皆様こんにちは、マネックス証券の益嶋です。「目指せ黒帯! 益嶋裕の日本株道場」第24回をお届けいたします。本コラムでは、「これから投資を始めたい」「投資を始めてみたけれどなかなかうまくいかない」といった方向けに、投資家としてレベルアップするためのいろいろな知識をお伝えしていきます。今月もまずは最近のマーケット動向を簡単にご紹介します。
深まる米中対立、日経平均はなんとか2万円を維持
米中の深刻な対立が続いています。トランプ大統領は8月1日に、中国からの輸入品に対して9月から10%の追加関税をかけることを発表しました。中国は猛反発し、750億ドル相当の米国からの輸入品に対し同じく9月から最大10%の追加関税を課すと発表、さらにトランプ大統領は中国の報復措置を受け同日に追加関税率のさらなる引き上げを発表しました。
なかなか解決の兆しが見えない両国の対立に株式市場も不安を強めています。米国のダウ平均は8月5日に767ドル安、14日に800ドル安、23日に623ドル安と大きく下落しました。米株安を受け日経平均も2日に453円安、5日に366円安、26日に449円安と大きく下落しましたが28日時点で2万円の節目は割り込んでおらず一定底堅い印象を受けます。
本格上昇までは時間がかかりそうですが、日本企業の業績等を踏まえると現在の株価水準はある程度割安と考えている投資家が多いのかもしれません。
少し前に話題になった「2,000万円問題」
さて、今月も本題に入っていきましょう。少し前になりますが、年金だけでは老後の生活費が2,000万円不足するとの試算をした報告書が通称「2,000万円問題」として話題になりました。
金融庁やこの報告書を作成した金融審議会 市場ワーキング・グループに対する世論の風当たりはかなり強かったですが、筆者にはこの報告書が伝えたかった真意が世の中にあまり伝わっていないように思えます。日本株とは少し離れますが、今月のコラムでは「報告書の真のメッセージ」を読み解いてみたいと思います。
老後に年金収入だけでは「2,000万円」不足するとの試算が話題となった通称「2,000万円問題」ですが、「2,000万円」というのは総務省が発表している「家計調査」に基づき試算された、統計に基づく平均値に過ぎません。
以下グラフに示したとおり、「高齢無職世帯の平均的な収入金額と支出金額を比較すると支出のほうが1カ月あたり54,520円多い」というデータを元に、
54,520円×12カ月×20年~30年=約1,300万円~2,000万円不足する
という計算がされています。この数字だけを見ると不安な気持ちを覚えて当然かもしれません。
ただし、実は報告書には以下の記載があります。
「(前略)この金額はあくまで平均の不足額から導き出したものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。(中略)重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか考えてみることである。それを考え始めた時期が現役期であれば、後で述べる長期・積立・分散投資による資産形成の検討を、リタイヤ期前後であれば、自身の就労状況の見込みや保有している金融資産や退職金などを踏まえて後の資産管理をどう行っていくかなど、生涯に亘る計画的な長期の資産形成・管理の重要性を認識することが重要である。」
(出典:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 「高齢社会における資産形成・管理」P21
報告書ではあくまで2,000万円というのは平均値であり各世帯によって大きく異なることが強調されるとともに、個々人の状況を踏まえて必要となる老後資金の準備について真剣に検討することが重要であると述べられています。
思わぬ形で話題となってしまった報告書ですが、本当に伝えたかったことの1つは、高齢化が進む中で老後に備えた資産形成を私たち一人ひとりが真剣に検討する必要がある、ということだったのではないでしょうか。
では、私たちは老後に備えてどのようなことを行うべきでしょうか? まず行うべきは、現状の把握でしょう。現在月に使っている金額はいくらなのか、現在の生活を続けると退職時に貯金はいくらあるのか、老後にどのような生活をしたいのか、その生活をするにはいくら必要で想定貯金額ではいくら足りないのかなど、考えることはたくさんあります。
その上で不足する金額が見込まれる場合、その不足をどのように埋めるのか手段を考える必要があります。手段もいろいろとあり、シンプルに節約して月々の貯金額を増やす場合もあれば、人によっては転職して給料を増やす、不確実さはあるものの投資を活用して資産を増やすことも考えられます。
筆者の所属するマネックス証券も含めて、ライフプランシミュレーションサービスを無料で提供している企業は多くあります。ぜひ今回の「2,000万円問題」をきっかけに、多くの方に老後の資産形成について考えてみていただければと思います。
今月も最後までお読みいただきありがとうございました。それではまた次回!
執筆者プロフィール : 益嶋 裕
マネックス証券 マーケット・アナリスト兼インベストメント・アドバイザー
早稲田大学政治経済学部政治学科卒。2008年4月にマネックス証券に入社。2013年からアナリスト業務に従事。2017年8月より現職。現在は「日本株銘柄フォーカス」レポートや日々の国内市況の執筆、各種ウェブコンテンツの作成に携わりながら、オンラインセミナーにも出演中。日本証券アナリスト協会検定会員。
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