私たちが生活するために必要な物流を支えている産業のひとつが、国内の港と港の間を結び、貨物を船で海上輸送する「内航海運」だ。日本の物流の約4割を支える内航海運だが、日常生活でよく見かけるトラックや鉄道での貨物輸送と比べて、やや馴染みが薄いという方も多いのではないだろうか。
「内航海運」とはどのような業界なのか、また内航船に乗る船員はどんな働きかたなのか……そのリアルな様子を、全国の海運組合を取りまとめる「全国海運組合連合会(全海運)」では、Instagramでわかりやすく・親しみやすく発信している。
開設から約1年。フォロワーは1,000人を突破し、若い世代や船員志望者、さらには船員の家族からも反響が寄せられている。今回、アカウントの運営を行う担当者にSNS発信の裏側と「海の仕事を伝える意義」を伺った。
船の速さ、知ってる? 素朴な疑問から「内航海運」の魅力を伝える
――全国海運組合連合会(以下全海運)のInstagramで数多くの「内航海運」に関するポストをされています。これまでで最も反響の大きかった投稿を教えてもらえますか?
船の速度を表す「ノット」をテーマにした「船ってどれくらいの速さで進むの?」という投稿です。船の速さは一般的に「ノット」という単位で表すのですが、「1ノットは時速何km?」という、船に詳しくない方でも疑問を持ちやすいテーマだったことが反響につながりました。
最初にカルーセル投稿を行い、反響が高かったため動画化したところ、フォロワー以外の閲覧が増え、新規フォローが最も伸びた投稿になりました。
――船の速度が「km」ではない理由もわかる投稿ですね。内航海運の情報を発信されている「全国海運組合連合会(全海運)」は、どのような組織なのでしょうか。
全国の海運組合や海運組合連合会が加盟する「全海運」では、安全かつ安定的な輸送を確保するため、関係省庁や内航総連合会と連携し、業界が抱える課題の解決に向けた取り組みを行っています。全海運は18の直接会員組合、26の間接組合、8支部の合計52会員で構成されており、各組合には、内航海運を担う船主やオペレーターなど全国1,268者の事業者が所属しています。
取り組みの一環として、組合員に限らず広く「内航海運」及び「内航船員」の役割や魅力についての発信も行っています。
――Instagramアカウントを立ち上げたきっかけは?
組合員へのアンケートで、「全国海運組合連合会の活動がよく分からない」という声があったことがきっかけです。まずLINEオープンチャットを始め、その後、組合員だけでなく一般の方にも内航海運を知ってもらいたいと考え、Instagramの運用をスタートしました。普段の業務で培った、情報を整理して分かりやすく伝える経験も活かせていると思います。
――組織内外からの反響はいかがですか?
連合会内からは、理事や会員組合の事務局職員から「頑張ってね」と声をかけていただくことが増え、運用の励みになっています。外部の反応では、船員を目指す息子さんを持つ親御さんからコメントをいただいたときは嬉しかったですね。また、SNSでの発信活動もされている船員の方から「業界を盛り上げたい」と動画制作の協力を申し出ていただくなど、新しい繋がりも生まれています。
興味の入り口をつくるため、大切にしていること
――「全海運」アカウント、運用のうえで最も重視していることを教えてください。
「内航海運という業界を知ってもらうこと」です。内航海運業界が抱える課題のひとつが、働き手である船員不足。もちろん船員を目指すきっかけにしてほしいという思いはありますが、まずは「船って面白い」「こんな仕事があるんだ」と興味を持ってもらう“入り口”を作ることを大切にしています。
内航海運の業界に馴染みがない方、特にInstagramのユーザー層を考えると若い世代に届いてほしいですね。AIツールを使って動画でアプローチしたり、キャラクターを使った柔らかいデザインにしたり、若い人も親しみやすいよう意識しています。
――興味を持ってもらうために工夫しているポイントは?
「知らない人でも分かる・楽しめる」内容にすることです。投稿のネタは、私自身が仕事の中で「これって何だろう?」と疑問に思ったことも多いですね。難読漢字や海事の小ネタなど、専門知識に偏りすぎないようにしています。
――内航海運ならではの、情報発信の難しさはありますか?
一番難しいのは「情報の正確性」です。内航海運に関わる仕事をしていますが、私自身は船員の経験がありませんし、専門用語も多いので。誤った情報を伝えないよう、国土交通省の資料をチェックしたり、実際の現場でどのように使われているかを確認したうえで投稿しています。
――これから「全海運」のInstagramを見る方に、「これは見てほしい!」という思い入れの強い投稿はありますか?
「海事用語集」です。例えば船にまつわる専門用語、「ビルジ」「フェアリーダー」「ウインドラス」「ホールド」……いくつご存じでしょうか? 投稿を制作しながら私自身も初めて知ることが多く、学びながら作っています。
――最後に、SNS発信を続ける原動力を教えてください。
内航海運業界を支える、全国海運組合連合会の組合員の役に立ちたいという気持ちです。
当連合会の藏本由紀夫会長が「業界を良くしたい」という強い思いを持って活動されている姿を近くで見て、心を動かされたこともInstagramの運用を始めたきっかけです。また、理事の皆さんはもちろんのこと、若手で構成する「青年部ワーキンググループ」の皆さんも、本業の傍ら業界のために日々尽力しています。内航海運業界の将来を盛り上げるため、SNSを通して力になりたいという思いでこれからも続けていきます。投稿を通して、ぜひ内航海運の魅力を知っていただけると嬉しいです。
内航海運の世界を、誰もがアクセスできるInstagramという場で開いていく――。その取り組みは、業界の魅力を伝えるだけでなく、船員志望者や家族、若い世代との新しい接点も生み出している。
「まずは興味の入り口をつくる」。全海運のInstagramには、そんな思いが詰まっている。何気なく目にした投稿が、海の仕事を知る第一歩になるかもしれない。
