
フロントマンであるザカリー・コール・スミスのソロ・プロジェクトとして始まり、シューゲイザーやドリーム・ポップの新たな潮流を象徴するアクトとして2010年代以降のUSインディ・シーンを牽引してきたDIIV(ダイヴ)。彼らの歩みは、そのままサウンドと制作体制の劇的な進化の歴史であるといっていい。初期のドリーミーなギター・ロックから一転、音のレイヤーを削ぎ落として研ぎ澄まされたヘヴィな音像に肉薄した『Deceiver』(2019年)。続く『Frog in Boiling Water』(2024年)では、ライブ・バンドとしての身体性をあえて手放すようにドラムマシンやサンプラーを導入し、崩壊に向かう社会の閉塞感を重く濁ったディストピア的なスロウコアで描き出した。こうした過程の裏で、彼らは幾度もの対話と緊張状態を乗り越え、コール個人のビジョンからメンバー全員がプロダクションに関わる完全なる「民主的なバンド」へと移行し、社会への批評性と音楽的な実験性を突き詰めてきた。
そうしたプロセスをへて辿り着いた5作目のニュー・アルバム『ZIRP!』で、彼らはかつてのダークな手触りを捨て去り、鮮やかな輪郭と明快なフックを備えた「ポップ・ミュージック」へと大胆に舵を切った。「ゼロ金利政策」を意味するタイトルが示す通り、巨大プラットフォームによる均質化や資本主義の袋小路といった社会風刺をテーマに抱えつつも、ここで鳴らされているサウンドは、重苦しい閉塞感から解き放たれ、鮮やかな色彩と瑞々しい躍動感に満ちている。特筆すべきは、現代ポップ・ミュージックの最前線に立つA.G.クックをプロデューサーに迎えたことだろう。PC上での徹底した解体を得意とする彼が、ここではむしろ生ドラムの録音やギターのペダルエフェクトを用いた細部の音作りを重視し、前作で機械的なビートに接近したバンドを肉体的なライブ・アンサンブルへと引き戻すという、興味深いアプローチの反転が起きている。
強烈なアイロニーを忍ばせた極上のポップ・レコードはいかにして誕生したのか。「ニュー・オルタナティブ(The New Alternative)」というコピーも躍る本作の背景につい
て、コールに語ってもらった。
※2027年2月に来日公演を開催、詳細は記事末尾にて
暗闇を経てポップへ
ー新曲「Trillions」のミュージック・ビデオが印象的でした。札束で顔を扇ぎ、「DIIV GOES POP」という見出しの架空の雑誌を読む姿は、かつてのロック・バンドが通過してきた「セルアウト」の歴史に対する痛烈なパロディに見えます。この「成金ポップスター」のカリカチュアを、今のDIIVがあえて演じてみせた意図は何だったのでしょうか。
コール:今回のアルバムがテーマにしている時代背景について考えてみると、僕らが生きるこの「ZIRP(ゼロ金利)時代」の企業って、ブランディングやイメージによって強烈に特徴づけられていると思うんだ。それについて考えれば考えるほど、僕たちは「ポップ・ミュージックというのは、そもそもマーケティングそのものが組み込まれた音楽なんじゃないか」という結論に辿り着いた。だから、その”マーケティング”という要素を使って遊んでみたかったんだ。MVだってある意味ではマーケティングのツールだし、シングルもレコードを売るためのツールだよね。だからこそ、そういうものを扱う上で、僕たちが遊んでみたかった切り口の一つだったんだ。
ーその視覚的な”ポップ化”の宣言は、実際のサウンドの変化ともリンクしています。前作『Frog in Boiling Water』は、ゆっくりと崩壊していく社会の「心地よい惨めさ」というテーマ同様、サウンド自体も重く濁っていてディストピア的で、エリオット・スミスやスロウコアの影響を感じさせるダークなレコードでした。そこから今作のきらびやかなポップへの大胆な移行は、どのような必然性やきっかけから生まれたのでしょうか。
コール:そこに至るまでには、いろんなきっかけがあったと思う。一つは、『Frog in Boiling Water』が作るのにかなり苦労したアルバムだったということ。すごく時間がかかったし、制作そのものが本当に大変だった。だから、あまりにも完璧主義になって一つのことに過剰にこだわり続けるような制作の仕方は避けたいという気持ちが強かったんだ。それから、僕個人の話になるけど、『Frog〜』は僕にまだ子供がいなかった頃、ちょうど妻が第一子を妊娠していた時期に書いたアルバムなんだよね。初めて子供が生まれる前って、いろんな感情に圧倒されるし、ものすごく怖くなる。世界についての大きな問題をあれこれ考えるようになるし、すごく実存的なことを考えるようにもなる。世界の未来に対して、もう希望がないんじゃないかという気持ちが強かった。でもその一方で、ほんのわずかな希望も持っていたんだ。子供を持つことって、ある意味ではものすごくラディカルな希望の表れでもあるからね。
ーええ。
コール:それに対して、今回の『ZIRP』の制作中は家に子供が二人いた。子供がいると、否応なく今この瞬間を生きることになる。目の前にあることだけに集中するようになるんだよね。それに、遊びや楽しさが本当にたくさんある。そうすると、世界についての大きな問題はひとまず脇に追いやられて、もっと目の前の、その瞬間の出来事に意識が向くようになるんだ。僕個人にとっては、それが大きな変化だった。その変化は、音楽にもすごく表れていると思う。今回は制作自体が本当に楽しかったし、何か巨大な問題について延々と考え込むんじゃなくて、アルバムを作っているその瞬間を生きていたような感じだったんだ。
A.G.クックとの化学反応
ーその「変化」というところに関していうと、今作最大の驚きはA.G.クックをプロデューサーに迎えたことです。現代のポップ・ミュージックとエレクトロニックの最前線に立つ彼にプロデュースをオファーした一番の理由は何だったのでしょうか。
コール:というか、彼と仕事をしたくない人なんていないよね(笑)。僕が思いつく限り、彼は最高のプロデューサーであり、ミュージシャンの一人だから。僕たちは、彼が手がけたThy Slaughterっていうプロジェクトにすごく興奮したんだ。ある種のロック作品なんだけど、人間の声を使って作られたすごく奇妙なギター・ソロが入っていたり、本当に面白いプロダクションの手法が使われていたりして。彼は以前からロック・ミュージックにも色々と手を出していたけれど、彼自身のソロ作『Britpop』が出た時に、ロック・ミュージックに対する、すごく先進的で現代的なアプローチが見えて、僕たちは彼と通じ合うものを確信した。だから、何がどうなろうとA.G.とは絶対に一緒に仕事がしたいと思ってたんだ。で、最初は、曲を一旦バラバラにして、それを組み直すような、ある意味で破壊的な曲作りのプロセスを考えていて、そういうアイディアを彼に持ちかけた。でも彼はそれにあまり興味を示さなかった。彼が興味を持っていたのは、バンドの生のサウンドを尊重して、僕たちが最初から持っていたヴィジョンに忠実でいることだったんだ。やってみると、それがすごく楽しかったんだよね。
ーそれは面白い逆転現象ですね。前作であなたたちはドラムマシンやサンプラーを使い「ライブ・バンドらしさからの脱却」を試みていた。でも今回、プライマル・スクリームの『Screamadelica』のようにデモをダンス・ミュージックとして解体・再構築する想定だったA.G.クックの側が、DIIVの「生のアンサンブル」に魅了され、アナログなアプローチへと方針転換していった。そのプロセスを詳しく教えてください。
コール:それは瞬時にそうなったんだ。一緒に座って曲を聴き始めたときにすぐそれが起こった。最初にやったことの一つが、生ドラムのレコーディングだったんだよね。だから、コンピューター上で音楽を作るというより、ライブ演奏の環境に根ざした制作になって、それが全体の方向性を決めることになった。A.G.は、僕たちに自信も与えてくれたんだ。「あれ、この曲って実は結構いい曲なんじゃないか。わざわざバラバラにする必要なんてないんじゃないか」ってね。A.G.が、「この曲いいじゃん。これを仕上げていこうよ」と言ってくれたのは、僕たちにとっては本当に嬉しいことだった。それに、これは僕たちが何度も経験してきたことで、そこから毎回学んでいることでもあるんだけど、一緒に仕事をするプロデューサーたちは、バンドのライブサウンドを捉えたがるんだよね。それはきっと、それが僕たちが得意としていることだからだと思う。
ーそういえば、最近サンパウロでのライブでチャーリーXCXの楽曲(「Playboy Bunny」)をカバーしてましたよね。これはA.G.クックを介した偶然の”交差点”だったのか、それとも現代のポップ・アイコンである彼女の音楽そのものに以前から強い関心を持っていたのでしょうか。
コール:もちろん、もともとチャーリーXCXのファンだったよ。あの曲を選ぶのは面白いと思ったんだ。というのも、A.G.は僕たちのアルバムを作っていたのと同時期に『Music, Fashion, Film』の制作にも関わっていたからね。パリとロサンゼルス、あるいはモンタナやロンドンとか、色々な場所を行ったり来たりしながら、両方の作品を同時進行で手がけていたんだ。僕たちは彼の仕事のやり方について、ものすごく多くのことを学んでいた。だから、その作品がリリースされた時には、コンピューターの前で髪を揺らしながら頭を上下に動かしている彼の姿がはっきりと思い浮かんだんだよね(笑)。彼がどうやって曲を書くのか、どうやってギターを弾くのかも理解できるようになっていたから、その作品の中に彼らしさを聴き取るのがすごく楽しかった。
ースタジオで濃密な時間を共有したからこそ、彼の音楽の聴こえ方も変わったんですね。
コール:でも、A.G.とのつながりや、僕たちがチャーリーに夢中だということ以外にも、あの曲を選んだ理由があるんだ。それは、あの曲がまさに「ブランディング」についての曲だということ。あの曲は、シンプルなブランドのイメージと同じくらい象徴的な曲を作る、ということについて歌っている。つまり、「プレイボーイのバニーのロゴみたいな曲を作ろう」ということだよね。それって、曲作りのテーマとしてすごく面白いと思って。彼女が音楽について、ブランディングとすごく近いものとして考えているのを聴くのが本当に興味深かった。それは、マーケティングとポップ・ミュージックは密接に結びついている、という僕たちの考えを裏付けてくれるようなものでもあったんだ。あと、僕はあの曲自体が大好きなんだよね。別の曲を書くことについて歌っている曲だし、僕にとってはすごく興味深い曲なんだ。それに、あのアルバム全体の中でも、伝統的な意味で一番ロックに近い曲の一つだと思う。だから、ライブで演奏したらすごく楽しそうだと思ったし、実際に楽しかった。そういう色々な理由が重なって、あの曲をカバーすることにしたんだ。
ーその一方で、あなたは「ペダルボード(エフェクター)」から曲を構築するタイプの作家であり、A.G.クックは「DAW(PC画面)」上で音楽を構築するタイプの音楽家です。この全く異なるアプローチがスタジオで衝突した時、最も予想を裏切られた出来事は何でしたか。
コール:A.G.って面白い人で、時期によっていろんなモードに入るんだ。例えば、「楽器は一切使わない。コンピューターだけでやる」と言い出したりね。でも、僕たちと仕事をする少し前は、ちょうどエフェクターペダルにすごく興味を持っていた時期だったんだよ。だから、彼が持っているペダルを色々試して遊ぶのは、僕たちにとってもすごく楽しかった。彼のコレクションにあるペダルって、どれも何か特別な特徴があって、しかもすごく具体的な特徴なんだよね。彼がそのペダルを気に入っているのには必ず理由があって、単に「音がいいから」というわけじゃない。例えば、「この変わったディストーションペダルには6バンドのEQがついている」とか、そういうすごく具体的な理由がある。そういう、彼が見つけ出した、何か特殊で変わった機能が必ずあるんだよね。しかも、高価なものばかりじゃないんだよ。たまたま見つけた中古品とか、そういう雑多なものが多い。それに、ペダル同士をつなぐ方法についても、すごく面白くて興味深いやり方を見つけていた。彼はノブがたくさんついた大きな金属製の箱を持っていて、そこにいくつものペダルを接続できるんだ。それを使うと、いろんなループを作ることができる。そうやって音を混ぜ合わせるのが、すごく面白かったんだよね。
ーなるほど。
コール:一方で、DAWを使った作業も見ていてすごく楽しかった。彼がコンピューターを操作するところを見ると、とにかく動きが速いんだ。何をやっているのか、まったくわからないくらい(笑)。それに、見た目がすごく変わったプラグインを次々に立ち上げるんだよ。無料のプラグインもたくさん使っていて、なんというか、見ているだけで本当に興味深かった。でも、ギターの世界とコンピューターの世界という、ふたつの異なる世界が出会った、という感じではなかったと思う。むしろ、僕たち双方が歩み寄って、ちょうど中間のところに共通の場所を見つけたんだ。だからアルバム全体を通して、僕たちに合った制作のプロセスを見つけることができた。しかもそのやり方は、A. G.が普段やっているものよりずっとコンピューターに頼らないものだったと思う。僕たちはスタジオの部屋でギターを弾いている時間がすごく長かったし、その間、彼は床に座り込んでペダルのノブをいじったりしていたからね。
ーなかでも、両者のケミストリーが最も結実した手応えのある曲を挙げるならどれでしょうか。
コール:「The Fountain」はいい例だと思う。あの曲には、僕たちが作り込んだギターのテクスチャーがたくさんあって、ひとつひとつのギターサウンドもすごく独特なんだ。それで、曲のメインのフックになる部分に、A. G.がkHs Trance Gateという無料のプラグインをポンと加えたんだよね。つまり、そこではコンピューターの世界からプラグインを持ち込んだわけだ。でもライブでその曲を演奏するためには、今度は僕たちがその音を逆算して再現しなきゃいけなかった。それで、あるペダルを改造して、基本的にそのパートと同じことができるようにしたんだ。だからその質問に一番近い答えを挙げるとしたら、たぶんこの曲かな。
ー今伺ったように、今回の制作でスリリングだったのは、A.G.クックがハイパーポップ的なサウンドを移植するのではなく、むしろ「バンド・サウンドの身体性」を掘り起こした点です。一般的なシューゲイズは高音域に焦点が当たりがちですが、DIIVは強靭な推進力を持ったベースとドラムが常に核を担ってきました。クラブ・ミュージックのローエンドを知り尽くした彼は、今作でDIIVの低音域をどのようにデザインしたのでしょうか。
コール:実は、ベースもドラムも、両方とも生でレコーディングしたんだ。本当に、ほとんどそのままの生演奏だよ。ベースに関しては、特別なことはあまりしていないと思う。多くのプロデューサーは、低音域を強調するためにサブベースを加えたりするけど、僕たちはそれをやらなかった。ドラムに関しては……どうだったかな。これもかなり生の音なんだよね。曲によっては、ドラムマシンのキックやスネアを重ねていたこともあったかもしれない。でも基本的には、ほぼ生楽器の音を、ある特定のやり方でミックスしているだけなんだよ。
ーちなみに、前作の制作時はスロウコアの重苦しいペース感がインスピレーションだったと語られていましたが、今作のスタジオではバンドとA.G.クックの間でどんな「リファレンス」が共有されていましたか。リスナーの予想を裏切るようなポップ・レコードやクラブ・ミュージックも含まれていたのではないか?と推測するのですが。
コール:A. G.は音楽について本当に詳しいから、いろんな曲を聴かせてくれたんだ。例えば、あるタイプの曲でオートチューンがどう機能しているかとか、何かすごく具体的なことを説明するために曲をかけてくれることが多かった。でも、僕たちが曲を書いていたときによく聴いていたのは、プロディジーだね。彼らはクラブ・ミュージックとロック、それにほかのジャンルも、本当にクレイジーなやり方で融合させていたと思うんだ。だから彼らの音楽は間違いなくたくさん聴いていた。あとは、後期のスマッシング・パンプキンズとかかな。でもどうだろう。僕たちは昔から、ほかの音楽からの影響がすごくわかりやすく表れるバンドだったんだよね。自分たちが何に影響を受けているのか、隠さずに見せるのが好きだった。でも、今回のアルバムでは、そこまでほかの音楽を参考にしていなかったんだ。むしろ、僕たち自身の音楽的な言語を作ろうとしていたんだよね。
ー他のアーティストの曲を聴きはするけれど、技術的な部分で影響を受けなくなったということですか。
コール:そう。何かを参考にしたり、そこからアイデアをいただいたりするような聴き方は、あまりしなくなった。以前は、音楽をすごく細かいところまで掘り下げて聴いていたんだ。例えば、「このギターの音を聴くと、自分はどういう気持ちになるんだろう?」とかね。でも今は、もっと視野を広げて、ただその音楽をありのままに聴けるようになったと思う。技術的な耳で聴きすぎると、音楽を聴くこと自体が楽しくなくなってしまうからね
「ニュー・オルタナティブ」が意味するもの
ーところで、今作のプレスリリースで、スレイター(Slayyyter)やターンスタイルと並べる形でDIIVを「ニュー・オルタナティブ(The New Alternative)」と形容した記述が目に止まりました。ハードコアもハイパーポップもインディもプレイリスト上で等価に消費される”文脈が崩壊した時代”において、DIIVが考える「ニュー・オルタナティブ」とは具体的にどのような態度を指すのでしょうか。
コール:僕にとっての「ニュー・オルタナティブ」は、昔からあるオルタナティブ・ミュージックという考え方に対する、ある種の反応なんだ。昔のオルタナティブ・ミュージックは、ポップ・ミュージックに対するオルタナティブ──つまり対抗する存在だった。ポップは企業が作り出す商品で、オルタナティブはもっと本物で、企業的ではないもの、という考え方だったんだよね。でも、この20年から30年の間に、その関係はほとんど逆転してしまった。今のオルタナティブ・ミュージック──例えばオルタナティブのチャートに入っているような音楽は、すごく企業的で、平坦なものに感じられるんだ。僕たちが共感できるようなアーティストもあまりいない。でもその一方で、ポップ・ミュージックはどうかというと、チャーリーXCXやスレイター、ジェーン・リムーヴァーのようなアーティストがいる。彼らはものすごく実験的で、先進的なポップ・ミュージックを作っているんだ。そう考えると、「今、何に対するオルタナティブが必要なんだろう?」と思うわけ。もはや”ポップ・ミュージックに対するオルタナティブ”なんて必要ないんだよ。今必要なのは”オルタナティブ・ミュージックに対するオルタナティブ”なんだ。
ーかつてとは完全に構図が逆転している、と。
コール:だから僕たちは、企業的になってしまったオルタナティブ・ミュージックに対抗するものとして、旗を立てようとしているんだよ。そこには、反企業的、反資本主義的な感覚も含まれていると思う。そして、それこそが、こうしたアーティストたちを結びつけているもののひとつなんじゃないかな。つまり、メインストリームのオルタナティブにも、メインストリームのポップにも当てはまらず、企業的なものに対抗するような、あるいは既存の価値観に挑戦するようなアートを作っているのなら、その人は「ニュー・オルタナティブ」に属しているということ。もちろん、僕たちがそれを発明したわけじゃない。ただ、そこから会話を始めたいと思っているだけなんだ。
ー先ほど「DIIV GOES POP」というコピーの話が出ましたが、「ポップ」には曲の構造や音の質感、大衆へのアティテュードなど様々な定義があると思います。今作であなたたちが挑みたかった「ポップ」の定義とは何だったのでしょうか。
コール:そもそも僕たちは「ポップ・アルバムを作ろう」と思って制作を始めたわけじゃない。でも、制作を進める中で生まれた曲のいくつかは、僕たちがこれまで作ってきた中で最もポップなものになったと思う。僕にとって、音楽で一番ワクワクするのは「誰かがリスクを冒している」のを聴くこと。でも、僕たちがもっとノイジーになったり、もっと実験的な方向に進んだりすることは、あまりリスクには感じられなかった。そういう方向に行くこと自体は、そこまで大きな挑戦じゃないからね。むしろ、リスクがあると感じたのは「ポップ・ミュージックを受け入れること」だったんだ。
ーわかります。
コール:僕は「ポップ」という言葉を、文字どおり「ポピュラー・ミュージック」という意味で捉えている。そして、僕たちは本気でもっと多くの人たちに音楽を届けたいと思っているんだ。それに、A. G.のようにポップ・ミュージックの世界で豊富な経験を持つ人と一緒にその領域を探っていくのはすごく面白かった。そうすることで、僕たちがただポップスターの真似事をしているとか、何かを装っているような感じにはならなかったんだ。むしろ、一緒に自分たちにとって新しくて、ワクワクするようなものを作っている感覚だった。そして、そのためには、ポップの世界に少し足を踏み入れる必要があったんだと思う。
ーDIIVはあなた1人のプロジェクトから始まり、今ではメンバー全員が関わる「民主的なバンド」になりました。前作の制作では数年にわたる緊張状態があり、役割を話し合う”サミット”が開かれたと聞いています。その経験は、今回の制作におけるバンド内の空気やダイナミズムにどう生きましたか。
コール:あの経験を通して、バンドの中に信頼関係が築かれたと思うし、意思決定のあり方についても、いろんなことを学んだんだ。例えば、必ずしもすべての決定に全員が関わる必要はない、ということとかね。もちろん、全員に発言権はあるし、反対意見を言うこともできる。何か納得できないことがあれば、それを伝えることもできる。でも、今回のアルバムでは、A. G.がある意味で舵取りをしてくれたんだ。僕たちは彼のことをものすごく信頼していたから、そのおかげで、メンバーの何人かは少し肩の力を抜くことができたんじゃないかな。僕自身も、前作のときより少し積極的に曲の方向性を決められるようになって、それが楽しかったんだ。それに他のメンバーも、自分たちがアルバムに何を求めているのか、僕に直接話せることはわかっていた。そして、最終的にはどんなこともA. G.を通して形になっていくということも全員が理解していたんだ。僕たちは彼を本当に信頼していたからね。だから、制作のプロセスは間違いなく前作とは全然違うものになった。でも、だからといって、誰かが制作に関わらなくなったわけじゃない。全員がしっかり参加していたし、積極的に関わっていた。ただ、細かいことにとらわれすぎて、何も決められなくなるような状態には陥らなかったんだ。

ー2026年現在、アルゴリズムによる均質化や資本主義の袋小路が極まっているように感じます。その中で、ギターを持ったインディ・ロック・バンドが鳴らし得る”最もラディカルな表現”とは、結局のところ何だと思いますか。
コール:そうだな。ラディカルなことなら、いろいろできると思うよ。たぶんRolling Stoneには載せられないようなことも含めてね(笑)。でも、どうだろう……それは僕たち自身もよく考えることなんだ。これまで僕たちが取り組んできたいろんなジャンルについて言えば、既存の慣習を破ったり、自分たちが確立してきたサウンドから離れたりするときに、最も面白い音楽が生まれるということはわかっていた。それは、僕が大好きな多くのバンドを見ていても感じること。彼らが音楽そのものに興味を持って、新しいことに挑戦したり、楽しんだり、実験したりし始める姿を見るのは本当に興味深い。そして、それまでに確立されたスタイルから離れることには、リスクが伴うんだよね。
ー今回のアルバムは、まさにそのリスクを厭わずに踏み出した結果だと。
コール:でも、本当にいろんな方法があると思う。例えば、Spotifyをボイコットしたバンドもいるよね。もちろん、僕がここでボイコットを呼びかけているわけじゃないよ。でも、そういう行動はリスクを伴うと思う。だって、自分たちの収入に直接影響するわけだから。僕たちはみんな、かろうじて生き延びているような状態なんだよ。だから、本当に多くのことにリスクが伴う。そして、そうしたリスクを冒すことで、場合によっては大きなものを失ってしまう場合もある。音楽で生計を立てる手段を失ったり、音楽を作り続けること自体ができなくなったりする可能性があるんだ。アルゴリズムの影響力がどんどん強くなっていく中で、僕たちが誰の音楽を聴けるのか、どんな人たちの音楽に触れられるのかということも、すごく制限されるようになっている。というのも、本来なら音楽を作りたいと思っている人たちの多くが、経済的な理由でそれを続けられなくなっているからね。だから、音楽を作ること自体ができなくなるほどのリスクは冒したくないわけだ。だから、どうだろう……本当にいろんなやり方があると思うけど、音楽を作るうえで冒険する精神を大切にすること、それ自体がロックバンドにとってすごく楽しくて大切なことなんじゃないかな。最近は、そういうことをやっているロックバンドがたくさんいると思う。だからこそ、今の音楽シーンを僕はすごく面白いと感じているんだ。
ーかつてあなたは「もしトレンドに迎合してエレクトロニックなレコードを作ったら、DIIVとしてのアイデンティティがなくなる」と語っていました。今作はかつてないほどエレクトロニックな質感とポップスに接近していますが、それでも紛れもなくDIIVの音として鳴っています。今回の制作を経て、結果的に「絶対に失われないDIIVのコア(核)」とは何だと再発見しましたか。
コール:そんなことを言った覚えはないけど、きっと言ったんだろうね(笑)。僕たちはみんな、DIIVとは何なのか、DIIVのサウンドとはどういうものなのか、常に考え続けているんだ。その一部は、僕たち自身でコントロールできることだと思う。最終的には、DIIVがどんな音を鳴らすのかは、僕たち自身が決めることができるわけだから。僕たちが作ったものが、文字どおり僕たちのサウンドになるわけだからね。でもその一方で、自分たちではコントロールできない部分もある。というのも、そこには何か、はっきりとは捉えられないようなイメージというか、僕たちがずっと追いかけている何かがあるんだよ。「このバンドのサウンドとは何なのか?」「すべての作品に共通して流れているものは何なのか?」──そういうこと。僕たち自身も分かってはいるんだ。自分たちが作った曲を聴いて、「ああ、これは僕たちらしい音だな。よかった」って思うことがある。でも僕たちはずっと、それが何なのかを理解しようとしているんだ。でもなんというか、聴けばわかる、という感じで、それが何なのか僕自身にもいまだによくわからない。最終的には、僕たちが何を作ったとしても、ある意味では僕たちらしくない音にするほうが難しいんじゃないかと思うね。

DIIV
『ZIRP!』
発売中
再生・購入:https://ffm.to/diiv-zirp

DIIV 来日公演 2027
2027年2月24日(水)東京・KANDA SQUARE HALL
2027年2月25日(木)東京・KANDA SQUARE HALL
OPEN 18:00 / START 19:00
チケット:スタンディング 前売8,800円(税込/ドリンク代別)
