
1893年、イポリット・パナールが1台の自動車でモナコに乗り入れてから133年。公国と自動車の関係を、実車50台超で辿る大展覧会「Monaco & l'automobile, de 1893 à nos jours(モナコと自動車、1893年から今日まで)」が、グリマルディ・フォーラム・モナコで開催されている。会期は2026年7月1日から9月6日まで。開幕からひと月半で来場者はすでに5万人を超え、この夏の南仏でも指折りの成功を収めつつある。
【画像】ランチア・ストラトスHF、プジョー205ターボ16、マクラーレンMP4/8、ベネトンB192など。モナコで開催中の大展覧会に展示中のモータースポーツに名を刻んだマシンたち(写真12点)
モナコの夏の風物詩といえば、グリマルディ・フォーラムの大型展覧会だ。例年は美術の大回顧展が定番だが、2026年のテーマは自動車。もともと2020年に予定されながらパンデミックで延期された企画が、6年越しでついに実現した。6月30日の開幕式にはアルベール2世公が臨席し、バーニー・エクレストン、ジャン・アレジ、ティエリー・ブーツェン、アリ・バタネン、ダニエル・エレナといった顔ぶれが集まったというから、単なる文化イベントの枠には収まらない。
会場は3500m²超。ラリー・モンテカルロの車両が約20台、グランプリのモノポストが約30台。しかもすべてが「本物」、つまりモナコの路上を実際に走り、多くは勝った個体だという点が、この展覧会の核心だ。コミッセール(キュレーター)を務めるのは、2011年にパリで15万人を動員した「ラルフ・ローレン・コレクション」展を手がけたロドルフ・ラペッティ。彼が強調するのも、類似モデルではなく「その車そのもの」を集めたという一点である。
導入部でまず目を引くのは、1956年のレーニエ3世公とグレース・ケリーの結婚式で使われたロールス・ロイス・シルバーレイス。フーパー製の4ドア・コンバーチブルで、アメリカの女性コレクターが40年以上所有してきた個体だ。だが僕がオクタンの読者に勧めたいのは、その先に広がるモータースポーツの回廊のほうだ。
ラリーのセクションは、1911年創設のラリー・モンテカルロの歴史をほぼ実車で語り切る。1912年の第2回に65台のなかから出走し、クローズドボディ部門のコンクール・デレガンスで1等を得た1911年のドラエー・タイプ58「オビュ」。1964年に「パディ」ことパディ・ホプカークが駆って優勝したモーリス・ミニ・クーパーS。フェラーリ製V6を積み、1977年にサンドロ・ムナーリの手でモンテカルロを制したランチア・ストラトスHF。そして1985年、アウディ・スポルト・クワトロのヴァルター・ロールとの死闘の末、23kmの第9スペシャルステージで27秒を奪い返して勝ったアリ・バタネンのプジョー205ターボ16。セバスチャン・ローブとダニエル・エレナのシトロエン・クサラWRC(2003年)、セバスチャン・オジェのトヨタ・ヤリスWRC(2021年)まで、グループBからWRCの現代までが一列につながる。
グランプリのセクションはさらに濃い。1929年の第1回モナコGPをウィリアム・グローバー=ウィリアムズが制したブガッティ35Bが、無塗装に近い風合いのまま鎮座する。1962年にグラハム・ヒルが駆ったB.R.M. P-578は、翌1963年からの5勝で「ミスター・モナコ」の伝説が始まる直前の1台。1993年にアイルトン・セナへモナコ6勝目をもたらしたマクラーレンMP4/8は、現在セバスチャン・ベッテルのコレクションにある。1989年にナイジェル・マンセルが走らせたフェラーリ640はモナコ大公家のコレクションから、2015年優勝のメルセデスMGP W06ハイブリッドはメルセデス・ベンツ・クラシックからの出品だ。若き日のミハエル・シューマッハーが4位に入った1992年のベネトンB192もある。
モネガスクの英雄たちへのオマージュも忘れられていない。ルイ・シロンが1947年に新車で購入したドラエー135MSクーペ(アンリ・シャプロン架装)から、シャルル・ルクレールが2024年に母国GPを制したフェラーリSF-24まで。1931年のシロンと2024年のルクレール、地元出身の優勝者2人の間には93年の時間が横たわる。
そして展示の最後に、この展覧会でいちばん大胆な演出が待っている。1893年にモナコへやって来た1892年製パナール&ルヴァッソール・タイプP2D(現存する走行可能なガソリン自動車として世界最古とされる)と、ヴェンチュリ・スペースが開発中の月面ローバーMONA LUNAが、向かい合わせに置かれているのだ。2030年ごろの月南極での運用を目指す機体である。133年前に石畳を走った1台と、これから月の砂を踏もうとする1台。モナコという小さな国が自動車に託してきた夢は、地球の道を走り切って、いま静かに空の上を向いている。
Monaco & l'automobile, de 1893 à nos jours 開催概要
会期:2026年7月1日〜9月6日(毎日10時〜20時、木曜は22時まで、8月22日のみ休館)
会場:グリマルディ・フォーラム・モナコ エスパス・ラヴェル(10, avenue Princesse Grace, Monaco)
入場料:15ユーロ(18歳未満無料)
写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI