wave to earthが語る「偽物の平和」、新作『bad pieces』で向き合った不完全さ

2025年のRolling Stone Japanの対談取材で、wave to earthのダニエルは「完璧な人間はいない」という考えを語っていた。自分の弱さを認め、その先に生まれる愛を音楽に変えていく。Vo・GtのDaniel Kim(キム・ダニエル)、DrのDong Kyu Shin(シン・ドンギュ)、BaのJohn Cha(チャ・スンジョン)。韓国・ソウル発の3人組が大切にしてきたその姿勢は、2026年8月にリリースしたニューアルバム『bad pieces』にも受け継がれている。

ただし、今回の彼らは同じ場所にとどまっていない。メンバーそれぞれの作家性をより鮮明に打ち出し、楽器の選び方や音の余白を見つめ直した新作。そのタイトルは、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの平和運動「Bed Peace」に着想を得たものだ。スマートフォンで手軽に得られる「偽物の平和」と、不完全な自分に向き合いながら創作することで見えてくる「本当の平和」。世界中に活動の場を広げた彼らは今、何を大切にし、どんな音楽を鳴らそうとしているのか。11月の来日公演を控える3人に、新作に込めた思いとバンドの現在地を聞いた。

─ダニエルさんは『bad pieces』について、「これまで以上にwave to earthの本質に近い音楽になった」と語っています。今回の制作を通して、バンドとしての「本質」に一歩近づけたと感じるのは、どんな部分でしょうか。

スンジョン:僕たちはずっと以前から、バンドというのはメンバー全員で曲を書き、協力しながら音楽を作るものだと考えてきました。今回のアルバムでは、それぞれが自分の立場からバンドに貢献し、自分ならではの色を加えることができた。そういう意味で、バンドの本質に一歩近づけたんじゃないかと思います。

─アルバムタイトルの『bad pieces』は、1969年にジョン・レノンとオノ・ヨーコが行った「ベッド・イン」の際の言葉「Bed Peace」に着想を得たそうですね。今の皆さんにとって「平和」とはどんな状態なのでしょうか。また、不完全なピースを集めることと、平和というテーマはどうつながっているのでしょう?

ダニエル:今はスマートフォンで、偽物の、ある意味「悪い平和」を簡単に手に入れられる気がします。頭の中がごちゃごちゃしているときも、画面をスクロールするだけで一瞬にして頭を空っぽにできて、つかの間の平穏を味わえる。でも、そうやって簡単に気を紛らわせられるからこそ、複雑なことと向き合うのが、だんだん怖くなってしまう面もあると思うんです。

それに、今は以前よりもずっと簡単に完成品を作れる時代ですよね。だからこそ、不完全な自分自身に向き合い、そこから生まれたピースを一つひとつ集めて、つなぎ合わせる。その瞬間にこそ、本当の「平和」や「芸術」に出会える気がします。たとえ不器用なピースでも、心を込めて作った一つひとつの瞬間が、もっと長く続く平穏をもたらしてくれるからです。

─2023年の『0.1 flaws and all.』では、「不完全さを受け入れること」が重要なテーマでした。『bad pieces』にも通じる考え方だと思いますが、当時と比べて、不完全な自分との向き合い方に変化はありましたか。

ダニエル:「人って、完璧になりすぎたら死んじゃうんじゃないか」なんて考えることもあります(笑)。それくらい、完全無欠な人間なんて、なかなかいないと思うんです。だからこそ、人は成長を望んで努力するんでしょうね。でも、そこにのめり込みすぎると、結局は心が傷ついてしまう。自分のとがった部分も受け入れる、あるいは認めること。そして、心の健康を保てるくらいのペースで生きること。……いつも失敗していますけどね。僕自身、ずっと向き合い続けている課題なので、その考えは今も変わっていません。

─以前のRolling Stone Japanの取材で、ダニエルさんは、3人が同じ方向を向けるようになるまで3年かけて対話を重ねたと話してくれました。今作ではメンバーそれぞれの作家性がより鮮明に表れていますが、今回はその違いをどのように生かそうとしましたか。

ドンギュ:今回は、一人ひとりの色がもっと際立つように、それぞれの音楽がより違って聴こえる方向で制作しました。僕の曲も今回のアルバムのコンセプトにうまく合っていたので、自然に取り入れることができたんです。その曲を通して、wave to earthの新しい音楽的な方向性を示すことができたと思います。

─『bad pieces』では、いろんな楽器の響きが印象的です。一方で、音を重ねるよりも、個々の音色や余白を生かすアプローチも感じられます。今回、サウンドのバランスをどのように作っていったのでしょうか。

ダニエル:以前は若さゆえに、たくさんの音を重ねることで曲のキャラクターを作ろうとしていたんだと思います。でも、そうしているうちに、自分の耳もすぐ疲れてしまうと感じるようになって。それで今回は、楽器や演奏そのものが持つリアルな響きで作品を満たしたいと思い、一つひとつ楽器を選び始めました。アナログの時代からエレクトリック、そして現代の楽器へと至る、さまざまな時代の楽器を使ってみたかったんです。その中でCP70が、いちばん僕たちらしい楽器だと感じました。アコースティック・ピアノとエレクトリック・ピアノ、両方の性格を持っている。その特徴をうまく生かすことも目標のひとつでした。冷たい音をできるだけ温かく捉えてみたり、逆に温かい音を冷たく捉えてみたり。音の素材一つひとつが持つキャラクターを生かすことに集中しているうちに、自然とバランスが取れていった気がします。

─ローファイやジャズの質感は、wave to earthの個性として広く知られるようになりました。その分、リスナーの間にも「wave to earthらしい音」への期待があると思います。『bad pieces』の制作では、そうしたイメージとどのように向き合いましたか。

ダニエル:今回はまず、そうしたイメージをできるだけ取り払って制作を始めました。自然と出てくる従来のwave to earthらしさについても、あまり意識したくなかったんです。ただ、もっと成熟したサウンドを作ることには集中したかった。最優先したのは、それぞれの曲にいちばん合う音を作ることです。一方で、アルバムで使う楽器の種類を思い切って絞り、作品全体の音の色を統一したいとも思っていました。それが今回、意識的に変えた部分だと思います。

ドンギュ:必ずしもジャンルの特徴を変える必要はないと思います。大事なのは、誰が演奏し、誰が歌うのかということ。ジャンルが変わったからといって、僕たちの色が変わるわけではありません。これまでとは違って聴こえるかもしれませんが、『bad pieces』も僕たちが鳴らしたかった音であり、見せたかった姿なんです。「今の僕たちは、こういうものが好きなんだ」ということを伝えたかったんです。

─「heaven and hell」には、年齢を重ねても子どものような純粋さを失わずに生きようとする葛藤が込められているそうですね。バンドを取り巻く環境も大きく変わるなか、皆さんにとって「大人になること」と「純粋さを守ること」は、それぞれどんな意味を持っていますか。

スンジョン:大人になるというのは、環境が変わっても思い上がらず、いつも初心を忘れずに、何事にも謙虚に取り組むことだと思います。そして、そこから得られた結果も謙虚に受け止める。そういう姿勢は、子どものような純粋さを守ることにも通じていると思います。

─今作には「babo」「hyang」など、韓国語で歌われる曲もあります。英語詞の楽曲を通じて世界中にリスナーを広げてきた皆さんにとって、母語の韓国語で歌詞を書くことにはどんな意味がありますか。また、歌詞に使う言語はどのように決まるのでしょう?

ダニエル:曲を書いていると、その瞬間に自然と心に浮かんでくる言語があるんです。特に韓国語で書く曲では、その感覚がもっと強く訪れることが多いですね。気づいたら、頭の中で韓国語の歌詞を書いている。韓国語だと、より複雑な感情を扱える気がします。母語だからこそ、もっと慎重に、たくさんのものを言葉に込められるんですよね。

─wave to earthはレコーディングやミックス、マスタリングなど、自分たちの手で音楽を作り上げる姿勢を大切にしてきました。活動規模が大きくなった今も、制作において「ここだけは自分たちで担いたい」と思う部分は何でしょうか。

ダニエル:レコーディングとミックスは、特に手放したくない部分のひとつですね。プロデュースに加えて、録音やミックスも自分で手がけて、そのなかで自分の成長を実感できることに、すごくやりがいを感じるんです。

ドンギュ:ミックスとマスタリングだけは、絶対に手放せません。

スンジョン:ドラムです(笑)。

─「the pieces tour」では、ニューヨークのRadio City Music HallやロサンゼルスのGreek Theatreなど、大規模な会場を巡り、11月には日本公演も控えています。『bad pieces』の親密な音楽を、大きなステージではどのように届けたいですか。また、日本の観客にはどんな時間を過ごしてほしいでしょうか。

ダニエル:大きな会場ではありますが、僕たちの家、あるいはスタジオにみんなを招いて、一緒にくつろいだ時間を過ごせたらと思っています。僕たちの間では、『ハウルの動く城』になぞらえて「動く家」と表現したりもするんです。いつ、どこにいても、僕たちの音楽を聴いている間だけは、心の中の小さな家のように、ささやかな避難場所になれたらうれしいですね。

ドンギュ:以前も今も変わらず、いつでもリラックスして僕たちの音楽を聴いてもらえたらと思っています。『bad pieces』をきっかけに、これまでとは違うスタイルも見せるようになりましたが、その変化も気負わず、自然に楽しんでもらえたらうれしいです。

『bad pieces』

wave to earth

配信中

配信リンク:https://orcd.co/badpieces

1. talking 'bout u

2. everything comes and goes

3. babo

4. sing it all again

5. skylark

6. courage

7. cherry flavoured love inside your heart

8. hyang

9. you

10. heaven and hell

11. closing.

wave to earth - the pieces tour

大阪公演

2026年11月26日(木)

会場:BIGCAT

開場18:00/開演19:00

東京公演

2026年11月27日(金)

会場:Zepp DiverCity(TOKYO)

開場18:00/開演19:00

チケット料金(税込)

スタンディング:10,300円(SOLD OUT)

2F指定席:12,800円(東京公演のみ/SOLD OUT)

VIP M&G PACKAGE:32,100円(残りわずか)

VIP EARLY ENTRY & SOUNDCHECK PACKAGE:23,000円(東京公演のみ/SOLD OUT)

※入場時別途ドリンク代が必要。チケットの販売状況は2026年11月3日時点。

お問い合わせ:LIVE NATION H.I.P. 03-3475-9999

来日公演特設サイト:https://www.livenationhip.co.jp/all-events/wave-to-earth-tickets-ae1466845