全国各地で勃発する嫁姑問題。Twitterでは3人の男の子を子育て中の秋山さんの義母ツイートが話題を呼んでいる。「孫の誕生日プレゼントは水ようかんの空き容器」「手土産にお菓子よりも現金を要求する」......そんな衝撃的な義母との終わらない戦いに挑む秋山さん。今回は「孫の運動会をオンライン配信で見た義母」の話をお届けしよう。
機械音痴な義母
お義母さんは機械に疎い。スマホは持っているが、たぶんスマホ本来の力の2%くらいしか開放できていない。買った初日に家でレクチャーをしたことがあるが、これがまた大変だった。
「まずこのアプリを押してください」
「これ?」
「そうです……あ、違います長押しすると編集画面になっちゃうので、軽く、ポンと押してください」
「押しても何もならないわよ」
「強く押しすぎです。優しく、短く、1回だけ」
「あらやだまたブルブル震えてる」
初日はこんな調子で、アプリを起動することすらままならなかった。ちょうど次男のトイレトレーニングの最中で、どちらも長期戦になるな、と覚悟をしたことを覚えている。結果としては、次男のおむつが取れたあとに、お義母さんは2本指で画面を拡大するピンチアウトを覚えた。2人とも誇らしげだった。
運動会はオンライン配信で
昨年、次男の保育園で運動会が開催された。コロナの影響もあり、学年ごとに短時間で簡素化して行うことになったが、このような状況で開催してもらえるだけでありがたかった。保護者の参加は大人1名までだが、人数を制限する代わりにオンラインでの配信も決定した。当日までにアプリをダウンロードし、事前に案内されたミーティング番号とパスワードを入力して視聴する方法だ。
運動会の当日は、私が現場へ行くことになった。お義母さんはお留守番だ。
配られたプリントには、写真付きでオンラインに接続する方法が載っていた。文字を読まずとも写真通りに操作をすれば完結する会心の出来だと思った。これさえあれば大丈夫だ。事実、小学生1年生の長男でも自力でつなぐことができたのだから。
当日お義母さんが慌てずに済むように、アプリも事前にダウンロードをした。
「このアプリを起動して、ここを押して番号を入力すれば大丈夫です」
むしろ他に説明のしようがない。お義母さんのことを少し馬鹿にしすぎではないかと反省の念すら湧いてきた。
そして持ってきた黄色の靴下をお義母さんに見せ「当日、次男はこの靴下を履いて競技をします」と伝えた。画面越しに孫を探すのはきっと大変だろうと思ってのことだったが、「そんな赤ちゃんみたいな色、孫ちゃん嫌じゃないの?」としつこく次男に問いかけが始まったので、早々に話を切り上げて帰って来た。
運動会当日、朝支度をしているとお義母さんからLINEが届いた。
「マゴニアエル」
一言、それもカタカナだ。完璧な怪文書だ。しかし今日は運動会なので、ちょっと構っている暇がない。通知だけ見て、既読は付けなかった。
するとすぐに電話が鳴る。
「おはよう」「忙しいの?」「今LINEにも送ったけど、運動会の配信は何時からか聞きたかったの」
親が我が子に付ける名前くらい沢山の思いがあの一文には込められていたのだ。分かるわけがない。
次男の着替えを手伝いながら、
「プリントの真ん中に時間が載っています。昨日お伝えしましたが、前のクラスが先に演技を始めるので、次男が出る前からオンラインにつないでいれば、時間が来て慌てなくていいと思いますよ」と言った。
そうしたら登園している間にまたスマホが震える。
「もうつないでいいの?」
保育園の前でテンキーを操作しながら、「つないでください」と言う。お義母さんが電話口で大きな声で番号を読み上げながら、番号を入力する音が聞こえる。
「つながらないじゃない」
次男が靴箱で靴を脱いでいるところで、そう聞こえた。そんなはずはない。どんなに理解の弱い老人でも大丈夫なプリントの作りだと私は確信していたからだ。
「もう一度番号を読み上げてください」と言いながら、持っていたプリントで自分も確認するが、番号はあっていた。「おかしいですね……」というと、開演5分前のアナウンスが流れた。
「やだ、運動会始まっちゃうじゃない」
いやそれはこちらの台詞だ。
夫に電話をし、すべて丸投げした。ほどなくして「英語の大文字が打てなくて入れなかったみたい」と連絡がきた。スマホデビューから1年の間に大文字を打つ機会がなかったのかと驚かされる。
定刻どおり、運動会は始まった。緊張しながらもラーメン体操を踊る次男がとてもかわいかった。スマホのカメラを構えると、またお義母さんから連絡が来た。
「音声が聞こえない」
すぐに家にいる夫に電話をし、そっちでは問題がないことを確認すると、「任せた」と言って切った。私は肉眼とカメラに次男の姿を焼き付けなければならないのだ。運動会自体は1時間程度で終わった。最初は緊張していた次男も、最後はニコニコで私のところに「楽しかった!」と言いに来てくれた。
義母も孫も楽しかった運動会
帰宅後、あの騒動はどうなったのかと聞くと、たぶん途中でどこかのボタンを押してノイズキャンセル機能が発動してしまい、無音になってしまったようだと夫から説明を受ける。
「説明が足りずご迷惑をおかけしてすみませんでした」
全く悪いとは思っていないが一応謝罪の電話をすると、お義母さんは「本当よね」と言った。偉そうでビックリした。しかし運動会自体は楽しめたようで、
「孫ちゃんが一番かわいかったわ。あの紺色のハイソックス、やっぱり孫ちゃんに似合ってるわね」
と嬉しそうだった。一体誰のことを言っているのだ。次男には黄色の靴下を履かせると言ったはずなのに。
どうも、子どもじみた色の靴下が許せなくて、(この色の方が落ち着いてステキだわ)と思った子をいつの間にか次男だと思い込んで最後まで応援していたようだった。そんな怖い話を聞くことになるとは思わなかった。
しかし訂正する元気もないのでそのまま話は終わった。あれだけの労力をかけたのに、よそ様の子を応援していたのか、という脱力感だけが残った。