世の中の大半の仕事は、人がいることによって成り立つ。そもそも取引先がいなければ仕事の受注がないわけだし、上司や先輩のサポートもなくいきなりバリバリと業務はこなせない。

多くの他人が関係してくる以上、相手に対する敬意やマナーが必要となってくる。だが、職場で使用するツールの使い方や業務上必要なタスクを先輩社員からレクチャーされることはあっても、ビジネスマナーをイチから教えてもらった機会がある社会人は少ないはずだ。そのような人は、無自覚のうちに礼節を欠いた態度をとってしまい、ビジネスチャンスを逸してしまう恐れがある。

そこで本連載では、筑波大学および札幌国際大学の客員教授を務めながら、大学や官公庁などで「職場に活かすおもてなしの心」をテーマとした講演や研修を手掛ける江上いずみ氏に、社会人として知っておくべきビジネスマナーを解説してもらう。

  • 言葉のルール、知っていますか?

    言葉のルール、知っていますか?

第3回連載では「言葉づかい」のうち、「敬語動詞」の使い方についてお話しました。ビジネスマナーとして敬語は本当に大切です。しかし、敬語さえ使えばいいというわけではありません。こういった敬語だけではなく、お客様や上司に使ってはいけない言葉というものがあります。これは学校教育では習わないため、知らない新社会人も多いと思われます。この機会にぜひ覚えておきましょう。

 敬語だけではない言葉のルール

「ごめんなさい」「すみません」。若い部下が、上司に対して平気でこうした言葉を使うことがあります。これらの言葉は、親しい同僚や仲間には使ってもかまいません。しかし、ビジネスの場面、特にお客様や上司に対して謝罪の気持ちをしっかりと込めるのであれば、「申し訳ありません」「申し訳ございません」「失礼いたしました」と言うべきです。

ここからは、ビジネスの場面で間違って使われている言葉をいくつか挙げてみます。就活生や新社会人のみならず、社会で活躍する多くの皆様に、ご自身の言葉や同僚、部下など周囲で聞かれる言葉を思い返してみていただきたいと思います。

「ご苦労さまでした」は×、「お疲れさまでした」は○(△)

「お疲れさま」「ご苦労さま」はどちらも相手をねぎらう言葉ですが、使う相手を間違えると相手は気分を害してしまう可能性もあります。「ご苦労さま」には「奉仕」というニュアンスが伴い、目上の人が目下の者に対して使うねぎらいの言葉なので、上司や先輩、お客様に対して使うのは失礼にあたります。

就職活動中、面接終了時に「はい、今日はこれで結構です。ご苦労さまでした」と言った面接官に対し「ありがとうございます。ご苦労さまでした」などとは決して言いません。

では「お疲れさまでした」はどうでしょうか。企業の新任研修においては、「『ご苦労さまでした』は目上の人から目下の人に、『お疲れさまでした』は同僚、目上の人に対して使うもの」と教えているところがほとんどです。

従来は「目上の者に対しては、ねぎらったり、評価したりしてはならない」というのが日本社会の決まりでした。従って「お疲れさまでした」も使うべきではない、というのがいわば常識でした。

しかし現在では、世の中全体に「お疲れさまでした」が広く浸透し、身分、立場の上下に関係なく用いられる挨拶言葉として定着してきました。「お疲れさまでした。お先に失礼いたします」と帰社する際などの挨拶として、目下の人が上司に対して利用しても違和感はないと思います。

それでも上司が比較的年配の人の場合には、「お疲れさま=目上の人への挨拶」という意識がないため、気分を害してしまう可能性があります。新社会人として無難に「今日もご指導いただきありがとうございました。お先に失礼いたします」などの言葉にかえて挨拶をするとさらに好感度が高まるといえます。

 出社直後の「お疲れさまです」はNG

もう一つお伝えしたいのが「お疲れさまです」という言葉のタイミングです。 「お疲れさまです」は相手の労をねぎらう意で用いる言葉、あるいは職場で先に帰る人への挨拶の言葉です。従って、使うタイミングとしては、相手が一仕事終えて席に戻ってきたときや、一日の仕事を終えて帰ろうとしているときなど、相手が「疲れていると思われる」ときにかけるのが相応しいということになります。社内ですれ違う際に「お疲れさまです」と声を掛け合うのも、お互いにそれまで仕事をしてきたその労をねぎらうという意味での挨拶になります。

ですから、朝出社してきてすぐ、これから仕事を始めるというタイミングで顔を合わせたときに「お疲れさまです」というのはふさわしくありません。出社して開口一番、上司や先輩にかける言葉は「お疲れさまです」ではなく、「おはようございます」「今日もよろしくお願いいたします」といった挨拶の言葉にしましょう。