乳がんは女性が罹患するがんの中でも多いがん。すべての女性が気をつけたいものですが、「家族に乳がんの人がいないから大丈夫」と考える人もいるかもしれません。乳がんの発症リスクには、遺伝だけでなく、年齢や生活習慣、女性ホルモンなどさまざまな要因が関係します。リスクを知ったうえで、自分の体のためにできることを考えていきましょう。

「家族に乳がんの人がいる」とリスクは高くなる?

「がん家系」ともいわれるように、血縁者の間でがんになる人が多いケースがあります。乳がんの場合はどうなのでしょうか。

乳がんの「家族歴」とは

「家族歴」は家族や血縁者の病歴を指します。血縁者に乳がんになった人がいると、いない人よりも乳がんの発症リスクが高くなることがわかっています。さらに、乳がんになった人と血縁関係が近いほど、また乳がんになった血縁者の人数が多いほど、リスクが高くなります。

多くの研究をまとめた報告では、祖母・孫・おば・姪に乳がんになった人がいる女性では、いない女性と比べて自身が乳がんになるリスクはおおよそ1.5倍。親・子・姉妹にいる女性では、2倍以上になるとされています。

ただし、これは集団を比較した場合のリスクの違いです。家族に乳がんの人がいたからといって、自分も必ずなるわけではありません。逆に家族歴がない人でも、乳がんになることがあります。

「遺伝性乳がん」とは?

乳がん全体の5~10%ほどは遺伝性といわれています。これは、乳がんそのものが遺伝するという意味ではなく、乳がんを発症しやすくなる遺伝子の変化が、親から子に受け継がれる場合があるということです。

代表的なものに、BRCA1またはBRCA2という遺伝子の、病気に関係する変化(病的バリアント)があります。ただし、こうした変化がある人すべてが乳がんを発症するわけではありません。

遺伝性乳がんは乳がん全体の一部ですが、それ以外の乳がんが「遺伝的な要因とは無関係」「生活習慣が主な原因」と言い切れるわけではありません。乳がんの発症には複数の要因が関わり、一人ひとりの発症原因を特定できないこともあります。

家族歴などから遺伝性乳がんが心配な場合は、乳腺外科などで相談しましょう。必要に応じて、遺伝カウンセリングなどにつながることができます。

年齢や女性ホルモンも乳がんリスクに関係する?

乳がんのリスクには、年齢や女性ホルモンなど、生活習慣の見直しだけでは変えられない要因も関わります。

乳がんにかかる人は30代後半から増加します。乳がん検診は、自覚症状のない40歳以上の女性が、2年に1回、マンモグラフィで受けることが推奨されています。

女性ホルモンのエストロゲンも乳がんと深い関わりがあることがわかっています。月経や妊娠・出産などに伴うホルモンの変化と関係し、次のような特徴は乳がんの発症リスクが高いことと関連するとされています。

  • 初経年齢(月経が始まった年齢)が早い
  • 閉経年齢が遅い
  • 出産経験がない
  • 初産年齢が高い
  • 授乳経験がない

初経が早い、あるいは閉経が遅い場合は、月経周期に伴うエストロゲンの影響を受ける期間が長くなるため、リスクが高まると考えられています。ただし、研究対象や乳がんのタイプなどによって関連の強さは異なり、日本人を対象とした研究では、初経年齢や授乳歴について一致した結果が得られていない点にも注意が必要です。

授乳によってリスクが低下する理由の一つとして、授乳中に月経が止まり、エストロゲンが低い状態が続くことが考えられています。出産や授乳で乳腺細胞の分化が進むことが関わるという説もあります。

これらは集団でみたリスクとの関連を示すもので、出産や授乳の経験だけで、個人が乳がんになるかどうかが決まるわけではありません。

生活習慣で乳がんリスクは変わる?

世界中の研究から、生活習慣の中にも乳がんのリスクに関わるものがあることがわかっています。

飲酒

飲酒は乳がんの発症リスクを高め、アルコールの摂取量が増えるほどリスクも高くなることがわかっています。「少量ならリスクがない」とは言い切れません。乳がんのリスクを下げるためには、飲酒量を減らす、飲まないようにするといった見直しが役立ちます。

閉経後の肥満

閉経後の肥満は、乳がんの発症リスクを高めることがわかっています。閉経後も脂肪組織ではエストロゲンがつくられるため、脂肪組織が多いとエストロゲンの量が増えることなどが関わると考えられています。

閉経前の肥満と乳がんの関係は、閉経後と同じではなく、海外と日本の研究で異なる結果も報告されています。ただし、肥満は糖尿病など、ほかの病気のリスクにも関わります。無理な減量ではなく、食事や身体活動を見直しながら、適切な体重を保つことを心がけましょう。

運動習慣

身体活動はホルモンや体重などに影響し、乳がんの発症リスクを下げることと関連しています。運動には、ウォーキングやスポーツだけでなく、家事や移動など、日常生活で体を動かすことも含まれます。

また、発症予防とは別に、乳がんと診断された後の適度な運動も、再発リスクや死亡リスクの低下と関連することが報告されています。日本乳癌学会の患者向けガイドラインでは、治療が一段落した後、無理のない範囲で、少し汗ばむ程度の歩行や軽いジョギングなどを週150分以上、またはランニングを週75分以上行うことが目安として示されています。治療後に運動を始める際は、体調や治療の状況に合わせて主治医と相談しましょう。

運動をすれば乳がんにならないわけではありませんが、ほかの健康面にも良い影響があります。まずは、無理なく続けられる身体活動を増やしてみましょう。

リスク要因が多い=乳がんになる?

数々の乳がんのリスク要因を紹介しましたが、リスクが高いということは、その要因がある集団では、比較対象の集団より発症する割合が高いということです。複数の要因がそろっていても、必ず発症するとは限りません。逆に、該当する要因が少ない人でも乳がんになる可能性があります。

自覚症状のない40歳以上の女性は、2年に1回のマンモグラフィ検診を受けましょう。遺伝性乳がんが疑われる人などは、より若い年齢から、通常の検診とは異なる検査や頻度が必要な場合もあるため、医師に相談してください。

年齢や家族歴にかかわらず、しこり、乳房のひきつれ、乳頭から血の混じった分泌物が出るといった変化に気づいたときは、検診を待たずに医療機関を受診することが大切です。

「今」の自分のリスクを知り、生活習慣の見直しと早期発見につながる行動を心がけてください。

乳がんのリスクについて、乳腺専門医に聞いてみました。

乳がんの発症には、年齢や家族歴、女性ホルモン、生活習慣など、さまざまな要因が関係しています。年齢によって発症リスクは異なりますが、若い年齢でも、たとえ家族歴がなくても、乳がんになることがあります。大切なのは、特定の要因だけで自分は大丈夫と判断しないことです。

診療では、家族歴や既往歴などを総合的に評価し、必要に応じて遺伝カウンセリングや個々の状況に応じた検査につなげます。また、日頃から自分の乳房の状態に関心を持ち、40歳以上の方は2年に1回の乳がん検診を受けることが大切です。しこりや乳房のひきつれなど、気になる変化があれば、年齢にかかわらず、検診を待たずに医療機関を受診してください。

鈴木 瞳(すずき ひとみ)先生

一宮西病院 乳腺外科/部長
資格:本外科学会 外科専門医 日本乳癌学会 乳腺専門医