幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第118回は俳優の大沢たかおさんについて。名前を聞くと「映画『キングダム』で、めっちゃ鍛えて体格が良かった俳優さん」と思う人も多いはず。が、彼は平成に青春期を過ごした女性たちにとって、憧れの人だった。竹野内豊、反町隆史、安藤政信らと並び、いい男として世を席巻した。そして令和になった今も変わらず、魅力を大量に噴出し続けている。その魅力の要素について、私の記憶を辿りたい。

初の月9出演では穏やかな役柄に

  • 大沢たかお

まずは現在、大沢さんが出演する『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~(以下、ONE DAY略)』(フジテレビ系)のあらすじを。

クリスマスイブに起きた1日を、1本の連続ドラマで追いかける。物語は大きく3つに分かれている。まずは記憶喪失となった勝呂寺誠司(二宮和也)は、気がつくと死体の前にいた。犯人として疑われ、逃げ続けることに。そんな誠司が一瞬逃げ込んだレストランのシェフ、立葵時生(大沢)。わずかなハプニングからデミグラスソースを失い、ついには食材も失ってしまい、イブにディナーを提供できないかもしれない窮地に。報道キャスターの倉内桔梗(中谷美紀)は、誠司と同級生であることに気づき、事件の真相に近づこうとする。

前クールの『真夏のシンデレラ』から続く、ザ月9の復活を感じる『ONE DAY』。最近、ハロウィーンムードに押され、収縮気味になっているクリスマスイブがテーマに。そこはかとなく、トレンディドラマの香りが漂ってくる。

キャストはあらすじに挙げた月9初主演の3人を中心に「月9といえばこのお方!」の江口洋介、佐藤浩市らが脇を固めている。物語のテンポも良いし、頭脳を駆使するほどの伏線が張られているわけでもないで、落ち着いて見られる物語だ。敢えて申すのなら「第1話で誠司に電話をかけてきたのは、蜜谷満作(江口)だよね?」は気になった。次週の放送が楽しみだ。

と、こんな月9で大沢さんが演じている、レストラン『葵亭』を舞台にした立葵時生のターン。ここだけはスピード感ある展開は身をひそめ、和やかな雰囲気を醸し出している。さらにやや天然ぽさを感じる、穏やかな彼の性格も加わる。殺人事件に若干足を突っ込んでしまったものの、時生の最終目標はお客様にクリスマスディナーを提供すること。日曜のクリスマスイブに、このミッションが達成できるようにと、ドラマ見ながらつい願ってしまう。でも時生が犯人だったら、どど、どうしよう……。

大沢たかお・55歳というミラクルを見た

映画で活躍している印象の強い大沢さん。ただかつては『君といた夏』、『若者のすべて』(ともにフジテレビ系・1994年)、『美しい人』(1995年)、『昔の男』(2001年・ともにTBS系)など、ドラマに連続出演。そして『JIN―仁―』(TBS系 2011年)の医師役で老若男女問わず、確実な人気に鎮座。今回の月9出演も彼が地上波のドラマに出る、というだけでトピックスに上がるほどだった。

中でも(当時の)若い女性たちの心を押さえ込んだ役は『星の金貨』(日本テレビ系 1995年)の永井秀一役ではないだろうか……ああ、脳内にこだまする、主題歌だった「碧いうさぎ」。医者の秀一役は記憶喪失になったり、好きな人と結ばれなかったり。果てはどうでもいい恨みを買わされて殺害されたりと、何かとハードな人生を送る役だった。が、優しげな印象は、大沢さんのパブリックイメージと重なっていたことを思い出す。先に挙げた平成の色男たち(竹野内豊、反町隆史、安藤政信ら)とは、風貌も違う。切れ長な目に優しげな雰囲気。わかりやすく表現するのなら『花より男子』の花沢類だ。

一時期は活動休止もされていたけれど、55歳になった今も変わらない印象のまま、ドラマに戻ってきてくれて本当にうれしい。何もできないけれど、この文章でそっとエールを送りたい。

ラストに思いの丈として書きたいのが、かつての結婚生活のことである。ググってもらえば分かるが、当時人気絶頂だったシンガーソングライターと、1999年に突然結婚発表。当時、まだこの世を何も知らないお子様だった私には衝撃だった。彼のようなイケメンは、女優やモデル、なんならアナウンサーと世帯を持つような定番説があったからだ。一報に友人とともに打ちひしがれ、ワイドショーを一緒に見た。

「彼女はとても明るくて、前向き。そういうところに惹かれました。話しが合うし、一緒にいると過ぎていくのがすごく早いんですよ、時間が」

会見で妻の魅力をこう語っていた。せめて明るく前向きな女になろうと、友人とカラオケに行って『ゲレンデが溶けるほど恋したい』や『ロマンスの神様』を熱唱した。それも彼というフィルターを通した、いい思い出だなあと中年になって思い出しながら、このコラムを書いた。結婚生活もうまくいかなかったらしいが、大沢さんが独身に戻ってくれたのなら、それでいいのだ。