悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、貯金の方法に悩む人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「貯金の仕方がよくわからない」(45歳男性/公共サービス関連)


30代のころまで、僕はとても物欲が強い人間でした。といっても、高級腕時計とかヴィンテージワインなどに散在していたなどというわけではなく、日常的に無駄な買い物がとても多かったのです。

ちょっと気になるものを見つけると、「あれば役に立つかもしれない」「もう手に入らないかもしれない……」という謎の焦燥感に背中を押され、「とりあえず買っておこう」ということになってしまっていたということ。

その結果、本や雑誌、レコード、CD、雑貨などがどんどん増えていったのです。もちろん必要なもの、買うべきだったものも含まれてはいたのですけれど、大半は無駄以外のなにものでもなかったわけです。

ですから、あのころはかなりのお金を無駄にしていたような気がします。そして、「買わなければ不安」だから買うのですが、結果的に残るのは虚しさだけでした。買えば買うほど、なぜだか精神的に満たされなくなっていくという悪循環。

でも、いつのころからかそんなお金の使い方にも興味がなくなっていき、数年前からは「いかに無駄を減らすか」を突き詰めていくことが楽しくなってきました。

それは「断捨離」が流行するよりも少し前のことですが、断捨離がどうであれ、時代そのものが、あのころから「反消費」の方向に向かいはじめたのではないかと感じています。そしてその流れが、やがて「シェアリングエコノミー」などへとつながっていくことになったのだと思います。

ですから現在も、「減らすこと」「捨てること」「少なくとも“無駄なもの”は買わないこと」に関心があります。そしてその結果、心地よさとともによく感じることがあります。

「使わなければお金は減らない」ということ。

当たり前ですよね。とはいえ「使わないから財産が築けた」というほど景気のいい話ではなく、もっと日常レベルの感覚なのですが、「散在したあとの虚しさ」「無駄遣いしたあとの焦り」など、お金にまつわるマイナス感覚が少しずつ薄れていったような気がしているのです。

しかし、それは個人的な感覚であり、「貯金の仕方がよくわからない」というご質問に対して偉そうに返答できるような資格もありません。というわけで、貯金に役立ちそうな3冊をチョイスしてみました。

お金を無駄にしないため

ご存知かと思いますが、『払ってはいけない 資産を減らす50の悪習慣』(荻原 博子著、新潮新書)の著者は、経済の仕組みを日常生活の観点から解説することに長けた経済評論家。お金に関する多くの著作を送り出していることで有名ですが、最新刊である本書も、その視点に特筆すべきものがあります。

  • 『払ってはいけない 資産を減らす50の悪習慣』(荻原 博子著、新潮新書)

貯金を意識した場合、どうしても「どうやったらお金が貯まるか」「どうすれば儲かるか」などを意識してしまいがち。しかし本書は視点が異なっていて、つまりは「お金が貯まらない」という事実にまず着目しているのです。

本書が、他のマネー本と大きく違うところは、次の3点です。
(1)「どうすればお金が儲かるか」ではなく、「どうすれば損をしないか」というところに主軸を置いているところ。
(2)「お金のことは、人間関係も含めた家族のこと」という観点から、豊かな老後の設計の中に、家族関係や夫婦関係を加味した解説が多いこと。
(3)難しい経済用語や金融用語は使わず、高校を卒業する程度の学力があれば、充分に理解できるような言葉で書かれていること。
(「はじめにーー『どうすれば儲かるか』より」)

簡単なことです。つまりは「儲けるために、こういうことをしましょう」ではなく、「お金を無駄にしないために、こういうことをしないようにしましょう」というスタンスが貫かれているわけです。

たとえば先に触れた、かつての僕を支配していた「あれば役に立つかもしれない」という感覚についても、その無駄を明確に指摘しています。

なぜ、「あったら便利と思って、いろいろなものを買ってしまうのでしょうか。
それは、本当に必要なものの優先順位が、はっきりとわかっていないからだと思います。優先順位がわかっていたら、「あったら便利」というものの必要度の順位は低いはずです。それでも買う人は、物欲が強い時代に生きてきたからでしょう。
けれどこれからは、シンプルにクラスことが素敵なライフスタイルとなっていく時代。便利なものを求めてお金を使うよりも、心豊かに暮らせるライフスタイルが求められています。どんなに便利なものを身近に揃えても、心までは満たしてくれません。
「足るを知る」という言葉がありますが、あれもこれもと欲しがるのではなく、心を満足させて楽しく暮らしていけるほうが、すてきだとは思いませんか?
(「はじめにーー『どうすれば儲かるか』より」)

このようにソフトな文体によって、「節約、家計」「貯金、積立」「生命保険、健康保険」「家庭、子供」「投資、資産活用」「定年後、年金」と、テーマごとに「〜してはいけない」ことを簡潔に解説しています。そのため、お金を貯めるために「すべきでないこと」を明確に判断することができるのです。

よくある「いかに儲かるか」という非現実的な空論とは対照的な説得力に満ちているので、無駄を省くためのノウハウを身につけられるでしょう。

お金持ちが絶対にしないこと

そして同じことは、『お金持ちが肝に銘じているちょっとした習慣』(菅原圭著、河出書房新社)にも言えそう。それは、本書の著者が指摘している「お金持ちの共通点」を見てみれば明らかです。

  • 『お金持ちが肝に銘じているちょっとした習慣』(菅原圭著、河出書房新社)

彼らに共通しているのは、お金にキビシイという以上に、人としてきちんとしていて、振る舞いや生活態度などにゆるみやだらしないところが見えないことだ。
お金持ちだから上等なものを身に着けていたり使っていたりするが、それらをとても大事にしている。同時に、それほど高いものでなくても、その態度は変わらない。(中略)行き届いた心遣いはモノに対してだけではなく、人に対するときも変わらない。高名な人や社会的地位の高い人に対する態度も、ホテルのスタッフなどに対する態度も変わりなく、見ていても清々しく、気持ちがいい。
こうした経験を積み重ねてきた人は、いまでは、お金にはある種の“精神性”があり、高い精神性を保持している人と相性がいいという考えをもつようになっている。
お金持ちになりたいなら、まず、人としてきちんと生きていくようにしよう。私がそう思うのは、こうしたことを見てきた結果だ。(「はじめに お金持ちが『お金より大切にしていること』とは?」より)

いわば、できるだけ「きちんとした生活習慣」へ、つまり「お金持ちになる方向へ」自分を切り替えていこうというメッセージが本書の根底には流れているのです。

特に第1章「お金持ちが絶対にしない10のこと」は、生活習慣を改めるにあたって大きなヒントを与えてくれそうです。

「用もないのにコンビニに立ち寄らない」「用もないのに『百均』に立ち寄らない」「ビニール傘をため込まない」「帰宅して、すぐにテレビをつけない」などの項目を目にするだけで、日常生活においていかに無駄が多いかがわかるのではないでしょうか?

しかも第4章「お金持ちが大切にしている14の習慣」が「わずかな遅刻も自分に許さない」「気分や感情がいつも安定している」「言葉づかいが正しく、きれい」などの精神論でまとめられているのも、なにが“本当に大切なもの”なのかを再確認させてくれることになるでしょう。

毎年100万円貯まる方法

最後におすすめしたいのは、『普通の人がケチケチしなくても 毎年100万円貯まる59のこと』(佐藤治彦著、扶桑社)。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行でデリバティブを担当していた実績も持つ経済評論家が、「ケチくさくなく、生活も楽しんで、でも確実に貯蓄が増えていく方法について書いた本」です。

  • 『普通の人がケチケチしなくても 毎年100万円貯まる59のこと』(佐藤治彦著、扶桑社)

その根底に根ざすのは、お金についての基本的な考え方。お金が山ほどあるのに、お金のことばかり考えている人がいますが、そういう人は放っておいて、お金の本質を見極めるべきだという主張に沿っているのです。

金はなくても、あっても人の心を奪うもの。だから、私は思うのです。金とは、いい距離で付き合うのがいいのです。いい距離で付き合うためには、金のことを知っておく。金との付き合い方のコツを会得しておくことが大切です。
この本は、金のことを徹底的に考えます。金に好かれるノウハウもお教えします。金のことを知ることによって、毎年100万円、金が貯まるようにするための本です。(「はじめに」より)

書かれているのは、買い物の仕方、クレジットカードの有効な使い方、お金の貯め方、家計のリストラ法など、実生活に根ざしたことばかり。決して難しいことではないこともあり、書かれていることを試してみれば、最低でも毎月数万円は貯金できるようになるはずだと著者は断言しています。


実際問題、お金を貯めるのは簡単なことではないかもしれません。しかし、だからこそ基本に立ち返って無駄を省き、そして貯金を楽しむことが大切なのではないでしょうか?

そこで、ぜひともこの3冊を手にとってみていただきたいと思います。それぞれの主張を可能な範囲で取り入れてみれば、少なくともお金に対する考え方が変わり、それが貯金に好影響を与えることになるかもしれないから。

もちろん本人の心がけ次第ですが、試してみる価値は充分にありそうです。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。