悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「組織で生きていくのが苦手」人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「組織で生きていくのが苦手」(31歳女性/事務関連)


よくいわれることですが、組織のなかではとかく「声の大きい人」のほうにばかり視線が集中してしまいがち。極端ないいかたをすれば、たとえ話の内容に矛盾や間違いがあったとしても、そういうタイプの人は声だけで周囲を巻き込んでしまえるわけです。

そして声の大きな人が主導権を握るとなると、静かな人や自己アピールが苦手な人、自信のない人、集団での作業が苦手な人などは必然的に埋もれてしまうことになります。

残念ながらそれは現実ですが、とはいえおかしな話ではありますよね。では、「声が大きくない人」は組織内でどう立ち振る舞えばいいのでしょうか? 必要以上に目立ちたくはないかもしれませんが、少なくとも最低限の存在感はアピールできる状態にありたいものです。

そこで今回は、集団内で埋もれず目立ちすぎず過ごすために役立ちそうな3タイプのビジネス書をチョイスしてみました。

「静かな人」の長所を活かす

私はある国際機関で20か国以上にまたがるチームのマネージャーを務めており、著作が米アマゾンのランキング1位になり、出版界の賞であるフォワード・インディーズ「ブック・オブ・ザ・イヤー」特別賞に選出された。
欧米のテレビ番組にたびたび出演し、多国籍企業で講演を数多く行い、アジアや北米および南米の非営利団体(NPO)に大量の本を寄付している。 私が呼びかけた募金活動で、わずか3日間で1年分の金額が集まったときには、誰もがあっけにとられ、大喜びしてくれた。
こんなふうに言うと、まるで世界を変えたりするような、輝かしい人物だと思われるだろうか?
でも実際の私は、おとなしくて恥ずかしがり屋の女性だ。
何を隠そう、私はとても無口で、コーヒーを買ったときのおつりがまちがっていても、言い出せないほどなのだ。(「日本語版への序文――控えめで強力な『静かな力』」より)

『「静かな人」の戦略書』(ジル・チャン 著、神崎朗子 訳、ダイヤモンド社)の著者は、自身についてこのように記しています。

  • 『「静かな人」の戦略書』(ジル・チャン 著、神崎朗子 訳、ダイヤモンド社)

小さいころからおとなしく内向型で、すぐに緊張で体を硬くしてしまうのだと。なにをするにも優柔不断で、起こるはずもないことについて、いつもくよくよ心配しているのだと。

しかし年齢を重ね、職場経験も豊富になるにつれ、すこしずつ自分の強みを見つけていき、それを生かすための戦略を練り、うまく操れるようになっていったのだとか。

「優柔不断」は裏を返せば「思慮深い」ということだし、「心配性」はリスクマネジメントにおいては有用な資質だ。(中略)内向型の人は、アイデアや野心をもっていないわけではなく、夢を追うのにいちいち騒がないだけだ。(「日本語版への序文――控えめで強力な『静かな力』」より)

たしかにそう考えれば、短所も長所として活かすことができそうです。

とはいえ内向型の人は、オフィスや職場で自分とは性格の違うさまざまな人たちとつきあうなか、「いっそ感情を察知するアンテナをオフにしてしまいたい」と感じることも多いのではないでしょうか?

事実、場の雰囲気に耐えられずにぱっと逃げ出したり、自分の心の声を無視したりする人もいることでしょう。相手が感情的になっている場合であれば、こちらも反撃しなければならないような気持ちになることもあるかもしれません。

やられたらやり返すのは、一見よい戦略に思えるかもしれない。多くの内向型の人たちも、もっと強い態度に出ようとしたことがあるだろう。 だが、怒鳴り返すのは、かえって逆効果になる場合が多い。(中略) また、強い態度に出たことで、激しい違和感を覚えることもある。自分の性格と行動が噛み合わないからだ。(149ページより)

相手が怒っていたとしても、「応酬しなければ」とあせる必要はないわけです。どうあがいたところで、それは内向型の得意技ではないのですから。

大切なのは、まず落ち着いて直接対決を遅らせ、相手の立場からも問題を考えてみること。相手の感情や行動の理由をあれこれ想像してみれば、やがて解決の糸口が見えてくる可能性があるからです。

直接対決のタイミングを遅らせるのは、内向型にはかなり役立つ。
もし相手が一方的に怒鳴り続けていても、無理して反論したり、あわてて説明をしたりする必要はない。相手がついに黙るまで怒鳴らせておけば、こちらは考える時間を稼げるというものだ。(150ページより)

「声の大きな人」にはつい圧倒されてしまいがちですが、あえて沈黙を維持していれば、「無理に反撃する必要もないな」と思え、精神的な余裕も出てくるわけです。

また、相手の声が大きいとただただ圧倒されてしまい、肝心の話の内容に集中できなくなってしまう可能性もあります。しかしそれでは、相手との間の溝がさらに広がってしまうことになるかもしれません。

素直かつ謙虚が一番大事

『人はあなたの何を見ているか』(小宮一慶 著、エムディエヌコーポレーション)の著者もまた、「謙虚に人の話を聞く」ことの重要性を強調しています。

  • 『人はあなたの何を見ているか』(小宮一慶 著、エムディエヌコーポレーション)

数多くの講演をこなしている著者は、聴衆のなかに、人の話を斜に構えてまともに聞いていない人もいることを指摘しています。一方、偉くなった人ほど、本当に熱心に人の話を聞いているというのです。

だからこそ、素直かつ謙虚になることが一番大事なのです。
人が素直になるためには、3つのステップがあります。これを私は「素直のスリーステップ」と呼んでいます。
1番目は、人の話を聴くこと。2番目は、聴いて良いと思ったことは実行すること。そして3番目は、続けることです。(103〜104ページより)

とくに大切なのは、信用できる人の話をしっかり聴き、その人がよいと口にしたことを、すぐ行動に移すこと。そして、それを継続すること。

ちなみに著者の場合は、松下幸之助さんの著書『道をひらく』を読み続けているなど、さまざまな面において「聞く・やる・続ける」を実践しているそう。

良いと思ったことでリスクの小さいことは、すぐに始めることです。そしてやり続けることです。
素直というのは、受け入れて、前向きに対応すること。成長したいと考える人にはその両方が必要です。(106ページより)

いずれにしても「受け入れて、前向きに対応できる」人は、結果的に人から慕われるようになるのではないでしょうか? そして慕われるようになれれば、組織で生きていくことも少しずつ、でも確実に楽になっていくはず。

「慕われる人」になるために

そこで「慕われる」ことの本質と、慕われるためにすべきことを確認するべく、最後に『慕われる人の習慣』(レス・ギブリン 著、弓場 隆 訳、ダイヤモンド社)をご紹介したいと思います。

  • 『慕われる人の習慣』(レス・ギブリン 著、弓場 隆 訳、ダイヤモンド社)

著者は本書のなかで、相手の自尊心を高めることの重要性を説いています。人は「自分は重要な存在だ」と感じたがっており、誰かに大切に扱われると、自尊心を高めることができるというのです。だとすればそれは当然ながら、円滑なコミュニケーションの実現にも役立ってくれることでしょう。

そして、相手の自尊心を高めるためには「6つの習慣」が重要なのだそうです。興味深いのは、上記『人はあなたの何を見ているか』とも重複する部分があるということ。つまり、それほど普遍的な考え方なのかもしれません。

1: 相手の話にしっかり耳を傾ける(49ページより)

話を聴くことは、相手の自尊心を高めるための最良の方法。そうすることで、「相手が重要な存在だから話を聞いているのだ」と思わせることができるわけです。

2: 相手をほめる(50ページより)

人は誰しも、ほめてもらいたいという思いを抱いているもの。だからこそ「人に慕われる技術」に長けた人は、なにかを求める際に、まず心を込めて相手をほめてから要望を伝えるように心がけているのだそうです。

3: 相手の名前をできるだけ頻繁に口に出す(51ページより)

私たちはみな単なる集団の一部としてではなく、個人として大切に扱われたいと願っています。そこで、なにかを話す際には相手の名前をいい、会話のなかでも相手の名前を何度もくり返したいところ。

4: 相手の質問に答える前に少し間をおく(53ページより)

答える前に少し間を置くと、相手の自尊心を高めることが可能。なぜなら相手の質問をじっくり検討しているという印象を与え、相手を立てることができるから。

5: 相手を待たせていることに配慮する(54ページより)

人は自分を気づかってもらっていることがわかると、信頼を寄せてくれるのです。

6: 相手の話をする(55ページより)

自分の話ばかりをしていると、相手を軽視しているような印象を与えてしまうかも。しかし相手の話をすると相手に重要感を持たせ、その人の自尊心を高めることが可能。


こうしたことを日常的に意識するだけでも、組織で生きていくことに対する抵抗感は少なくなっていくのではないでしょうか? 難しいことではないだけに、試してみる価値はありそうです。