悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、テレワーク(在宅勤務)となり、日ごろ偉そうな上司がパソコンもできず、使えない人に感じてイライラしてしまう、と悩んでいる人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「テレワーク中、上司がパソコンをできなさすぎて何もせずイライラします。いつも偉そうなのに……」(25歳女性/事務職)
新型コロナウイルスの勢いが止まらず、ビジネスのあり方や仕事の仕方にも大きな影響を与えています。そこで前回に続き、テレワーク関連のお悩みにお答えしたいと思います。
とはいえ、このご相談は、「上司がパソコンをできない」ということだけでは片づけられない問題でもありそうです。なぜなら、後ろの「いつも偉そうなのに……」という部分に問題が集約されているから。
たしかに上司はパソコンを苦手なのかもしれませんが、そのことよりも先にあるのは「偉そうな上司が気に入らない」という感情。「いつも偉そう」だから、「パソコンをできなさすぎることにイライラ」してしまう順序なのです。
しかも、そういう上司に限って、パソコンが苦手であることにツッコミを入れたりすると、よけい感情的になったりしますから厄介ですね。
でも、それは簡単な話です。「コンプレックスを指摘された」という思いがあるからキレて、「部下のくせに生意気な!」というような、理不尽なことを言い出すのです。なぜなら、恥ずかしいから。
だとすれば重要なのは、上司に「できないことをできるようになってもらう」ことではないでしょうか? となると教える必要性が生じるわけですが、そこにコツがあります。
危険なのは、「教えてあげる」という態度を出すこと。いうまでもなく、「なんだ偉そうに」とキレられる可能性があるからです。したがって、ここではあえて大人の対応をすべき。上司を傷つけないように、でも(相手に気づかれないようにしながら)、しっかりコントロールしてしまうわけです。
「そこまでしなければならないなんて……」と思われるかもしれませんが、本人に気づかれないように操ることができれば、それはそれで痛快ですよ。
たとえば今回ご紹介する本を紹介するといいと思うのですが、「読んで勉強してみてください」と突き放した態度で渡したら、当然ながら角が立ちます。
でも、「たまたまこの本を読んでみたら、すごく勉強になったんです。すごくためになると思うので、○○さんにも読んでいただきたくて」というように、「ぜひ勧めたい」のだという気持ちを前面に押し出してみたらどうでしょう?
上司が「そうか、だったら読んでみるか」という気持ちになる可能性は決して少なくないはずです。そこでまた「読んでやるか」と偉そうな態度をとるかもしれませんが、心のなかで笑っていればいいのです。
媚びていると思われないようにする必要はありますが、こちらに余裕があれば、決して難しくはないと思います。
テレワークの基礎を学ぶ
『あなたのいるところが仕事場になる ~「経営」「ワークスタイル」「地域社会」が一変するテレワーク社会の到来~』(森本登志男 著、大和書房)の著者は、マイクロソフトを経て、2011年に佐賀県の最高情報統括監(CIO)に就任した人物。
ICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)活用の観点から県庁経営に参画し、ICTを活用した県庁全体の業務改革の推進。基幹情報システムの運用コストの大幅削減を達成し、4,000人の全職員を対象としたテレワークを導入したという実績の持ち主です。
全国各地でも地方創生の取組みやテレワーク導入の支援を行っているというところからもわかるとおり、いわばテレワークの第一人者。本書ではそのような立場から、テレワークがもたらす「新たな働き方」を解説しているのです。
本書では「地方」「企業」「働き手」の3つの立場が違う視点から、テレワークの必要性とその効果について掘り下げていきますが、この3者の中では、「企業」が最も課題解決に近い場所にいると考えています。「企業」は導入に腹を決めれば、先行事例などからそのエッセンスを学ぶことで、先人が経験したほどの壁を感じずにテレワークを始められ、課題解決につなげられる可能性が高いです。働き方改革に舵を切る企業が増えれば、「働き手」は最適な会社を調べる選択肢が増えます。(「はじめに」より)
たとえばこのように、テレワークを広い視野に基づいて解説しています。テレワークによって社会がどう変わるかが理解でき、著者のいる佐賀県庁などのテレワークの先行事例も紹介されているので、パソコンが苦手な上司も、テレワークの基礎を学べることでしょう。
生産性を高めることを意識する
さて、続いてご紹介する『リモートチームでうまくいく』(倉貫義人 著、日本実業出版社)の冒頭には、次のように書かれています。
本書は、従来の日本人の働き方であった、社員全員が毎日当たり前に会社に通勤して、そこで顔を合わせて会議なり仕事なりをするようなワークスタイルに対して、新しい会社のあり方であり、新しいワークスタイルでもある「リモートチーム」を提案するものです。(「はじめに」より)
つまり、テレワークと同義であると考えてよさそうです。
ちなみにこのリモートチームという働き方の提案は、すべて著者の会社で実践し、成果を上げてきたものなのだとか。
そんな実績があるからこそ、著者はリモートチームの可能性を力強く保証しているのです。リモートチームを取り入れることで、会社に属することで得られる安定した仕事と、助け合える仲間の存在、そして自分の好きな場所で働ける自由、そのすべてを実験できるようになるのだと。
つまり本書ではそのメリットが、事例とともに具体的に紹介されているわけです。たとえば、時間の節約による生産性アップについては、次のような記述があります。
リモートチームを採用することによる最もわかりやすい効果は、時間の節約による生産性の向上です。これまでの働き方での仕事中の移動時間や待ち時間など、どうしてもかかっていた時間が、リモートワークを導入することでなくなり、その時間を生産的な仕事にまわすことができるようになります。(27ページより)
新型コロナの一件で実感している方も多いと思われますが、当然ながら通勤時間がゼロになるので時間やストレスを軽減することが可能。ミーティングもインターネットを介してパソコンで行うことができるのですから、会議も不要。
しかもリモートワークを始めると、働く人の意識も変わってくるといいます。オフィスに行きさえすれば仕事をしているとみなされる状態ではなくなるため、成果を出すことが求められるわけです。
つまり、いっそう成果を意識した働き方をメンバーに促すことになり、チーム全体の生産性を高められるということ。そうした働き方に変わっていけば、偉そうな上司も変わってくるかもしれません。なにしろ、成果を出さないと話にならないのですから。
まずは「メール」から始めよう
さて最後に、「パソコンをできなさすぎる」上司を改善するために役立ちそうなメソッドもご紹介しておきましょう。
『【改訂新版】ビジネスメールの書き方・送り方』(平野友朗 著、あさ出版)がそれ。日本ビジネスメール協会の代表理事である著者が、ビジネスをバックアップしてくれる“メール・テクニック”を明かしたものです。
メールはいまやビジネスに欠かすことのできないコミュニケーションツールですが、とくに年齢を重ねた上司のなかには、基礎的なことを学ばないまま、独自のやり方でメールを使っている人も少なくありません。
そういう人からメールを受け取って、「読みにくい」と感じた経験は誰にでもあるのではないでしょうか?
本質を知ることなく、「自己流」を身につけてしまった人ほど、小手先のテクニックに走りやすいものです。ビジネス文書のサンプルから、もっともらしい表現を借りてくれば、確かに体裁を整えることはできるでしょう。しかし、テクニックを駆使して表現の幅を広げることはできても、そのメールが相手に好印象を与えるかどうかは別問題。「うまいメール=好かれるメール」とは限りません。気の利いたフレーズを並べても、文章構成が巧みでも、それがすべての人の心に響くわけではないのです。(「プロローグ」より)
この「心に響く」という部分に対する配慮が欠けている人は確実に存在しますし、上司世代に多いような印象を個人的には持っています。だからこそ、「ビジネスメールの基礎と、その本質的な考えを理解したうえで、日常業務で使える実践的な『メール力』を身につけることを狙いとしている」という本書は役に立つのではないかと思うわけです。
上司がメール力を身につけてくれれば、些細なトラブルを避けることができるのですから。
Q&A形式で疑問を解消できるページも多く、たとえば「相手に確実に理解してもらえるメールを書くには?」という質問には「メールの目的は『伝える』こと。専門用語やカタカナ語はわかりやすい言葉に言い換えよう!」と書かれています。シンプルでわかりやすいこうしたコツを上司に身につけてもらえば、受けるストレスを軽減できるようになるかもしれません。
このように、カチンとくる上司は、あえて大人になり、さりげなく、ゆる~くコントロールすればいいのではないでしょうか? それが実現できれば、今回のテレワーク騒動もメリットになりそうな気がします。