幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第136回は女優の西野七瀬さんについて。輝かしいアイドル時代のイメージが強かっただけに、芝居人としての彼女を多く知らない。ただ今回の『1122 いいふうふ』(Prime Video)で演じた柏木美月役は、良い意味で強烈だった。今までの彼女に対するパブリックではない、勝手なイメージも覆ってしまったので、その感想を記したい。

生活に疲れた専業主婦の役が似合う

  • 西野七瀬

現在Prime Videoにて配信中『1122 いいふうふ』のあらすじを。

フリーランスのWEBデザイナー・相原一子(高畑充希)と会社員の二也(岡田将生)は仲の良い夫婦……ではあるのだが、実はセックスレス。妻公認の元、二也は毎月第三木曜の夜になると、柏木美月(西野七瀬)と不倫をしている。美月もまた、かつて同僚だった夫の志朗(高良健吾)がいるという、W不倫。一子も公認とは言いながら、複雑な気持ちを抑えきれないでいた。

この作品、既婚、未婚に関わらず、人との対峙、自分との向き合い方を教えてくれるドラマ。そんなことを書くと「よくある感想だ」と、無粋な一文に読めるかもしれないが、実際にこれ以上の表現が見当たらないほど、繊細にドラマが作られていた。

つい世間体を気にして「自分がどうしたいのか」に思い迷う一子。ただ思い切りのいい性格で、家庭ではどちらかというと引っ張っていくタイプに見えた。反するように優しさが滲み出ている、二也。でも一旦キレ始めると止まらないのは、女性らしい……と書くと、昨今、問題視されそうだ。しかし、演じた岡田将生はとんでもないイケメンなのに「あれ? ちょっと違う?」という疑問を抱かせる役が本当に上手い。エリートで自分主義の志朗を演じた高良健吾も同じく。ちょっとヤバくて、嫌な奴を演じさせたら完璧で、そこから徐々に変わっていく姿を魅せる演技も本作では、じわじわと伝わってくる。

役者の小さな機微が肩を寄せ合うようにして、『1122 いいふうふ』はできている。そしてもうひとり、柏木美月がいる。愛する一人息子は発達障害を抱えており、育児にとにかく手がかかる。そんな時に手を差し伸べてくれたのが華道教室で出会った、二也だった。

突然変異する女性の表現が見どころ

美月を演じた西野七瀬は、登場したシーンから全く冴えなかった。歌番組で見かけていた時は、可憐さを振り撒いていたのに可愛くなかった。演じた美月はひたすら疲れていた。普通の家事育児だけでも心身をすり減らすのに、発達障害の息子は母に手加減してくれない。夫は歩み寄ることもせず「家のことは任せるから」と、昭和の親父のようなセリフを吐く。そして求めてくるのは体ばかり。

「あなたのそういう常に人を小馬鹿にして、平常心を保とうとするところ、大っ嫌い!」

ストレスの塊だった美月はだんだん今までの鬱憤を爆破させていく。それによって、柏木家は良い方向へ向かうのだが、被害者は二也だった。あまり書くと盛大なネタバレになるので控えるが(見た人はきっと分かるはず)、つい、令和版の阿部定のような行為に及んでしまう。「え? さっきまで大人しい女性だったのに?」とこちらは、一瞬、キツネにつままれたような気分に……。ああ、美月から醸し出されていた冴えない雰囲気は、このシーンのためだったのかと納得をした。

その演技を見ながら、これが西野七瀬の演技のハイライトだと思った。彼女が女優として全国区で知られるようになったのは、『あなたの番です』(日本テレビ系・2019年)の黒島沙和。視聴者を巻き込んだ考察系ドラマで、堂々の黒幕を演じた。『恋なんて、本気でやってどうするの?』(関西テレビ、フジテレビ系・2022年)で演じた清宮響子は、専業主婦、セックスレスという設定が美月に似ていた。

「私、そんなつもりはないのに……」と匂わせておきながら、突然豹変する女性がよく似合う。ご本人も『グータンヌーボ2』(関西テレビ、フジテレビ系)での様子を見ていると、どこか飄々としているイメージがある。ひょっとすると、私生活でも突然、熱量を発射する一面もあるのだろうか。でも夫は国民的高純度男の山田裕貴。きっと優しく受け止めるのだろうと想像しながら、筆を置きたい。