悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、老後のために何をしたらいいか知りたい人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「将来を見据えた時に、老後のためにはどのような対応をしておいたら良いのだろう。これがベストという回答でなく、これとこれとこれ等リスク回避のための手立てをいくつか、組み合わせもまとめてくれると嬉しい(ここにばかり時間を割けないです)」(56歳/事務・企画・経営関連)


僕も56歳なので、迫りくる老後に対しての不安はなんとなく理解できます。サラリーマンではありませんから、事情の違う部分も当然あるでしょう。しかしそれでも、「どうなっていくのかな」という思いはあるわけです。

また、不安ではあるものの、その問題にばかり時間を割けないという事情もわかります。

いずれにしても我々の世代にとって(もっと下の世代にとっても)、老後は近くて遠い、輪郭が見えているようで漠然としている、そんな曖昧さを伴ったものなのかもしれません。

でも、曖昧だからと、いつまでも考えることを先送りにしていたら、「まだまだ先」だと思っていたそのタイミングが、すぐ目の前に迫っていたということになるかも。だからこそ、準備や対応は早くからしておくに越したことはないのでしょう。

そこで今回も参考になりそうな書籍を3冊ピックアップしてみたのですが、それらをご紹介するにあたって重要なポイントがあります。これら3冊それぞれが、「人生100年時代」をそれぞれの立場から意識しているということ。

ご存知の方も多いとは思いますが、「人生100年時代」とは、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授らによる2016年の著作『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)がきっかけとなって意識されるようになった価値観。

端的にいえば、定年でリタイアするという時代は終わり、これからは老いても働ける(もしくは働かなくてはならない)時代が到来するということです。だとすれば当然のことながら、「『人生100年時代』をいかに生きるか」が重要な意味を持つことになるわけです。

定年後不安「カネ・孤独・健康」を明らかにする

『定年後不安 人生100年時代の生き方』(大杉 潤著、角川新書)とは、目に飛び込んできただけで暗い気分になってしまうようなタイトルです。しかし、だからといって闇雲に恐怖心をあおっているわけではありません。

  • 『定年後不安 人生100年時代の生き方』(大杉 潤著、角川新書)

それどころか、「人生100年時代」をいかに生きるかという観点に基づき、前向きな考え方が展開されているのです。

日本でもベストセラーになった『LIFE SHIFT』の日本語版への序文にある「国連の推計によれば、2005年までに、日本の100歳以上人口は100万人を突破する見込みだ。」という記述は、衝撃的な推計として波紋を投げかけました。(「はじめに ~人生100年時代で深刻化する『定年後の3大不安』~」より)

100歳まで生きることになるということは、すなわち定年後の人生が35~40年も続くことになるということ。だとすれば必然的に不安も増えていくわけで、著者は「人生100年時代」の定年後不安として「カネ」「孤独」「健康」を3大不安(3K)と定義づけています。

そして、それらをいかに解決していけばよいか、その具体的・実践的な方法を明らかにしているわけです。

まずは、「3毛作の人生」を目指す人生設計「トリプル・キャリア」が提案されます。これは「カネ」に関する不安をなくしていくための戦略であり、その実践のための時間の使い方も解説されています。

次いで定年後の「孤独」の不安を解消するために、「コミュニケーション術」「情報リテラシー」をテーマに設定。「貢献」する姿勢の重要性や、「情報発信」についてのノウハウが紹介されます。

そして最後に焦点が当てられるのは、「健康」に対する不安とどう向き合えばよいかということ。著者の持論をもとに、「現役で働き続ける」ことによって健康は維持できることなどについて書かれています。

つまりタイトルこそ恐ろしげではあるものの、きわめて前向きな内容。なにより魅力的なのは、読者に寄り添うかのような著者のスタンスです。

「会社員の終活」を考える

同じように「人生100年時代」に注目しているのは、『幸せな定年を迎えるために 50才からやっておくべき《会社員の終活》41のルール』(麻野 進著、ぱる出版)の著者。人事コンサルタントとして30年近く、さまざまな組織の会社員を観察してきたという人物です。

  • 『幸せな定年を迎えるために 50才からやっておくべき《会社員の終活》41のルール』(麻野 進著、ぱる出版)

我々50代以上の会社員は、働くことで傍(配偶者や子供)を楽(養う)にしてきましたし、必死で働いてきたからこそ、自身の職業能力を高めることができたのは紛れもない事実です。 そしていま政府からは、社会保障の財政が厳しいので、高齢者にはできるだけ長く働いてほしいという要望があります。
会社からは人手不足が今後も続きそうなので、「60歳になったら再雇用。65歳過ぎても再々雇用」という考えに変わってきました。
自分の後半人生を考えても、"人生100年時代"に突入し、健康であれば、80歳くらいまで働かなくては生活が成り立たない状況を迎えようとしています。
この変化を前向きに捉え、「傍を楽にする」ことができれば、「終わった人」ではなく、「再び輝く人」になることが可能であり、そのチャンスが広がっていきます。(「まえがき ~『終わった人』ではなく、『再び輝く人』になるために必要なこと」より)

このパートだけを読んでみても、著者が50代以上の人々の将来を前向きに捉えていることがわかるのではないでしょうか。

具体的には、「第一次会社員人生(=20歳前後の社会人になってから、一般的な終身雇用が終了する60歳~65歳まで)の終わらせ方(身の処し方)と、後半の仕事人生に向けて準備しておきたいことがまとめられています

注目すべきは、『定年後不安 人生100年時代の生き方』が「カネ」「孤独」「健康」を3大不安と定義づけているのに対し、ここでは「仕事」「お金」「生活スタイル」を重視している点。これは、共通する部分が、人生100年時代にとっていかに重要なものであるかということの証明なのではないでしょうか。

また、幸せな人生の後半を迎えるため、50歳になったら「会社員の終活」を進めておくべきだという実践的な考え方も興味深いところです。

老後の楽しい生き方を提案

「人生100年時代」を引き合いに出しているところは、やはり同じ。しかし、50歳以降の生き方をより広い視野で捉えているのが、『図解 50歳からの人生が楽しくなる生き方』(保坂 隆著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。

  • 『図解 50歳からの人生が楽しくなる生き方』(保坂 隆著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

サラリーマンや公務員として組織で働いている以上、いつの日か必ず定年はやってきます。

まずは、来たるべき「定年」という区切りを意識することが大切です。そして、折りに触れて定年までの残り時間を確認してみましょう。(中略)
さらに、定年後の人生をどう生きるかについて考える時間も持つようにしましょう。(「イントロダクション」より)

ここまでは、上記2冊とリンクします。あくまで、主体となるのは「その後の働き方」だということです。ところが本書は、それだけで終わらないのです。

たとえば、いつまでも若々しくあるための「趣味と学び」の重要性についての考え方が提示されます。「地域デビュー」など、心がラクになる人間関係のつくり方についても解説されます。「シンプルな暮らし方」においては、「買う」よりも「選ぶ」を重視する買い物の仕方、保険の見なおしなどにまで話が及びます。

仕事のみならず、生きていくうえで必要となるすべての物事について、さまざまな提案がなされているのです。しかも「図解」とあるとおり、イラストや図版が多用されているため、大切なことを理解しやすくなっているところも大きな魅力。

「老後」と考えるとつい重苦しく考えてしまいがちかもしれませんが、思っていた以上に楽しいことが多そうだと思えるはずです。


おそらく、「人生100年時代」は現実のものになるのでしょう。「60歳でリタイア」は過去の話で、そういう意味では「老後」という言葉も風化しつつあるのかもしれません。だとすれば、上記3冊が主張しているように、「これからの人生をいかに働き、いかに遊ぶか」という視点で考えていったほうがいいのではないでしょうか。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。