悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「理不尽なことが多い」と悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「理不尽なことが多くて疲れる」(31歳男性/営業関連)
社会生活を送るなかで、「納得できない」と思わずにいられないことは少なくありません。残念ながら、「一生懸命、誠実に仕事をしているのに不誠実な対応をとられる」などということもよくある話。
ですから、理不尽なことが多すぎて疲れてしまうという気持ちもよーくわかります。
ただし、自分が疲れていようが理不尽さを感じていようが、相手にとっては「どうでもいいこと」だったりするのも事実。だとしたら可能な限りストレスをなくし、少しでも楽に生きられる方法を模索するべきではないでしょうか?
そもそも理不尽な目に遭ったりすると、劣等感やネガティブ思考に悩まされることになるかもしれないのですから。
ネガティブ思考から抜け出す7つの方法
『悩みの多い30歳へ。世界最高の人材たちと働きながら学んだ自分らしく成功する思考法』(キム・ウンジュ 著、藤田麗子 訳、CCCメディアハウス)の著者も、かつてはさまざまな状況がつくり出す悩みに苦しめられていたようです。
もがけばもがくほど深みにハマる泥沼に足を取られていたと過去を振り返っていますが、そんな日々を乗り越えるために「ネガティブ思考から抜け出す7つの方法」を実践し、苦しい日々をなんとか乗り越えたのだそうです。確認してみましょう。
1: 空き時間を作らない(114ページより)
時間に余裕があると雑念が増えるので、まずはそうした隙を生み出さないように忙しく過ごすことが鉄則。自身の怠け癖を自覚していたという著者も、講演やミーティングの予定を入れたり、「いつまでになにをする」と約束したりして、未来の自分が逃げられないように先手を打っていたそうです。
2: ネガティブ思考を認識する(114ページより)
ネガティブな思考が頭をよぎった瞬間には、自分がネガティブ思考になっていると認識するべき。そして、自己憐憫や現実逃避、自己欺瞞、自虐などにつながらないように警戒することも重要。
どん底に落ちていると感じたときには、幽体離脱のようなイメージで体から抜け出し、自分を上から眺める想像をしてみることがいいと著者は勧めています。すると「あんなところにいてはいけない」と自分を救い出そうとする気持ちが芽生えたり、実はどん底ではなく浅い溝にいるだけだと気づいたりするというのです。
3: 他人の言葉に大きな意味を持たせない(115ページより)
自分を傷つける相手をよく観察してみると、向こうも不安定で痛みを持つ人であることがわかったりするもの。また、理不尽なことをいってくる人の大半が、実はこちらの人生に対して関心がないこともわかってくるものであるようです。
そこで著者が提案しているのは、聞き流す練習をしてみること。それが上手になると、生きるのが楽になるからです。
4: 過去との戦いに勝つ(115ページより)
人は過去のトラウマに苦しめられることがありますが、それは忘れようとしても解決しないもの。大切なのは、「過去の傷に現在の自分を破壊させるものか」という強い意志を持つこと。
そのためには努力と訓練が必要でしょうが、著者も長い時間をかけてそれを実践することで、過去から自由になれたそうです。
5: 日記を書く(116ページより)
漠然とした感情を文章にしてみると、思考がクリアになり、どれほど無駄なことで苦しんでいるのかが見えるもの。また、書きためたあとで読み返してみれば、同じ心配や悩みを繰り返していることがわかり、「もう悩むのはやめよう。前進しよう」と思えるようになるのだとか。
6: 旅行をする(116ページより)
日常に埋没しないよう、旅に出るのも有効な手段。いろいろな場所をめぐっていれば、おのずと謙虚な気持ちが芽生え、どんな憂いも小さく感じられるようになったり、自分の人生を省みたり、もっと一生懸命生きようと前向きな気持ちになれたりするからです。
7: 運動する(117ページより)
運動はメンタルヘルスの強い味方。身体的に元気になるだけではなく、運動に集中している間は雑念も消えるからです。また、地道な運動は自信回復にも役立つもの。
理不尽な経験をすれば、当然ながら悔しい気持ちになることでしょう。逆に、浅い知識をひけらかしていたら、相手のほうが詳しくて恥をかいたなど、自分のミスが恥ずかしい結果につながってしまうこともあります。
理不尽なことも受け入れ良薬に
しかし、その恥や悔しさや緊張感をきっかけとして、勉強し直したり考えを練り直したりすることも多いと思います。あるいはメンタルも鍛えられます。つまりはその経験が多いほど、引き出しが増えて自分の成長につながる。結果的に「深み」が増すわけで、けっしてムダなプロセスとは言えません。(59ページより)
『「深みのある人」がやっていること』(齋藤 孝 著、朝日新書)の著者は、このように述べています。
昨今では、コミュニケーションに「人当たりのよさ」が求められる傾向にあるため、恥や悔しさや緊張感を経験する機会は減っているのも事実。その結果、勉強や仕事を効率的に進めることができるようになったのかもしれませんが、少なくともメンタルは鍛えられないはず。ますます恥や悔しさや緊張感に対する免疫がなくなり、そういう場面を避けるようになる恐れがあるわけです。
しかし、それが本当に成長につながるのか、いざという場面で簡単に折れてしまうほど打たれ弱くなるのではないか、「深み」のない人間になってしまうのではないか。そんな疑問が残ると著者はいいます。
「良薬は口に苦し」という諺があります。最近は良薬も軒並み飲みやすくなったため、この諺自体が死語になりつつあります。比喩的な意味としても、苦いものを飲み込む機会が減ると、良薬の効果も実感できないかもしれません。それはそれでもったいない気がします。(60ページより)
そういう意味では、悔しさや納得できない理不尽なことも受け入れ、それらを良薬にすべきなのかもしれません。
「人生で自分に影響を与えた3つの出来事」は何か?
『たとえ明日終わったとしても「やり残したことはない」と思える人生にする』(杉村貴子 著、日本実業出版社)の著者は読者に対し、「自分の人生を振り返った場合、自分にもっとも影響を与えた3つの出来事は何か?」と問いかけています。なぜなら、それらの出来事から、なにを得たのかが重要だから。
ポジティブ心理学では、「グロース・マインドセット(自分が持っている能力や才能は経験によって成長できるという考え方)」で生きていくことの大切さを説いています。
スタンフォード大学心理学部のキャロル・ドゥエック教授は、20年以上の研究から、マインドセットは2種類あるとしています。
ひとつ目は、持って生まれた能力は変化させることはできないととらえる「フィックスト・マインドセット(硬直型マインドセット)」。
もうひとつは、努力によって知能や能力を成長させることができるととらえる「グロース・マインドセット」です。そして、多くの成功している人たちには「グロース・マインドセット」の傾向が強いこともわかっています。(220ページより)
なにかの出来事に遭遇した際、どちらのマインドセットでとらえるかが重要になるということ。当然ながら、それは現在のみならず過去の出来事についてもあてはまるはず。
いいかえれば、自分が生きていく過程で起きた出来事を「グロース・マインドセット」でとらえることによって、よりポジティブな解釈を与えていくことができるということ。
だからこそ、3つの出来事が自分になにをもたらしたのか、いまの自分にどのようにつながっているのかを改めてとらえなおしてみるべきだというのです。たしかにそうすれば、理不尽な経験もまた、生きていくうえでの糧だと考えることができるようになることでしょう。
なお、自分の人生の年表から選んだ3つの出来事と向き合うにあたり、意識してほしい大切なポイントがあるそうです。
◇点ではなく、俯瞰してその後の人生とどう結び付いているかを意識する
◇自分なりに、その出来事から学び、得られたことは何かを言葉にする
◇それらを「グロース・マインドセット」で、成長の機会としてとらえ、解釈してみる(203ページより)
こうして見てみると、「出来事」というのは急に天から降ってくるものではなく、点と点がつながっていることがわかるはず。そして、そこから自分で考えて行動することで、新たな道が見つかるわけです。
なるほど、そう考えれば理不尽な出来事もクリアすることができるのかもしれません。
今回で連載「ビジネス書に訊け!」は最終回となります。
これまで印南敦史さんに選書いただいたビジネス書はおよそ840冊。
さまざまなビジネスパーソンの悩みに応えていただきました。
ご愛読ありがとうございました!(編集部)