悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「FIREしたい」人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「FIREを勉強して早期リタイアを実現させたい」(29歳男性/IT関連)


近年よく目にするようになった「FIRE」とは、「経済的自立と早期リタイア」を意味するアメリカ発祥のライフスタイル。端的にいえば、資産運用による運用益で生活できるような基盤をつくり、早期リタイアしようという考え方です。

もちろん以前から、早期リタイアを目指そうという指向性自体は存在していました。ただし従来的な早期リタイアの場合の大前提は、以後も生活していけるだけのお金が手元にあること。

そういう意味では、ビジネスで早くに成功した人、あるいは莫大な遺産を相続した人などのための限定的な手段であったと考えることができるわけです。

いいかえれば、手持ちのお金がない人には難しい手段だということ。だからこそ、漠然と「40〜50代以降に考えるもの」だと思われていたのかもしれません。

しかし、その点においてFIREはちょっと違います。たとえ大きなお金を持っていなかったとしても、将来的な経済的自立を目指すことのできる手法だと考えることができるからです。ポイントは、資産運用による運用益をベースにしていること。

とはいえお金が絡むことですから、多少なりとも不安はつきまとうでしょう。それに大前提としての知識は、あらかじめしっかりと身につけておきたいところです。そこで今回は、FIREを学ぶために役立ちそうな3冊をチョイスしてみました。

「米国株」高配当再投資法で"完全FIRE"を目指す

まず、FIREの基礎をざっと確認するために参考にしたいのが、『手間なく7年で早期リタイアする「米国株」高配当再投資法 ほったらかし投資FIRE』(ゆうパパ 著、SBクリエイティブ)。著者は27歳のときにFIREを目指し、7年後の34歳で達成したという人物です。

  • 『手間なく7年で早期リタイアする「米国株」高配当再投資法 ほったらかし投資FIRE』(ゆうパパ 著、SBクリエイティブ)

現在はポルトガルでセミリタイア生活を送っているそうですが、本書では自らの実績に基づき、「いまの生活を変えることなくFIREを達成する投資法」を明らかにしているのです。

FIREするまでの間、「株価のチェック」はもちろんのこと、「売買の作業」や「評価額のチェック」、「経済ニュースのチェック」など、ほとんどしていません。もちろん副業や過度な節約なども同様で、やったことは「月1回3分のチェック」だけです。(「プロローグ」より)

ちなみに最近は、「サイドFIRE」のこともひっくるめて「FIRE」というケースが増えてきているそうです。「サイドFIRE」とは、"生活費の半分は投資による収入で、残り半分はいまの仕事、あるいはフリーランスとしての収入で賄う"というスタイルのFIRE。つまり、仕事を完全に辞めることはできないわけです。

一方、著者が提唱する「FIRE」は「完全なFIRE」。具体的には「米国株」高配当再投資法によるもので、完全に仕事を辞めることができ、投資からの収入だけで暮らせるようになる、本当の意味でのFIREなのだとか。

でも、なぜ「米国株」高配当再投資法なら短期間で、しかも"ほったらかし"でFIREできるのでしょうか? にわかには信じられませんが、その理由のひとつが「配当投資」。

「配当投資」における収益は「株価の差による儲け」ではなく、株を保有するだけで"自動的に"口座に振り込まれる「配当金」が投資の対象になるというのです。つまり買ったり売ったりする必要がないから、株価のチェックからも解放されるということ。

「でも、配当金って言ってもわずかでしょ?」と思われるかもしれません。そこでポイントとなるのが「米国株」と「(配当の)再投資」です。 ご存知の通り、米国は世界1位の経済大国です。「失われた30年」と言われている日本と違い、こうしている今も成長し続けています。その中において、「高配当」を出す企業がごまんといるのです。しかも、連続高配当・増配年数の長さおよび層の厚さが圧倒的で、連続増配50年以上が21社、連続増配25年以上50年未満が43社もあるのです。(77ページより)

そしてポイントは、その高配当を「再投資」するという点。毎月の投資額に加え、入ってきた配当金をさらにその高配当株に投資するため、配当金が雪だるま式に膨れ上がっていくというのです。

先述した「月1回のチェック」は、この「再投資」の作業を指すのだそう。興味のある方は、この流れをわかりやすく解説した本書を参考にしてみてはいかがでしょうか?

「夫婦でFIRE」を目指すメリット

『夫婦でFIRE』(グミ&パン 著、フォレスト出版)の著者は夫婦で、途中からは2人の子どもを育てながらFIREを達成したという経歴の持ち主。夫婦でFIREを目指す場合のメリットについては、次のように述べています。

  • 『夫婦でFIRE』(グミ&パン 著、フォレスト出版)

・1人の収入に頼らずに、ダブルインカムの世帯収入で資産形成ができる。
→高収入でなくてもFIREをめざせる。
→どちらかが無職になったときのリスクヘッジができる。
→平均的な収入でも、地方在住でもFIREしやすい。
・互いの得手不得手を考慮して、役割分担しながらFIREをめざせる。
・確認し合うことで無駄な出費を減らせる。
・互いに励まし合える。
(「まえがき」より)

つまり2人なら、さまざまなデメリットを補って余りある成果を出せるということのようです。

ところで「FIRE」ということばの幅は広く、どこからがFIREで、どこまではFIREでないのかわかりにくい部分があります。しかし著者は、厳密に定義することあまり意味はなく、概念のようなものだと考えればよいと主張しています。

大切なことは「FIRE」という言葉に振り回されるのではなく、「自分が何をどうしたいか?」に基づいて目的をもち、それにそった計画を立てて進むことです。あくまでそこが本質です。
その目的を達成するためには「FIRE」の考え方を使うのが、いまいちばん取り組みやすいということだと思います。(「まえがき」より)

いわば「FIRE」は手段である以前に、自分自身のなかにある価値観を代弁するものなのかもしれません。

大切なのはお金ではなく時間、FIREの本質を理解する

その証拠に、世界的に広がっていったFIREムーブメントの第一人者である『FIRE 最強の早期リタイア術 最速でお金から自由になれる究極メソッド』(クリスティー・シェン&ブライス・リャン 著、岩本正明 訳、ダイヤモンド社)の著者も次のように述べています。

  • 『FIRE 最強の早期リタイア術 最速でお金から自由になれる究極メソッド』(クリスティー・シェン&ブライス・リャン 著、岩本正明 訳、ダイヤモンド社)

お金持ちになるのは簡単なことではありません。ただ、シンプルで再現可能なことではあります。再現可能だということが、私の物語の価値を高めてくれているといまでは理解しています。私がFIRE(Financial Independence Retire Earlyの略)を発見し、そのやり方を説明したブログMillennial Revolutionを立ち上げたとき、瞬く間に早期退職者コミュニティの間の情報源になりました。
ブログの読者は私のアドバイスを実行に移し、うまくいきました。「家を買うべきですか」、「キャリアを変えるために借金をするべきですか」といった質問に対する答えは、その行為にかかる費用をほかの誰かのために働く時間に換算すればすぐに明らかになりました。
結局、大切なのはお金ではなくて時間なのです。できる限り充実した人生を送るために、いかに時間を賢く使うかなのです。(20ページより)

貧しい環境で生まれ育ってきたものの、FIREによって若干31歳でミリオネアになったという人物。いまでは世界中を旅しながら、プロとして文章を書いているそうです。

私の旅はすべての社会経済的な階層を含んでいるという特徴があります。私は非常に貧しい家に生まれました。1日44セントで家族全員が暮らしていた時期もあります。あなたがどんな階層の人でも、私の経験と照らし合わせることができると願っています。(19ページより)

つまり著者は実体験を軸にしながら、借金のリスク、投資の方法、株式市場の暴落の乗り越え方、お金と時間との密接な関係性、果ては早期リタイアの負の側面などについて多角的に論じているのです。

したがって「FIRE=気楽な手段」というようなステレオタイプな考え方とは一線を画した内容であり、FIREの本質を理解するためにはぜひとも読んでおきたい一冊であるともいえるでしょう。

たとえば著者はここで、「欠乏マインド」の重要性を強調しています。

私は欠乏のみを知る環境に生まれました。ただ、欠乏マインドは不幸中の幸いでした。事態がいつ悪くなってもおかしくないことを知っていたので、お金は尊いものであり、もし人生に安全と自立を求めているのならお金を稼がなければならないことをわかっていたのです。(73ページより)

欠乏マインドは私たちにお金が尊いものであることを教えてくれます。権利マインドは私たちが個人的責任から一時的に目をそらすことを可能にしてくれます。ただ、突然の解雇やアウトソーシングなどの恐ろしい事態は避けられません。私たちは全員、そうした事態から自分の身を守れるようにならなければならないのです。(77ページより)

そのためには自分自身のセーフティネットを構築する必要があり、だからこそFIREに意味があるとも解釈することができるわけです。


繰り返しになりますが、FIREは「手軽なお金儲けの手段」ではなく、自身の生き方や価値観と直結した概念と考えるべき。目先の華やかさに左右されることなく、「どう生きていきたいか、そのためにはお金をどうつくり、どう生かしていくべきか」と考える必要があるということです。