たちは松下さんのことを、

「十代田様!」

なんて呼んでいるのだろうか。それはないか。だって貴美子の旦那さんだもんね。そしてどうか夫婦ふたりの間に、器のようなヒビが入らないことを願って。

小林久乃

ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。地元タウン誌から始まり、女性誌、情報誌の編集部員を経てフリーランスへ。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事も持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には10万部を超えるベストセラーも。最新刊は『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。