悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、資格取得に悩む人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「使える資格を教えてほしい」(26歳男性/技能工・運輸・設備関連)


今は不安の時代であると思います。この時代を生きるほとんどの人たちは、将来に対する漠たる不安を胸に抱いているのではないでしょうか。
これからも今の生活を続けていけるだろうか、今の仕事を続けられるのだろうか、給料は上がっていくのだろうか、ローンは払い続けていけるだろうか、勤めている会社が潰れたりしないだろうか、そのときに転職できるだろうか、自分の老後まで年金制度は維持されるのだろうか。ところで年金だけで生活できるのだろうかーー。
それぞれのライフ・ステージにより不安はさまざまですが、その中核にあるのは働き続けることができるだろうか、という不安なのではないでしょうか。(「はしがきーー不安の時代に働き続けるあなたへ」より)

最近読んだ『君たちはどう働きますか』(西本甲介著、東洋経済新報社)の冒頭にはこう書かれています(ちなみにこの本、とてもいいのでぜひ読んでみてください)。

たしかに著者の言うとおりで、現代は不安だらけです。そんな時代だからこそ、今回のご質問者のように「使える資格」のことが気になる方が増えるのも当然だろうなあと感じました。

もちろん、資格取得に人一倍の情熱を注ぐ「資格マニア」のような人は、過去にも数多く存在していました。しかし、いまの時代、資格取得に関心を示すのはそういう人ばかりではなくなってきているわけです。「不安の時代」の渦中、“自分で生きていくための力”として資格取得が意識されているということ。

だとすれば、自分に適した、取っておくと役に立ちそうな資格について情報収集することは大切でしょうね。

また同時に、一方的な情報だけに頼るのではなく、資格取得に関してさまざまな意見や考え方を知っておいたほうが、広い視野を持つという意味でよりよいのではないかと思います。

資格を取るメリット

『会社に頼れない時代の「資格」の教科書(「THE 21」編集部編、PHPビジネス新書)』の根底にあるのも、『君たちはどう働きますか』の序文に通じる現代への危機感。

  • 『会社に頼れない時代の「資格」の教科書』(「THE 21」編集部編、PHPビジネス新書)

終身雇用制は崩壊し、給与もなかなか上がらない。仕事に求められるスキルは日々変化し、自分の仕事がいつ陳腐化するかも予測がつかない。「そんな時代だからこそ、いまこそ資格を」という考え方に基づいているわけです。

これまでは会社の名前である程度仕事ができましたが、今後は「自分は何者で、どういう能力を持っているか」が問われる時代になるだろうということ。だとすれば改めて確認したいのは、資格を取ることによって得られるメリットです。

資格を取ることの効能はいくつもありますが、一つあげれば「キャラクターを立てられる」ことがあります。
たとえば、ずっと営業畑を歩んできた人が「簿記」の資格を取得すれば、「数字に強い営業マン」という個性を得ることができます。いわゆる「キャラの立った人」は、印象に残ります。転職に有利なのはもちろん、顧客からも覚えてもらいやすくなる。結果、仕事もうまくいくようになるでしょう。
このように、今までの自分のキャリアに「資格」をプラスすることで、その人ならではの強みを手に入れれば、転職をするにしても、社内で出世を目指すにしても、キャリアの可能性がずっと広がるわけです。(「はじめに」より)

とはいえ資格は多種多様。そこで本書では、それぞれの資格の識者からタイプ別に選んでもらったという79種もの「注目すべき資格」を紹介しているのです。

加えて「資格をどのようにキャリアに活かすか」の発想法や「資格の活かし方」などにも焦点を当てているため、自分のキャリアに活かせる、あるいは「なりたい自分になる」ための資格を見つけることができそうです。

試験勉強の壁を越える

しかし現実問題として、資格取得に向けて勉強するにあたり「超えなければならない気持ちの壁」がいくつもあるものだと指摘するのは、『試験勉強の「壁」を超える50の言葉』(松本雅典著、自由国民社)の著者。

  • 『試験勉強の「壁」を超える50の言葉』(松本雅典著、自由国民社)

試験勉強を始めることを決意する時の壁
自分の勉強に迷いが生じたときの壁
上手くいかなくなったときの壁
直前期に合格できないのではないかと不安が生じたときの壁
試験当日に様々なことが起きたときの壁
(「はしがき」より)

司法書士試験講師という立場にあるからこそ、こうした壁を超えられず、試験から去っていく方も多く見てきたというのです。そしてそのたびに、「ひとことでもこう言っていれば超えられたのではないか……」と感じていたのだとか。

つまり本書で紹介されている言葉の数々は、そんななかでひとつひとつ生まれてきたもの。超えられない壁が現れたとき、どれかひとつの言葉が助けになるだろうと著者は記しています。

それぞれの項目は、「Phrase」と「Message」で構成されています。それはどのようなものなのか、ひとつピックアップしてみましょう。

[Phrase]
資格は、これまでの過去をリセットできる
・学歴がないこと
・就職に失敗したこと
・会社で上手くいかなかったこと
資格業界では
「資格を持っているか」しか見られないから

[Message]
日本は、今でもレールから外れると厳しくなります。大学受験、就職、会社、どれかで失敗すると、「普通に結婚して、子どもを産んで、家を買って」ということさえ難しくなります。
しかし、資格業界のよいところは、基本的には資格を持っているかしか問われないことです。「東大卒の無資格者」より、「高卒の有資格者」のほうが価値が高いです。「資格者でないと○○の業務ができない→資格者が必要」という論理があるからです。
つまり、資格を取り、その資格業界に入れば、これまでの過去をリセットできます。平等にゼロからのスタートにつけます。マッサラの状態から評価してくれます。
(以上、26〜27ページより)

このように、書かれているフレーズとメッセージはとてもシンプル。簡潔で平易だからこそ、ストレートに心へと届いてくれるわけです。資格取得を決意し、努力していてふと不安になったとき、本書が勇気を与え得てくれることになるかもしれません。

資格は万能ではない

これまで書いてきたとおり、資格を取ることで得られるものは少なくないはず。しかし、その一方には知っておくべき現実もあるようです。端的にいえば、「資格を取得したから、すべてがうまくいく」わけではないということ。

  • 『資格を取ると貧乏になります』(佐藤留美著、新潮新書)

『資格を取ると貧乏になります』(佐藤留美著、新潮新書)は、「一流の資格さえ持っていれば食いっぱぐれない」という考え方のリスクに鋭く焦点を当てた一冊です。

資格を取り巻く世界がおかしなことになっているーー。
このテーマに関心を抱いた私は、3年ほど前から、弁護士、会計士、税理士、社会保険労務士などの国家資格、あるいはTOEICなどの英語能力試験、OLが飛びつきがちな仕事に直結しない趣味系資格の実態を探る取材を始めた。その結果、明らかに違和感を抱かずにはいられない事実が続々と浮かび上がってきた。
それを一言で言うと、こうした資格は、人の不安に乗じて稼ごうとする意図が見え透いた「コンプレックス商法」の商品になりつつある、ということだ。(「はじめに」より)

しかも、「明らかに持っていても仕方のない資格」だけでなく、国家資格の世界ですら、民間の資格ビジネスと同じようなロジックが横行しているというのです。また最近は、「資格」をリストラや退職勧奨の道具として使う会社まで出てきたのだといいます(通称「シカハラ」)。

そこで本書では、どう考えても普通とは言えない資格業界の現状を明かしているのです。資格職の置かれた現実がシビアに描かれているだけに、読んでいると多少なりとも暗い気持ちにもなるかもしれません。

とはいえ、そういう現実があることは知っておくべきだと思います。知らないままでいると、あとから大変なことになるかもしれないのですから。いわば、本書に出てくるような「直視したくない現実」は、リスクを避けるために「直視しておくべきこと」でもあるのです。

ありがたいのは、きちんと「救い」も用意されているところ。巻末に、著者の取材に基づく「資格職で食べていくための秘訣や資格の活かし方」も紹介されているのです。

理想論だけで食べていけるわけではありません。そこで、シビアな現実の存在を知り、そのうえで「乗り越えるべき壁の越え方」を学んでおくべき。本書は、そのための力になってくれるのではないかと思います。


実を言うと個人的には、「資格マニア」のような人にはあまり共感しづらい部分があります。繰り返しになりますが、資格さえ取ればどうにかなると言うものではないと感じるからです。

しかし冒頭にも書いたとおり、資格取得が本人のモチベーションを高めてくれるのなら、それは充分に意味のあること。そして、シビアな現実をも受け入れたうえでそれに立ち向かう意思があるのであれば、これら3冊はきっと役に立ってくれるはずです。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。