コミュニケーションを取る中で、知らず知らずのうちに相手を不快にさせていたり、自身の評価が下がっていたり。そんな状況は避けたいものです。この「知らず知らずのうちに」という点において、ビジネスメールは対面や電話によるコミュニケーションよりもリスクが高いと言えます。

なぜリスクが高いのでしょうか。それは時間や空間を共有していないからです。対面や電話の場合には、相手の反応がリアルタイムで得られます。会話の中で、言い間違いをしてしまうこともありますよね。その際、相手が言い間違いを指摘してくれたり、相手の反応を見て、自身の言い間違いに気づいたりすることがあります。

この言い間違いにあたるのが、メールでは「誤字・脱字」です。メールは、相手の反応がリアルタイムで得られません。そのため「誤字・脱字」には気づきづらいのが特徴。自覚のないまま「知らず知らずのうちに」トラブルを招くリスクが高いのです。

受付で名前を伝えたところ、相手に間違えて復唱されたという経験はありませんか。対面や電話であれば、その場ですぐに訂正しますよね。一方、届いたメールで自分の名前が間違っていたらどうでしょう。その間違いをわざわざ相手に指摘するケースは意外と少ないのではないでしょうか。自身には「失礼な人」あるいは「そそっかしい人」という印象が残り、相手には不快感だけが残ってしまう。ビジネスメールにおける「誤字・脱字」の怖さはここにあります。

過剰な確認は業務時間を圧迫

それでは、「誤字・脱字」をなくすためには、どのような方法があるでしょうか。例えば、次のような対策があります。

  • 印刷して読む
  • 声に出して読む
  • 時間をおいてから読み返す
  • 第三者にダブルチェックしてもらう

確かに、いずれの対策も「誤字・脱字」をなくす効果が期待できます。重要な契約に関するメール、あるいはお詫びなどデリケートな内容のメールであれば、これらの対策を取り入れるのもいいでしょう。

しかし、そこまでメールに時間を費やしたくないというのが、多くの人の本音ではないでしょうか。すべてのメールを慎重にチェックすれば、当然、他の業務時間は圧迫されます。働き方改革による生産性の向上が叫ばれる今、それは得策とは言えません。必要以上に時間をかけることなく、それでいて致命的なミスは犯さない。そうした工夫が必要になります。

ポイントを押さえ、致命傷を予防

ビジネスメールでは、特に「誤字・脱字」のないよう注意すべきポイントがあります。ここでは三つのポイントをもとに、致命的なミスを防ぐ方法を紹介します。

(1)宛名

メールを開いたらまず目にするところが宛名。ここでつまずくのは避けたいところ。会社名や名前が間違っていても気にしないという人もいますが、皆がそうとは限りません。ここで失礼だと思われてしまえば、先のコミュニケーションが円滑には進みません。

宛名の間違いをなくすためにはコピー・アンド・ペーストが効果的です。宛名の間違いは、初めての相手や、馴染みの薄い相手の場合に起こりがちなミス。返信メールであれば相手の署名を、フォームからの問い合わせ対応であれば、相手が入力したものをコピーして貼り付けることで間違いはなくせます。

(2)日付

仕事の納期や商談のアポイントメントなど、日付の間違いは、著しい信用の低下に直結します。メールでは「10月8日(金)」のように、日付と曜日は必ずセットで伝えましょう。曜日を意識することで自身の勘違いに気づくこともありますし、万一、誤った日付を記載してしまった場合にも、相手の方が指摘してくれる可能性が高まります。

(3)数量や金額

仕事の中では、数字を扱う場面も多々あります。特に数量や金額の間違いは大きな損害につながりかねません。1,000個注文するはずだった商品が10,000個届いてしまった。3,000,000円のサービスを300,000円と伝えてしまった。桁が大きくなればなるほど、間違ったときの損害も莫大に。数字を記載する際には「,」(コンマ)を打つことを習慣にしましょう。「3,00,000」のように記載ミスをしても、パッと見たときの違和感により間違いに気づきやすくなります。

「速さ」と「正確さ」の両立を

時間をかけることなく「誤字・脱字」をなくすためは、「単語登録」がおすすめ。「単語登録」は、変換しても表示されないような語句を登録できる機能ですが、文章にも応用ができます。例えば「いつも」と入力をして変換すると「いつもお世話になっております」と表示されるよう設定することもできます。以下のように、挨拶や名乗りなど使用頻度の高い文章は、あらかじめ登録しておくことで「誤字・脱字」をなくすことができます。

「いつも」→「いつもお世話になっております」
「よろ」→「よろしくお願いいたします」
「びじ」→「一般社団法人日本ビジネスメール協会の井上賢治です」

「単語登録」のメリットは「誤字・脱字」をなくすだけではありません。キータッチの数が減りますので、入力に費やす時間も大幅に削減できます。送信前にメールを読み返すとしても、「単語登録」によって書いたところはチェックする必要がないため、ポイントとなる箇所だけに絞って確認することができます。見るべきポイントが絞られれば、それだけ「誤字・脱字」に気づく可能性も高まる。「単語登録」の活用が好循環を生み出します。

「誤字・脱字」を完全になくすことは難しいかもしれません。それでも工夫によってリスクを最小化することはできます。自身の業務の中で注意すべきポイントをしっかりと押さえ、改善に努めましょう。「誤字・脱字」によってお詫びや訂正のメールを送ることになれば、それだけコミュニケーション効率は低下します。無駄なコミュニケーションエラーをなくすことが、生産性の向上をもたらし、仕事の成果にもつながるのです。