悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「上司がやたらといばって威嚇する」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「上司がやたらといばって威嚇する」(32歳女性/メカトロ関連)

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最初に補足しておくと、ご相談者さんの悩みの種である上司は、「自分はサボってばかりいて仕事もしないのに、部下に対しては必要以上に厳しい。ことあるごとに威嚇や恫喝を繰り返す」のだとか。

それは困りましたね。いばる上司は少なくありませんが、かなりの重症だといえるかもしれません。

でも、そんな相手のためにこちらが疲弊してしまったのでは、あまりにも不公平というもの。それどころか、状況はどんどん悪化していくばかりでしょう。もちろん必要以上に波風を立てるのは避けたいところですが、とはいえなんとかしたいところです。

そこで、まずは基本的な疑問について考えなおしてみましょう。「いばる人は、なぜいばるのか?」という点です。

真正面から立ち向かっていかない

『いばる人の転がし方』(斎藤茂太 著、WAVE出版)の著者は、この問いに対するキーワードとして「劣等感」を挙げています。弱い犬ほど大きな声でよく吠えるといいますが、つまりはそれと同じなのだと。

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    『いばる人の転がし方』(斎藤茂太 著、WAVE出版)

いばる人というのは弱い犬、つまり劣等感で満ち溢れた人というわけです。
人間という生き物は誰もが何らかの「劣等感」を抱えています。
言いかえれば、劣等感をもっていない人間というのは、まったくと言っていいほどいない。
けれども、多くの人は劣等感があるからこそ、それをはねのけようとがんばるわけです。
そうやって向上していくのが人間という生き物なのですね。(23ページより)

容姿の問題から仕事の能力まで、人が抱くコンプレックスも多種多様です。しかしなんであれ、「自分は〇〇について人より劣っている」と感じるからこそ、多くの人は「負けないようにがんばろう」とか、「別の能力を高めていこう」と考えるのです。

そうやってプラスの方向へと自分の力を伸ばし、少しずつ自信をつけていく力が人間には備わっているということ。コンプレックスが原動力になっているわけですね。

ところが、いばる人は「自分の抱える劣等感をバネにして向上する」ということができないのです。バネにするどころか、その劣等感を人には見せまい、悟られまいとしたりするから厄介。

自分の弱い部分をさらけ出すことができない人たちなわけです。
それゆえ、虚勢を張って自分を大きく見せたり、高圧的に威嚇して人より有利な立場に自分をおこうとする。
まさに弱い犬なんです。(24ページより)

見てほしくないところを見られないように、いばることでカバーしているということ。けれど、そもそも自分に自信がないのですから、いばる口実に権威や肩書きを利用しようとするのです。

だとすれば、「いばられて不快です!」などと文句を口にしてみたとしても、痛いところを突かれた相手は逆ギレするだけ。それどころかさらにプライドを刺激され、「俺がどういばってるというんだ」と怒り出してしまうかもしれません。

著者が、「いばる人に真正面から向き合い、説得してどうにかしようと考えるのはやめたほうがいい」と主張しているのも、そんな理由から。そんなことをしても効果は期待できず、かえってトラブルを引き起こしてしまうだけだということです。

また、正面切って闘えば闘うほど、トラブルだけが大きくなってしまう可能性があるので、「なんとかしてやりこめたい」「納得させたい」などと考えるのも危険。

では、どうしたらいいのでしょうか?

まずいばる人に対しては真正面から立ち向かっていかないこと。
これが、いばる人と接する時の基本的な姿勢です。
何を言われても、どういばられても無視をする。
「こんちくしょう」とハラワタが煮えくり返っても、聞き流す、受け流す。
相手を憎らしいと思っても無視する。
「それじゃ、いばられ損じゃないか」と感じる方もいるかもしれませんけれども、「何とかしたい」「どうにかやっつけてやりたい」と思うあまり、ムダにエネルギーを消耗するほうがよっぽど損です。(168ページより)

たしかに、いばる人に立ち向かうエネルギーがあるのなら、それをもっと別のことに役立てたほうがはるかに自分のためになります。しかも、そうすることができれば、いつしか気持ちに余裕が生まれてくるはず。

つまりは、こちらが大人として接することが大切なのでしょう。

とはいえ理不尽な思いをすれば、つい怒りを感じてしまうもの。けれど怒ってしまうと、「うっかり怒ってしまった……」というように後悔してしまったりもするのではないでしょうか?

それくらい、怒りは後味の悪いものなんですよね。

「怒らない伝え方」を身につける

しかし『アンガーマネジメント 怒らない伝え方』(戸田久美 著、かんき出版)の著者によれば、怒りは感じてもいいものなのだそうです。なぜならそれは、人間にとって自然な感情だから。

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    『アンガーマネジメント 怒らない伝え方』(戸田久美 著、かんき出版)

怒りを感じることは決して悪いことではありません。
無理に抑えたり、感じないようにするのは、かえって不自然な行為です。
怒る必要があることには怒ってもいいのです。
大切なのは、伝え方を工夫することです。(「はじめに」より)

「怒ることで人間関係を悪化させたくない」という思いから、怒りたくても怒れないと感じている方は少なくないはず。しかしそれは、怒りの扱い方がわかっていないから。

怒りの扱い方を理解し、相手に伝わるいいかたを身につけると、ムダな怒りがなくなり、イライラしなくなり、怒っている自分を責めなくなり、周囲との関係もよくなり、職場の雰囲気がよくなり、仕事の生産性が上がり……と、いいことずくめのようです。

ただし当然のことながら、怒りの扱い方を理解せず、「怒ればなんとかなる」と思っていたのだとしたらそれは逆効果。

怒っている理由を伝えようと、大きな声で威圧したり、制度や決まりを振りかざしながら怒ったとしたら、結局は、やたらといばって威嚇する上司と同じことになってしまうからです。

怒りまかせに行動してしまうと、相手だけでなく、自分自身も後味が悪い思いをしてしまうので、どのように怒りの感情を伝えるかはとても大切です。(139ページより)

感情的になるのではなく、「なぜ、ここで怒るべきなのか?」「どう怒るのが効果的なのか?」ということをきちんと考えたうえで怒る。そうすれば、怒りをプラス材料として活用できるということのようです。

仕事の借りは仕事で返す

ところで上司にいばられたりすると、無意識のうちに「少しでもよく見せよう」「嫌われないようにしよう」と思ってしまうかもしれません。そうすれば、なんとかその場を逃れられるのではないかと思って。

しかし、『誰とでも3分でうちとける ほんの少しのコツ』(鈴木あきえ 著、かんき出版)の著者は違った意見をお持ちです。

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    『誰とでも3分でうちとける ほんの少しのコツ』(鈴木あきえ 著、かんき出版)

「嫌われないように」という考え方は、人生を苦しくする気がします。だってどんなに性格をよくしようと努力しても、嫌われる人には嫌われるものです。
全世界の人から好かれる人なんて、いないと思うんです。それなのに「嫌われないような自分」を求め続けることは、自分で自分を苦しめてしまうと私は思います。(179ページより)

そして、「仕事の借りは仕事で返す」べきだともいいます。仕事で落ち込んだとき、食べたり飲んだり走ったりすればストレスはある程度解消できるかもしれません。とはいえ結局、仕事の借りは仕事でしか返せないのだというのです。

別の場面でストレス発散をするのもいいですが、本質的な解決法にはならないと、私は思います。一番効果的なのは、次の仕事で、自分が納得するようなパフォーマンスを発揮することです。「うまくできなかった」としぼんだ心は、仕事でふくらませることができるのです。(139ページより)

一見すると、今回のご相談とは関係ないようにも思えるかもしれません。が、これは、いばる上司との関係性にも応用できることだと思います。

いばる上司は、いばるために「いばる理由」を探すものです。たとえば部下がミスをしたとしたら、それは「なんでそんなミスをするんだ!」といばるための格好の材料になるのですから。

だとすれば、ミスをしなければ上司がいばる理由がひとつ減ることになります。要するに上司は、「ぐうの音も出なくなってしまう」わけです。

ですから、もしも仕事でミスをして怒られたのだとしたら、二度と同じミスをしないようにする。そして、以後もミスをしないように心がける。それだけで、上司はいばれなくなってしまうということ。

しかも部下のミスが減れば、それは上司の評価にもつながることになります、そのため、お互いにとってのメリットにもなり得るのです。

そう考えれば、マイナス要素もプラスに転化できるのではないでしょうか?