悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、苦手な相手とのつき合い方に悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「苦手な相手とのつき合い方がわからない」(25歳男性/メカトロ関連)
どんな人にも、「苦手な相手」はいるものです。もちろん僕も同じで、とくに社会経験があまりなかった20代のころは、ことあるごとに「あ、この人は苦手だ」と"感覚的に"判断し、それだけの理由でシャッターを下ろしてしまっていたような気がします。
そうしたところで、なんの解決にもなりはしないのに。
ですから振り返れば「青くさいなぁ」と感じるしかないのですが、とはいえ社会に出れば多かれ少なかれ、そういった問題で悩むことにもなります。なぜなら、いろいろなことが自分とは違っている人たちと長い時間を過ごすわけなのですから。
つまり別な表現を用いるならば、「苦手な相手とのつき合い方がわからない」のはいたって当たり前のことなのです。
そういう状況に置かれるとつい自分を責めてしまいがちでもありますが、「違っている」のだから、わからなくてもまったく不思議ではないということです。
だとすれば、自分の力ではどうにもならない関係性を改善しようとするのではなく(なにしろ、それは無理なことなのですから)、少しでも楽になれるような手段を選ぶべきなのではないでしょうか?
苦手な相手に「意見を言う」テクニック
そこで今回も、参考になりそうな3冊をチョイスしてみました。まず最初にご紹介したいのは、心理研究科として活動する著者による『大人のための心理術の使い方BOOK』(西島秀穂 著、総合法令出版)。
「心理術」とはなにやら難しそうですが、著者はそれを「人間関係をスムーズにするツール」と解釈しているのだそうです。
たとえば、あなたは職場の上司が苦手だとします。上司が苦手なあまり、職場では極力気配を消し、上司や同僚から隠れるように仕事をしています。そんな職場、窮屈ではありませんか? そんなとき、心理術はそっとあなたの背中を押してくれます。(「はじめに」より)
今回のご相談者さんは、まさにこのような状況にいらっしゃるのではないでしょうか?
だからこそ、相手の本音を見破る、苦手な相手を動かす、感情をコントロールするなど、さまざまなシーンで使える心理術のテクニックを400以上紹介している本書はきっと役立つはず。
ここでは「苦手な相手を操る心理術」のなかから、「意見を言う」という項目をピックアップしてみたいと思います。苦手な相手に意見を告げるときこそ、心理術が活躍すると著者はいうのです。
反対意見を言うとき
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最初に賛成して、次に反対意見を伝える(66ページより)
反対意見をいうときに、いきなり「反対です」と伝えたのでは相手の反感を買ってしまっても当然です。大切なのは、まず相手の意見を肯定し、そのあとに「しかし、私はこうしたほうがいいと思う」と伝えること。そうすれば、意見を受け入れてもらいやすくなるそうです。
頑固な人に意見を言うとき
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頑固な部分を「こだわり」として褒めてあげる(68ページより)
頑固な人は、そのこだわりの強さゆえに周囲の人に迷惑をかけてしまいがち。そこで、まずは頑固さの原因になっている「こだわり」を褒め、相手の懐に飛び込むことが大切だといいます。信頼関係を築き、こだわりを尊重しつつ、こちらの意見も聞いてもらうようにするわけです。
信頼を得たいとき
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語尾を聞き取りやすくする(69ページより)
どんなに優れた意見でも、声が小さく語尾が聞き取りにくければ主張は伝わりません。なにかを主張するのであれば、いいにくいことであっても「○○してくださ……」のように尻すぼみにするのではなく、「○○してください!」と最後まで気を抜かず、はっきりと話すことが大切。
相手のことを「否定しない」マインド
ところで、そもそも苦手な相手とのつきあい方がわからないのはなぜなのでしょう? もちろんさまざまなケースが考えられますが、もしかしたら、こちらが無意識のうちに相手のことを否定しているからなのかもしれません。
『否定しない習慣』(林健太郎 著、フォレスト出版)の著者も、次のように述べています。
人間関係を良好に変えるにはどうしたらいいのか?(中略)
それは「褒める」「肯定する」「叱る」のどれでもありません。
最も効果的、かつ劇的に人間関係を変える方法。
それが、「否定しない」ということです。
人間関係でもっとも大事なことは、「相手のことを否定しない」ことなのです。これこそが褒めたり肯定したり、叱ったりするよりも何倍も効果的で、いい結果につながる人間関係をよくするシンプルな方法なのです。(「はじめに」より)
本書において著者は、相手を否定しないためには「否定しないマインド」をつくることが大切だと述べています。その、3つの基本を確認してみましょう。
「否定しないマインド」の基本(1)
「事実だから否定してもいい」という思考はしない
(56ページより)
「事実を伝えているだけ」という思考は、否定したり、相手を責めたりすることを肯定し、正当化すること。しかし、いわゆる「正論」は相手を攻撃する理由に使われる危険な武器にもなるものです。
「事実かどうか」ではなく、「いわれた相手がどう受け取るのか」を想像することこそが重要であるわけです。
「否定しないマインド」の基本(2)
「自分は正しい」という思考はしない
(60ページより)
お互いの「正しさ」を主張しあったところで、いいことはなにもありません。
大事なのは、「意見の違い」=「否定」ではないと認識すること。意見が生き違うことは当たり前にあるので、お互いの違いを理解し、目的を共有することことが重要なのです。
「否定しないマインド」の基本(3)
「過剰な期待」はしない
(64ページより)
相手に期待をかけること自体は悪いことではありませんが、問題は、その期待が裏切られたとき、つい相手を否定しがちだということ。
しかし、そもそも「相手への期待」とは、こちらの勝手な思考にすぎません。
期待に応えてくれなかったと憤るのではなく、「じゃあ、どうすればできるのか?」「なにが足りないのか?」「どのレベルまでならできるのか?」などを考えたほうが建設的で、双方のためにもなるのです。
職場ではドライでもいい
職場では「ドライ」でよしーーうかつに深入りしないこと(28ページより)
『仕事も人間関係もうまくいく 放っておく力』(枡野俊明 著、知的生きかた文庫)の著者は、こう主張しています。
年始の挨拶などの儀礼的なつきあい、運動会や慰安旅行などの行事、お酒を飲みながらの(プライベートな部分にまで踏み込んだ)会合など、昔の職場には濃密な人間関係があったものです。「同じ釜の飯を食う仲間」ですから、団結力も高まることでしょう。
しかし、「職場では、人のプライベートに立ち入らない」ことを基本にしたほうが、人間関係は断然、うまくいきます。(29ページより)
とくに現代は、「ドライ」であることが求められる時代であるともいえます。そもそも、「ドライ」の対極にある「ウェット」が行きすぎると、その延長線上にパワハラ・モラハラ・セクハラなどのハラスメントが生じないとも限りません。
そのため、プライベートな問題は、あくまでも「話したい人任せ」にするのが鉄則だと著者は主張するのです。自分から根掘り葉掘り聞き出すのはルール違反と心得るべきだとも。
それはプライベートな問題だけではなく、他のいろいろなことにもあてはまりそうです。まじめな人であるほど、「相手のニーズに応えられるようなつきあい方をしなければ」と考えてしまいがちかもしれません。
しかし、だからといって過剰になることもないのです。必要なときだけ接し、そうでないときは適切な距離を置く。もしかしたらそのほうが、相手も気が楽かもしれないのですから。