幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第127回は女優の仲里依紗さんについて。この方を語るうえで演技力、存在感といった類の言葉が、すべて薄っぺらいものに感じてしまう。日本で唯一の「YouTuber兼女優」の肩書きを持つ、生きるエナジードリンクの仲さんについて、ここで推薦文章を書いてみたい。
毎週ボルテージが高まる「ふてほど」
まずは仲さんが出演するドラマ『不適切にもほどがある!(以下『ふてほど』略)』(TBS系)のあらすじを。
昭和に体育教師として生きていた小川市郎(阿部サダヲ)は、ある日から令和とタイムスリップで行き来できるようになる。令和で孫の犬島渚(仲)らに会い、新しい文化に触れていく市郎。その最中、阪神大震災で娘の純子(河合優実)とともに、自分が亡くなっていたことを知ることになってしまう。
冬ドラマでは(個人的に)説明不要、問答無用でぶっちぎりに面白い『ふてほど』。多様性を重んじるあまり、行きすぎてしまった令和の文化に対する昭和からのアラート……など、放送中に飛び交う感想。それを読んで共感するのも面白い。ただそれ以上に我が推しであるクドカンの脚本というだけで、ボルテージは高まっている。最終回が来なければいいのに。
『ふてほど』で仲さんが演じているのは、シングルマザーでテレビ局に勤務する犬島渚。役名だけで何やら漂ってくるものがある。昭和からタイムスリップしてきた市郎に当初は恋心らしきものを抱くものの、彼が自分の祖父だと知ることになる。
彼女の演技の特徴なのだろうか。「……えぇ?」と少し溜めを作って気だるそうにセリフを吐く雰囲気がいい。加えて『離婚しようよ』(Netflix)で見られたような、我慢を爆破させてキレる演技もまたそそられる。
「乳幼児の母親は、ビールの一杯も飲んじゃいけないんですか!?」
『ふてほど』恒例のミュージカルシーンでの、歌いっぷりも良かった。そう、彼女は大手事務所に所属して、キャリアも人気も申し分のない女優だ。ただ自称しているもうひとつの肩書きが、多くの人に勇気と希望を持たせる“ロールモデル”に見えるのは私だけだろうか。
超然とした雰囲気が光るYouTuber兼女優
巷で話題になっている、仲さんのYouTube公式チャンネルを見た所感は「これは本物だ」だった。
スタート当初は自ら編集していたという動画は、一言で表すのなら自我の覚醒に見えた。芸能界に身を置いてから、いわゆる美形の正統派女優として売り出していたはずだ。それが本人に表現できる場を設けたことがトリガーとなって、ど派手なスタイリングに、超ハイテンション、やや早口で楽しそうな喋り方など、今までの女優・仲里依紗には見られなかった本音が現れ始めた。
強烈なキャラクターに視聴者はドン引きするのかと思いきや、YouTubeの人気は上昇。チャンネル登録者数は200万人に届く勢いとなっている。ついでに当初は叩きまくっていたマスコミも、彼女の本音にはついていけなくなっている。
その様子を見ながら、かつての野沢直子を思い出した。絶大な人気を誇っていた90年代初頭、突然愛する人を追いかけて渡米した野沢の背中を、世間はなかなか理解することができずにいた。アメリカではバンドを組み、舞台にも立ち、仲さんと同じく、ど派手なコーディネートに身を包んでいた。やはり、すこぶる楽しそうだった。人生の選択をいつも「楽しいか、楽しくないか」という直感だけで選んでいそうな気配に、遠く日本から憧れたものである。
仲さんYouTubeも同じような力がある。海外に行ったり、色の洪水になっている自室から質問に答えたり、コストコで爆買いをしている様子は、十把一絡げにされがちなYouTuberと変わらない。けれどそこに垂れるのは、一滴の"本物"。彼女はただ登録者数を稼ぐために、何かを犠牲にしていない。「私は私」という、ゆるぎない意志が伝えているだけなのだ。
あれこれ書いて見たけれど、最後に言いたいのは、まずはYouTube『仲里依紗です。』を見てくれ、ということ。最初は呆気に取られても、だんだん癖になり、そのうちアーカイブを追うようになると思う。毎日悩んでいることがバカらしくなるので、流行りの啓発本を読むよりも、明日からのエナジーチャージには効果てきめんだ。