自分の怒りを管理する……今注目の「アンガ―マネジメント」のエッセンスとは一体何なのか。日本アンガーマネジメント協会 代表理事の安藤俊介さんにお話を伺った。

自分の「べき」が裏切られると、怒ってしまう

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事 安藤俊介さん

――そもそも、どうして怒ってしまうのでしょうか

我々がなぜ怒るかというと、自分が信じている「べき」が裏切られたときなんです。例えば「時間を守るべき」と思っていて守られなければ頭にくるし、「マナーを守らなきゃ」と思っていたのに守られなくても頭にくる。自分がいったいどういう「べき」を持っているか知っておくのがすごく大事です。

――そうすると、自分がどういうところで怒ってしまうのかわかるんですね

「べき」って、扱いはすごく難しいです。なぜかというと、この世の中にある「べき」はすべて正解なんです。少なくとも本人にとっては。

そして、多くの「べき」は程度問題です。先ほどの「時間を守るべき」も、一般的に言えばみなさんもちろん守るべきと思ってるんですよ。ただ、程度が違うのです。言っていることは同じですが、すりあわせてみると話が合わない。

つまり、先ほどの三重丸は、実は「べき」の三重丸なんですね。一番まんなかの○は自分と同じ「べき」、そのまわりにあるのが許容はできるけど違和感がある「べき」、一番外側は自分と全然ちがう「べき」なんです。

三重丸の図。(1)「価値観が同じ」(2)「受け入れられるもの」(3)「受け入れられないもの」という構成になっている

会社員は叱られることが多いと思うんですが、なぜ叱られているのかは、上司の「べき」に関わっています。それを知っておくと、実はすごく理解できるようになってくるわけです。

すぐ怒る人は怒られ弱い!?

――最近、若手が怒ってるという話も多いかもしれません。「上司や会社がこうしてくれるべきなのに……」と

良くも悪くも、学校にいる間って全員平等なんですよね。ところが社会に出た瞬間、「そんなのウソだよ」という現実を斬りつけられてしまいます。そこで「べき」の切り替えをどうするか、考えないといけないですよね。学生の間は「みんなが教えてくれるべき」「助けてくれるべき」で良かったと思いますが、社会に出ると、そのべきをどこかでかなり切り替えないとつらくなってしまう。

この「べき」が一体何かというと、自分の理想なんです。だから、自分の理想と違うときにいちいち腹が立つんですね。

――自分にも覚えがあります

そんなときに使える、魔法の言葉は「そういうこともある」。そういうことがあっちゃいけないと思ってるといちいちイライラする。だけど生きていると理不尽なことがたくさんあるし、それが現実であって……「そういうこともある」、なんですよね。

――そう考えるとなんでも受け入れていくような気がするのですが、怒ってもいいときはあるんですか?

それは三重丸に戻ります。できるだけ(1)(2)を大きくしておいた方がいいですね。(1)(2)というのは他のひとの「べき」を許容する能力なんですよ。それが大きいと、そもそも自分が怒りにくいんですね。そして怒られ強いですよ。

怒りにくい人っていうのは、怒られ強い。なぜなら、色々な人の「べき」がわかるから、「そういうこともあるんじゃないかな」と思うんです。ところが(1)(2)が小さくて怒りっぽい人は、ちょっとでも違うと腹が立ってしまう。他の人の「べき」が理解できないから、怒られたときも「なんでそんなことを言うのか」「意味がわからない」と考えてしまうのです。

――自分のほうが正しいのに……となってしまうんですね

(1)(2)をある程度大きくする努力は必要ですが、際限なく大きくしろというわけではありません。大切なのは、安定させておくことなんです。時間に関して言えば「10時までに来たら絶対に許す」と決めたのであれば、どんなに自分の機嫌が悪くても怒らないことです。逆に1秒でも遅れたら、どんなに機嫌が良くても「遅れてるよ」と注意すること。それが、努力なんですよ。

多くの人はそれができていないので、どうしても機嫌で怒ってしまう。機嫌が良いときは(1)(2)が大きいです。機嫌が悪いときは小さくなっているから、ふだん気にならないことも気になってしまう。

更にもう1つ言えば、その三重丸を人によって変えています。この人がやったら許せるけど、あの人がやったら許せない……。

――相手は理不尽に思いますね

そうなんです!

※第3回「怒る人は得なのか、損なのか」は1月26日更新予定です。


<プロフィール>
日本アンガ―マネジメント協会
日本アンガーマネジメント協会は、ニューヨークに本部をおく「ナショナルアンガーマネジメント協会」の日本支部。教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどに日々奮闘している。また、アンガーマネジメントのトレーナーの育成にも力をいれている。