悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「独身なので将来のお金が心配」と悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「独身なので将来のお金が心配」(37歳男性/事務関連)
「将来的にどれくらいのお金が必要になるのか」という問題は、誰にとっても切実です。なにしろ、この先どんなことが起きるのかは予測できないのですから。ましてや独身であるなら、なおさら心配でしょうね。
したがって早いうちからお金の貯め方に関する知識をつけておき、それを実行するべきかもしれません。また、お金についての基本的な考え方を改めて確認することも決して無駄にはならないはずです。
将来的に必要なお金は「人それぞれ」
ところで独身といっても、そのスタイルはさまざま。生涯独身を貫く人もいるでしょうし、離婚した人や、パートナーに先立たれた人もいることでしょう。
タイトルからもわかるように、『おひとりさまが知って得する、お金の貯め方・増やし方』(佐藤治彦 著、ぱる出版)の著者は単身者のことを"おひとりさま"と称していますが、おひとりさまとおひとりさま予備軍は、いまや決して少数派ではないわけです。
そして、幸せなおひとりさまの生活をするためには、少し余裕のある経済環境をつくっておくことがとても大切。だからこそ「メリハリをつける」べきなのだと、経済評論家である著者は主張しています。
世の中のシステムは未だに平均とか標準を中心に作られています。家族、夫婦、会社員や公務員。お金の使い方もみんな平均や標準というものがある。
それは、自分が本当に欲しいものと、標準や平均との間には差があるということを意味します。差は自分にとっては無駄、必要がないものです。また、反対に足りないこともあるわけです。お金は大切です。ですから、自分のお金は自分のニーズに合わせて使っていく。標準仕様に合わせないということが必要です。(42〜43ページより)
つまり、将来的にいくらあったら生活できるのかは"人それぞれ"だということ。
たとえば地方に住んでいて家賃がいらない、もしくは家賃の低い賃貸に住んでいる人なら住宅費はほとんどかからないのではないでしょうか。また、地域のコミュニティのなかでうまくやっていれば、野菜や魚などの食材をもらえたりするかもしれません。ですから、そういうおひとりさまなら1ヶ月に10万円もあれば十分でしょう。
しかし都市圏で、食事は外食を基本にしながら、趣味や人とのつきあい、ときには旅行などもしながら暮らしていくとなるとしたら、1ヶ月で30万円でもギリギリかも。それどころか、家賃が月に20万円くらいのところに住んでいるとなると、50万円でも十分でないというケースも考えられます。
そうやってイメージしてみるだけでもわかるように、本当に人それぞれなのです。だからこそ著者は、自分がどんな生活をしたくて、それを実現するためにはいくらくらい必要なのかを考えてほしいというのです。
そして、いったいいくらの資産を持っていて、年金でいくらくらいのお金が入ってくるのか、調べていただいて、それらの費用で自分らしい生活が維持できるか考えてもらいたいのです。
大丈夫そうだなと思うのならそれでいいし、足りないなと心配ならお金を増やす工夫か、生活スタイルを変化させていくことも必要でしょう。(45ページより)
いいかえれば、普段の自分の生活スタイル、消費のスタイルを把握することがなにより大切だということなのでしょう。世の中にはいろいろなブームがあり、それらは魅力的に取り上げられることも少なくないだけに、「みんながやっているから自分もやる」という発想になってしまいがち。けれども、それでは危険なのです。
みんなが自動車を買うから自分も買う。みんながスタバに行くから私も行く。みんながマンションを買うから無理してでも買う。みんなが生命保険に入るからやっぱり入る。そうやって、周りに合わせていくと、お金はあっという間になくなります。それは、企業側のマーケティング戦略にまんまとズッポリはまってしまうことです。(47〜48ページより)
「住居費は収入の20〜30%くらいが目安」などといわれますが、そういった数字に惑わされる必要もないようです。たとえば、アウトドアによく出かける人と、週末も家にいて趣味に時間を使う人では、住宅に対するお金の使い方が違ってもいいはず。
大切なのは、自分のお金とのつきあい方を考えたうえで、使うべき支出はなんなのか、金融資産はどのくらい増やすべきかなどを考えていくことだというわけです。
「お金のなる木」の苗を買う
しかし同時に、少しでもお金の心配をせず、豊かに暮らしていく術を見つけたいところでもあります。そこで参考にしたいのが、『お金のなる木を育てなさい』(小林昌裕 著、朝日新聞出版)。ここでいう「お金のなる木」とは、すなわち投資や副業のことです。
仮にもしもいま会社員であるなら、毎月の生活を保障してくれるお金の木(給料)がある間に、お金のなる木の苗を買うべきだというのです。給料以外に、お金を生み出してくれる場所を自分で探し求めることが大切だという考え方。
「前に投資や副業やってみたけど、うまくいかなくて」という方にお伝えしたいことがあります。それは、お金のなる木の苗には多くの種類があるということ。ふるさと納税、ポイ活、メルカリ、NISA(ニーサ)やiDeCo(イデコ)を活用した株式投資、実働系ではウーバーイーツや副業フォトグラファーなど収入を得る多くの方法があり、新しいものも生まれています。(「はじめに お金のなる木の苗を買いなさい」より)
ちなみに著者もまた「お金のなる木を育てるための基本姿勢」として、「自分が満足だと思える人生にいくらお金が必要か」を考えてみることの重要性を強調しています。
著者自身もまずそこからはじめ、自分の性格なども加味して副業を絞り込んでいったのだとか。
私の場合は会社員であることをフル活用して銀行からお金を借りて、中古のマンションを購入し、家賃収入を得ることが最初の副業でした。
「不動産なんて不安定なもの、手を出すなんて怖い」
という人もいますが、これもまた正しい情報を得て運営することによってかなりの確率で失敗を回避できます。(59〜60ページより)
とはいえこれは、マンション投資をすべきだという意味ではありません。たまたま著者はそこからスタートしたというだけの話であり、マンション投資に限らず、各人がd無理のないことからトライしてみればいいわけです。なお、興味深いのは次の記述です。
元来私は臆病者で、臆病だったからこそ会社員の給与だけに頼れないと思って副業をはじめた人間です。だからこそここは断言したいのです。副業は臆病な人に向いています。
臆病な人にはいち早くわかるはずだからです。キャッシュポイント、つまりお金の入り口が1つであることが、どれほど、危険なことか。そして実がならなくなっている大木の下では安心を得られないということが。(60ページより)
たしかにそう考えれば、お金のなる木の必要性を実感できるかもしれません。
古代都市の大富豪から基本を学ぶ
望みや欲求を手にするためには、まずは金銭のうえで成功しなければならない。そのためにはこの本で明らかにされている「原則」をぜひ活用していただきたい。この「原則」を頼りに、金に不自由する暮らしから抜け出し、より充実した幸福な生活へと進んでいただきたい。(1ページより)
『バビロンの大富豪』(ジョージ・S・クレイソン 著、大島 豊 訳、グスコー出版)の冒頭にはこう書かれています。
本書の舞台は、いまなお世界中で活用されている「富の基本原則」が生まれ、育成された地であるとされる古代都市バビロン。現代における「富の支配法則」は、バビロンの市街に裕福な人がひしめいていた数千年前の法則と変わらないという考え方のもと、お金やビジネスに関する奥義がストーリー形式で明かされているのです。
今回はそのなかから、「第一の知恵 財布を太らせることから始めよう」をご紹介したいと思います。
「(前略)財布に十枚のコインを入れたなら、使うのは九枚まででやめておくのです。すぐに財布はふくらみ始めるでしょう。財布がだんだん重くなっていく感触は、手荷物と気持ちが良いものですし、みなさんの胸にもずしりとした満足感が湧いてきます。
これを単純なことだと馬鹿にしてはいけません。真実というのはどれも単純なものです。私は、自分の財産を作った方法をお教えしようとみなさんに約束しました。つまりこれこそが、私が最初に始めたことなのです。当時の私は財布の中身が空で、欲しいものも買えないことで財布を呪っておりました。けれども中に十枚のコインを入れたら、取り出すのは九枚までにすることを始めた途端、財布はふくらみ出したのです。みなさんの財布もまたそうなるはずです。(後略)」(60〜61ページより)
たしかに単純なことのようにも思えますが、同時に普遍的な考え方でもあるのではないでしょうか? なぜならここには、お金を貯めること、そして増やすことに関する"基本"が示されているからです。
将来に向けてお金を確保しておくためにも、本書のメッセージは役立ってくれそうです。