悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「仕事が効率的にできない」人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「要領が悪く、効率的に作業を進められない」(34歳男性/メカトロ関連)

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仕事の効率化はビジネスパーソンにとって永遠の課題。思うように仕事を進められず悩んでいるという方は、決して少なくないはずです。

それに、「これこそが効率化を実現するための理想的な手段」などといえるものがあるわけでもないのです。したがって、悩むのはむしろ当然。ただ、そうはいっても効率的に仕事ができるようにはなりたいものですよね。

なお、そのための策を考え、実践するにあたっては"一歩一歩"にこそ大きな意味があるのではないかと思います。うまくいかない状態にあると、「劇的に変わりたい」というような願望を持ってしまいがちですが、それは無理な話。

「心の余裕」を持って

むしろ小さな一歩を重ねてこそ、結果的に"効率的な仕事の進め方"や"理想的な時短術"を見つけ出すことができるのではないかと考えるわけです。

そして自分なりの「時短仕事術」を見つけ出すことができれば、作業の効率化はさらに実現しやすくなるかもしれません。ただし『最強の時短仕事術46 年間500時間得する! 超絶テクニック』(越川慎司 著、ぱる出版)の著者によれば、そこには見逃すべきではないポイントがあるようです。

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    『最強の時短仕事術46 年間500時間得する! 超絶テクニック』(越川慎司 著、ぱる出版)

本来目指すべき「最強の時短仕事術」は、単なる時間を短縮するだけの手法ではなく、より質の高い仕事を効率的に行うためのものです。それは、「時間の使い方を最適化すること」であり、「仕事をスムーズに進めるための環境を整備すること」であり、「自分自身そしてチームのパフォーマンスを高めるための心身の状態を管理すること」でもあります。(「はじめに」より)

そこで本書では、そうした観点から46種の時短術を厳選し、具体的な実践方法とその効果を説明しているのです。それらは過去6年間で815社総計17万人を対象とした言動データと、約2万人の再現実験によって得られたデータに基づくものなのだとか。

具体的には準備の仕方から、会議や資料づくりの時短テクニックなどが幅広く紹介されているのですが、ここではもっとも重要なポイントである"精神的余裕"に焦点を当ててみたいと思います。

仕事の効率と効果を維持するうえでは「心の余裕」、すなわち心に余裕を持つことが欠かせないのだと著者はいいます。

心の余裕があるということは、冷静な判断ができて、無駄なことに時間を費やす確率が減るからです。心が落ち着いていると、仕事を通じて出会うさまざまな問題や困難に対し、冷静かつ客観的に対処することができます。混乱やストレスに陥ることなく、解決策を見つけ出す力を養うことができるのです。(18ページより)

加えて自分の能力に対する信頼感が増し、自己効力感も強まるそう。その結果、職場でのリーダーシップも発揮すしやすくなることでしょう。

つまり自分自身を信じることで、困難を乗り越える力や、新たな課題に取り組む勇気を持つことができるということ。

また、心の余裕があると、それは良好なコミュニケーションにつながっていくもの。他人の意見を尊重し、異なる視点を理解できるようになるわけです。

心の余裕は、自分自身の生産性を高めるだけでなく、宿場の雰囲気を良好に保つことにもなるということです。

心の余裕を保つためには、自分自身の心と体の両方に対するケアが欠かせません。定期的なリラクゼーションタイムを設けることがおすすめです。一日の終わりに、好きな音楽を聴いたり、読書をしたり、散歩をしたりする「自分の時間」を確保してみてください。これらの活動は心をリフレッシュし、翌日に向けてエネルギーを再充電するのに役立ちます。(219ページより)

仕事の効率化について悩んでいるときは、リラックスするために仕事以外の楽しむことまでに思いがおよばないかもしれません。しかし、しっかり休んで心と体を労われば精神は安定するはず。

そうなれれば、仕事においても高いパフォーマンスを維持することができるようになり、周囲の人にも好影響を与えることになるのです。

仕事は仕事、プライベートはプライベートと切り分けられるものではなく、すべてはつながっていると解釈するべきなのかもしれません。

「要領がいい人」になるために

ところで今回のご相談内容は「要領が悪く、効率的に作業を進められない」というものでしたが、そもそも「要領が悪い」「要領がいい」とはどのようなことなのでしょうか?

この問いに対して、『努力に頼らず「要領がいい人」になる40のコツ』(菅原洋平 著、アスコム)の著者は次のように述べています。

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    『努力に頼らず「要領がいい人」になる40のコツ』(菅原洋平 著、アスコム)

「要領の悪さ」とは、目的を見失ってしまうこと。
「要領のよさ」とは、しっかりとゴール設定することで、脳が整理され、ゴールに向かって(自然と)最短距離を歩んでいけること。(「はじめに」より)

なお興味深いのは、本書において著者が「要領がいい人」の特徴について「よくある勘違い」を明らかにしている点です。いくつかを抜き出してみましょう。

× 失敗せず常に結果を出す
○ 失敗する前にやめている
(40ページより)

仕事に臨む際、「失敗してはいけない」と考えるのは当然のこと。しかし著者によれば、それは必ずしも"正解"ではないようです。要領がいい人は、失敗する前に、その方法にさっさと見切りをつけてやめてしまうそうなのです。

たとえば仕事で指導をしているとき、熱心に聞こうとする姿勢が相手に見えないとします。そんなときにはくどくど説明を続けるのではなく、「このやり方は合わないんだな」と早々に見切りをつけるのだそうです。

そして、「いつもはどんなふうにやっているの?」と聞き、相手のやり方に合わせる作戦に変えてみる。「こうしなくてはならない」という決まりのようなものを手放すことが、要領をよくする必須条件だということです。

× 考え方がポジティブ
○ 事実のみを振り返る
(42ページより)

要領がいい人には、「必要以上に悩まない」という特徴もあるようです。思いどおりにいかなかったとしても、原因を分析したうえで、「次はこうすればいい」とシンプルに考えるわけです。

とはいえ、要領がいい人がすべて「根がポジティブ」だというとこでもないそう。

たとえば、なにか作業をするとき。
要領がいい人は「明日の9時までに」「30分で」というように、具体的な期限を設けます。すると脳内では、過去に作業をしたときの所要時間をもとに見積もりを立てることができるので、実現までの過程が明確になります。 仮に時間をオーバーしてしまったとしても、「自分の見積もりが甘かった」という事実だけを振り返るので、「どこに時間がかかったのか」という前向きな反省につなげられます。(42〜43ページより)

落ち込んだりすることなく、ただ「事実のみを振り返る」。そうした習慣は、ぜひとも身につけたいものです。

「サボる時間」を確保する

仕事で大切なのは「成果(自分の価値)」を生み出すことであり、その最大の秘訣は「サボる時間」を確保すること。『なぜ、サボる人ほど成果があがるのか?』(理央 周 著、日本実業出版社)の著者はそう述べています。

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    『なぜ、サボる人ほど成果があがるのか?』(理央 周 著、日本実業出版社)

「忙しすぎてサボれない」という声が聞こえてきそうですが、そうではなく、「サボる時間がないから忙しい」ということであるようです。

では、「サボる時間」とは?

一見仕事をしていないように見えるけれど、成果につながる自由な時間を、「サボる時間」と私は呼んでいます。この「サボる時間」のなかで、将来の企画の発想を練ったり、現場の生の情報を得たりして、仕事に生かすのです。
(『「サボる時間」がないから忙しいーーはじめに』より)

そのため、まずは不要で優先順位の低い「やめること」を決めるといいそうです。たとえば、こんな感じ。

× タイパの低い人: 「時間」を管理する
○ タイパの高い人: 「タスク」を管理する
(22ページより)

「どうすればうまく時間管理ができるのか?」と悩んでいる方も少なくないでしょうが、だからこそ発想の転換をすべきだと著者はいいます。仕事で成果を生み出すためには、「時間を管理する」より「タスク(やるべきこと)を管理する」ことが先だというのです。

時間管理の本来的な意味合いは、「成果を生み出すために、仕事を効率よく進めること」。ところが時間の使い方から先に考えてしまうと、やるべき仕事に優先順位をつけられなくなってしまいます。

スピーディに効率よく成果を出すには、タスクの「重要度」と「緊急度」を同時に考え、優先順位をつけて、段取りをすることです。タイムパフォーマンス(タイパ、時間対成果)をあげる秘訣は、時間よりタスクに注目することに尽きるのです。(40ページより)

したがって、「タスクが先、時間はあと」が大原則だということです。