機内食の予算がどんどん削られているのは前回お話しした通りだが、私たち利用者の舌は昔に比べると肥えている。昔は、機内食といえばフレンチがほとんどだった。メインはビーフステーキ、付け合わせはラタトゥーユにポテトと人参といった具合である。今でもこの懐かしいメニューも残ってはいるが、イタリアンや韓国料理、東南アジア系、それに和食と、エコノミークラスでも食事はずいぶんバラエティー豊かになった。そうしないと乗客にそっぽを向かれ、航空会社は他社との競争に勝てないからだ。
日本にはコスモ企業の他、JAL系のTFK、ロイヤル、ANAケータリング、ゲートグルメジャパンなどのケータリング会社があり、どの航空会社の機内食をつくっているかはウェブサイトでチェックできる。写真は機内食を積み込むトルコ航空 |
しかし、予算は減っている。そこで必要になるのが予算内でよりおいしい機内食をつくる腕だ。メニューは年に1回のペースで検討されるのが通常。新しいメニューを採用するときは、航空会社がケータリング会社と呼ばれる機内食工場に予算を提示、ケータリング会社では料理長以下、スタッフたちがいくつものメニューを考案し、自信作を航空会社にプレゼンする。試食が終わると、再度の検討を言い渡されることもある。独立系の会社なら同業他社との競争にもさらされ、成田ほどの巨大空港ともなればライバルも多い。
機内食の味を決めるものとは?
そんな話をしてくれたのは、成田にあるコスモ企業というケータリング会社だった。そして、成田空港に何度も試食の取材で行くうちに、筆者はあることに気が付いた。機内食の味は、航空会社ではなく、ケータリング会社によって違うのである。かける予算が大きく違えば話は変わるが、ほぼ同じ予算の場合は、ケータリング会社の違いが味の違いに直結すると見ていいだろう。
そして、コスモ企業の機内食は文字通り、ひと味違うと感じた。シンガポール航空、ヴァージン アトランティック航空、エミレーツ航空という世界のエアライン・サービスをリードし、メディアでの評価も高い3社の機内食もここでつくられている。コスモの料理長は、「独立系なので競争が厳しい」とは言っていたが、その甘えのなさが評価の高い機内食を生み出しているのだと思う。
筆者はケータリング会社を取材して以来、あまり口に合わない機内食でも残さず食べるようになった。コスモ企業の料理長が話を思い出すからだ。
※写真はすべてイスタンブールのトルコ航空の機内食工場にて撮影。