悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、コミュ力(コミュニケーション力)を身につけたい人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「コミュニケーション力が大事と聞きますが、どうやったら身につきますか?」(32歳男性/IT関連技術職)


なにしろ『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)という著作もあるくらいですから、僕は自分のなかに多少なりとも「コミュ障要素」があることを自覚しております。

いや、人と話をすることは決して嫌いではないんですよ。ですから、コミュニケーションが絶対的に苦手だともいい切れないのです。ただ、日常のどこかで予想外の事態に直面すると(たとえば買い物の際にレジでふいになにかを尋ねられたりとか)、必要以上にアワアワしてしまったりすることがいまでもあって……。

つい先日も似たようなことをやらかしてしまい、「まだまだダメだなぁ」と感じずにはいられなかったのですが、だからこそ今回のご相談にも納得できる部分があるんですよね。

ただしそうでありながら、ちょっとだけ開きなおっている自分も心のどこかにはいるのです。

「コミュニケーション力を身につけたいのはやまやまだけど、できることとできないことがあるのも事実。無理をしたところでできないものはできないんだから、いっそのこと"ちょっとコミュ障"なくらいの自分でいたほうが気が楽なんじゃない?」って。

まあそれも考え方次第ですが、ともあれ今回も、なんらかの役に立ちそうな3冊をチョイスしてみました。

心理カウンセラーが実践する「聞く技術」

世の中には「なんでも話してもらえる人」がいるものですが、『なぜ、あの人には何でも話してしまうのか 心理カウンセラーのすごい「聞く技術」』(山根洋士 著、アスコム)の著者によれば、そういう人には共通する"聞き方の秘訣"があるのだとか。

  • 『なぜ、あの人には何でも話してしまうのか 心理カウンセラーのすごい「聞く技術」』(山根洋士 著、アスコム)

受容・共感・自己一致
[受容]=相手の価値観や考え方を無条件に受け入れること
[共感]=相手の感情を想像して理解すること
[自己一致]=自分が自分のあるがままでいること。そして相手が「自分はこれでいい」と思えるようになること
(4ページより)

これはアメリカの心理学者カール・ロジャーズが提唱した「傾聴の3原則」に基づくもの。カウンセリングでは、相手の心を開き、信頼関係を築くために不可欠なプロセスなのだそうです。

難しそうに思えるかもしれませんが、巧みな話術を身につけるよりも、少し聞き方を変えるほうがはるかに効果的なのだと著者はいうのです。話の聞き方の本質は、「どう話すか」ではなく「どう話してもらうか」なのだとも。

つまり、おもしろい話のネタがあるとか、冗談がうまいとか、気の利いた返しができるといったようなことは、さほど重要ではないということです。

ちなみに、これまで8,000人を超える人たちの相談を受け、いろいろな職業、年齢、境遇の人たちから話を聞いてきたという著者の職業は「心理カウンセラー」。本書のことばを借りるなら、カウンセラーとは「世界で一番よく話を聞いてくれる人」なのだそう。

まったく面識のない人たちを相手に、会話をするのではなく、話を聞く。
最初は戸惑いもありました。じっと黙り込んで何かを考えている人もいる。せきを切ったようにドッと話し始める人もいる。友達のように軽快に話せる人もいる。
でも最後にはほとんどの人が、「聞いてくれてありがとう」と言ってくださるのです。(中略)
受容・共感・自己一致。相手が安心して何でも話せるように促す技術があるから、「聞くプロ」としての価値があるのです。(11〜12ページより)

そこで本書では、著者がふだん使っている「聞く技術」のなかから、仕事や日常的な会話に使えるものをまとめているのです。

たとえば著者はここで「ノージャッジ」、すなわち白黒つけないことの重要性を説いています。誰かと話しているときには、つい「正論」をぶつけたくなったりもするもの。しかし直球で正論をぶつけられることは、相手にとっては息苦しいものであることも少なくないはず。そのため、正論が会話を止めてしまう場合もあるわけです。

人が大切なことを話すとき、本当にしてほしいのは受容と共感です。相手があなたにジャッジを求めたり、間違いを正してほしいと思っていることはほぼありません。
これは聞く技術というより考え方になりますが、ものごとに唯一絶対の正解などないと思ったほうが、話し手も聞き手も気がらくです。
相手が間違っているのではなく、自分とは違う。
これが、上手な聞き手の受け止め方です。(122ページより)

たしかに、このことを意識しておくだけでも、コミュニケーションは円滑になるのではないでしょうか?

ラジオDJが教える「話し方の極意」

続いては、「話し方」の側からコミュニケーションについて考えてみましょう。参考にしたいのは、『なぜか聴きたくなる人の話し方』(秀島史香 著、朝日新聞出版)。ラジオDJである著者が、話し方の極意を明かした一冊です。

  • 『なぜか聴きたくなる人の話し方』(秀島史香 著、朝日新聞出版)

著者がラジオで話す際、なによりも大切にしているのは「会話の第一印象」。どんな話であっても、相手に「聞く耳」を持ってもらわない限りその先はないからです。

そこで、まずは相手に、「この人の話をもう少し聞いてもいいかな」と思ってもらうことが大切だというのです。また、そういう意味で、「余計な負荷をかけないこと」も重要だそう。これは、気づきにくいけれど重要な視点かもしれません。

相手に負荷をかけないためにできること。方法はシンプルです。それは「話すときには、短めの一文一文を完結させていく。つまり、意識的に『。』を増やす」ということ。(14ページより)

シンプルではありますが、仕事でも雑談でも、ここが非常に重要。基本的に人は飽きやすいため、話に興味を持たせ、それを持続させるのは簡単ではないのです。

話したいことがあるときにはついダラダラと話してしまいがちですが、それでは逆効果だということです。いうまでもなく、それでは相手に負荷がかかってしまうから。

だからこそ、話し始めはとくに意識して「。」を増やし、簡潔に言い切る。相手が話の内容を受け取る際の負荷も、理解度も大きく変わってきます。
短い一文で始めれば、「これからこんな話をしますよ」という全体像を相手につかんでもらいやすくなります。相手も「そんな話をするのだな」と聞く準備ができて、続く話の内容を受け取りやすくなります。しかも一文一文が短い話であれば、「まあ、あと少し聞いてもしんどくないか」と「聞く耳」を持ってもらえるのです。(16ページより)

話す側の立場から考えた場合、これもまた良好なコミュニケーションに欠かすことのできないポイントだといえそうです。

「人望」が集まる人間関係の基本

ところでコミュニケーションをスムーズに進ませるためには、多少なりとも「人望」が影響するのではないでしょうか? そこで最後に、『人望が集まる人の考え方』(レス・ギブリン 著、弓場 隆 訳、ディスカヴァー携書)をご紹介したいと思います。

  • 『人望が集まる人の考え方』(レス・ギブリン 著、弓場 隆 訳、ディスカヴァー携書)

よい人間関係とは、自分が求めているものを手に入れるのと引き換えに、相手が求めているものを与えることだ。
それ以外の関係はうまくいかない。(「はじめに」より)

そこで本書において著者は、自分が求めているものを手に入れて、しかも相手を満足させる技術を伝えようとしているわけです。

興味深いのは、ここで著者が明示している「人間関係の4つのルール」。相手が夫や妻、子ども、親、上司、部下、同僚、友人、知人のどれに該当しようとも、人と関わるときには次の4つを肝に銘じる必要があるというのです。

1 すべての人は程度の差こそあれ自分本位である。
2 すべての人は自分に最も強い関心を抱いている。
3 すべての人は自分が重要だと感じたがっている。
4 すべての人は他人に認められたいと思っている。
(36ページより)

程度の差こそあれ、すべての人は自分の自尊心を満たしてほしいと強く願っているもの。その願望がある程度満たされたときに初めて、人は自分のことを「忘れ」、他人に意識を向けることができるというのです。

さらにいえば、人は自分が好きになって初めて、他人に対して友好的になれるものでもあるといいます。

なるほど、そうした"基本"を踏まえ、穏やかな気持ちで接すれば、どんな人とも穏やかな関係を保つことができそうではあります。