
アイルランド出身の新鋭バンド、フローレンス・ロード(Florence Road)がサマーソニック出演のため初来日。グランジ/オルタナ譲りのギターサウンドと繊細なメロディ、リリーの美しくも気迫に満ちた歌声で多くのオーディエンスを魅了し、早くも日本と相思相愛の関係を築きつつあるようだ。
リリー・アロン(Vo, Gt)、エマ・ブランドン(Gt)、アルヴァ・バリー(Ba)、ハンナ・ケリー(Dr)は学生時代からの幼馴染。2019年にバンドを結成し、当初は仲間内で好きな曲をカバーしていた。転機となったのは、2022年に校内の音楽コンテストで優勝し、最初のオリジナル曲「another seventeen」をレコーディングしたこと。その頃から、庭の小屋で撮影したカバー動画をTikTokに投稿し始め、パラモア「Hard Times」のカバーは5000万回以上再生されるなど大きな反響を呼んだ。やがてレーベル契約を勝ち取ると、2025年以降はオリジナル楽曲でブレイク。オリヴィア・ロドリゴのオープニングアクトを務め、ウルフ・アリス、ロイエル・オーティス、ザ・ラスト・ディナー・パーティーのツアーに同行するなど、わずか一年ほどでシーン最注目バンドへと急成長を遂げた。
今回の来日に合わせて、過去2作のEP『Fall Back』『Spring Forward』をまとめた日本企画盤『Between Seasons』をリリースし、現在は初のフルアルバムを制作中。そんな彼女たちはとにかくびっくりするほど仲がいい。深い絆が生むアンサンブルの一体感さながら、あうんの呼吸でトークを繰り広げ、ジョークと笑いが次々に連鎖していく。その軽妙なやり取りを眺めていると、改めて「バンドって最高!」と思わずにいられない。サマソニ東京会場への出演前日にインタビューを実施し、愛すべき4人の素顔と、ドラマティックな結成秘話に迫った。
Photo by Takuya Maeda
左からエマ・ブランドン(Gt)、アルヴァ・バリー(Ba)、ハンナ・ケリー(Dr)、リリー・アロン(Vo, Gt)
「TikTokバンド」を超えた先へ
―私がフローレンス・ロードの存在を知ったのは、ワナダイズ「You And Me Song」のカバー動画をTikTokで見かけたのがきっかけでした。日本でもよく知られている曲ですが、どういう経緯でカバーしたのでしょう?
リリー:たぶん、子どもの頃からずっと聴いてきた曲だったから。昔から大好きだし本当にいい曲だから、それでカバーしてみようと思ったんじゃなかったかな。
―アイルランドではウェディングソングの大定番だと聞きました。
エマ:そうそう。私と私の彼女にとっても、特別な思い出がある曲なんだよね。
―これまでたくさんのカバー動画を投稿してきましたが、特に印象深いものは?
リリー:オリヴィア・ロドリゴの「making the bed」かな。私のベッドの上でやったら面白いんじゃないかと思って。実際すごく楽しかった(笑)。もちろん、パラモアの「Hard Times」は外せない。かなりバズったし、クレイジーな経験だった。それから「Teenage Dirtbag」(ウィータスの2000年のヒット曲)。初期のカバー動画で、やっぱり思い入れがある。
エマ:最初にやったオリヴィア・ロドリゴの曲はなんだっけ?
ハンナ:「jealousy, jealousy」だね。面白いのが、撮影に2時間かかる動画もあれば、5分で仕上がるものもあるんだよね。どっちになるか、やってみるまで全然わからない。
―パラモアのカバーは?
ハンナ:あれは5分で撮ったほうの動画(笑)。「最近、何聴いてる?」「これいいじゃん」「じゃあやろう」みたいなノリ。
アルヴァ:パラモアをカバーしてほしいというコメントもたくさん来ていたから、「じゃあ1曲選ぼう」って。結果的にすごく伸びたね。
リリー:当時はまだ自分たちの曲をリリースしていなくて、カバーを投稿していた時期から、オリジナル曲を出していく段階へ移る途中だったんだよね。だから、自分たちの音楽について発信できるようになるまで、その間をカバー動画でつないでいたようなところがあった。週に何回かは投稿したいと思っていたし、みんなに私たちのことを忘れないでいてもらうためでもあったし、新しく知ってくれる人が増えたらいいなという気持ちもあった。今でも、できるだけファンとのつながりは大切にしている。
@florence.road 学生時代の昼休みにオリヴィア・ロドリゴ「jealousy, jealousy」を演奏。その後、「Obsessed」のカバー動画がオリヴィア本人の目に留まり、オープニングアクトに抜擢されるきっかけとなった
@florence.road パラモア「Hard Times」のカバー動画は大きなバズを巻き起こした
―では、みなさんにとってTikTokはどんなプラットフォームですか? バンドの練習場? 4人の遊び場? 外の世界とつながるための窓?
リリー:ある意味、その全部かな。TikTokはすごく便利なツールだし、今の時代、アーティストとして活動するうえでは避けて通れないものでもあると思う。音楽をたくさんの人に届けるための大切な手段だよね。私たちもTikTokのおかげで多くの人に知ってもらえるようになったし、そのことにはすごく感謝している。SNSやTikTokがなかったら、今のようにこれだけ多くの人に届くまで、もっと時間がかかっていたと思うし。
エマ:自分たちの素の部分を見せられるのもすごくいい。音楽を発信するだけじゃなくて、ふざけたり、4人で楽しんでいる普段の姿を見せられるのもいいところだと思う。
―その一方で、「TikTokバンドと思われたくなかった」と考えていた時期もあったそうですが、そこから自作曲とパフォーマンスの力で評価を確立してきましたよね。
リリー:そうだね。私たちはもう何年も前から曲を書いていたけど、それを表に出していない時期も長かった。自分たちのなかでは「こういう音楽ができる」とわかっていたけど、世の中の人たちはまだ知らなかったんだよね。
だから最初は、ちゃんと真剣に受け止めてもらえるのか少し不安だった。私たち自身は音楽とシリアスに向き合っているし、強い情熱を持っているし、自分たちが出す音楽にも誇りを持っているから。でも幸い、今はきちんと音楽そのものを見てもらえているし、バンドとして真剣に受け止めてもらえているのを感じている。
サマーソニック2026東京会場のライブ写真 ©SUMMER SONIC All Rights Reserved.
―デビュー時からこれまでに、バンドとしてどんなことを大切にしてきましたか?
リリー:どんな気分のときでも、聴く人が頼れるようなバンドになりたかった。悲しいときには「Caterpillar」や「Hanging Out To Dry」、楽しい気分のときには「Goodnight」や「Break The Girl」みたいな曲がある。私自身、好きなアーティストにはそういう存在であってほしい。楽しいときも、つらいときも、そのときの気持ちに寄り添ってくれる曲があるから。
ハンナ:最高のライブ・バンドになること、最高のライブをすることが、ずっと目標だった。私たちはみんな、自分が初めて観に行ったコンサートのことを今でも鮮明に覚えているから。今度は自分たちが、誰かにとってそういう存在になること。それはずっと大きな夢だった。
エマ:私の場合は、自分たちに正直でいること、自分たちが作りたい音楽を作ること、そして何より、その音楽を作ることをずっと楽しみ続けること。それから、バンドの中心にいつも私たち自身がいることも大切にしたい。
アルヴァ:私にとっては、音楽を演奏することを楽しんで、友達と一緒に楽しむことかな。どんな状況でも、その楽しさやちょっとした遊び心を失わずにいたい。それが一番大事。
青春マンガみたいな結成秘話
―そもそも、「バンドやろうよ」と最初に言い出したのは誰だったんですか?
リリー:どうだったかな(笑)。私とアルヴァとハンナは、12歳の頃から同じ音楽の授業を受けていたんだよね。音楽の先生がいつも「みんなで一緒に演奏しなよ」「ランチタイム・コンサートに出なよ」って勧めてくれて。もともと友達だったこともあって、自然と「じゃあ一緒に音楽をやろう」ってなったんだと思う。「みんな音楽が好きだし、ホージアも好きだし、ホージアの曲をやろうよ」って。
そのあと、エマがエレキギターを始めて、私のところに「リリー、私もみんなと一緒にギターを弾いていい?」って聞きに来た。私は「もちろん! やろうよ! メンバーがひとり増えた!」って(笑)。エマが加わってから「あ、これすごくいいな」って本気で思うようになったんだよね。「これは絶対にやめたくない」って感じるようになった。
ハンナ:最初はただ一緒に音楽を演奏していただけで、そこから少しずつ「バンド」になっていったんだよね。いくつか段階があったと思う。
―初めて一緒に演奏した日のことは、今でも覚えていますか?
エマ:ものすごく鮮明に覚えてる。4人でクリスマスの帽子をかぶって、クリスマス・コンサートで演奏したんだよね。終わったあと「めちゃくちゃよかったよね!」って盛り上がって(笑)。本当に楽しかった。
リリー:私たち、エマにちゃんと「正式にバンドに入る?」って聞いたんだっけ?
エマ:いや。
リリー:じゃあ、どうしたんだっけ?
アルヴァ:バンドのグループチャットに追加したんだよ、たしか一方的に。
一同:(爆笑)
エマ:3人が私抜きで話し合って、そのあとSnapchatのグループチャットに追加されて、「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」って言われたの。私は「えっ?」って(笑)。それで「バンドに入らない?」って聞かれて、「うーん、どうしようかな」って。
リリー:いやいや、即答でイエスって答えてたじゃん(笑)。
エマ:イエスとは言ったけど、「ハンナ、本当にドラムでいいの?」って聞いたんだよね。そこはちょっと迷ってた。もともとハンナはギタリストだったから。
ハンナ:そうだね。

―ちなみに、4人で最初に演奏した曲は、ビリー・アイリッシュの「Happier Than Ever」だったそうですね。
アルヴァ:まだ3人だった頃、スクールバスの中であの曲を聴いて、「カバーしたら絶対楽しいじゃん」って思ったんだよね。それでみんなに「この曲やろうよ」ってメッセージしたら、「うそでしょ。ちょうどエマからも『リリーに歌ってもらって『Happier Than Ever』をカバーしたい』ってメッセージが来たところ」って。それで「面白すぎる。じゃあエマも巻き込もう」ってなった。すごい偶然だよね。別々に出た2つのアイデアが、たまたま同じ曲だったわけだから。
リリー:まさにセレンディピティ。
エマ:その話、知らなかった。
アルヴァ:私はぜーんぶ覚えてる(笑)。
―その後、学校を卒業する直前、廊下で音楽コンテストの告知ポスターを見つけて、優勝して、それがデビューシングル「another seventeen」のレコーディングにつながった──マンガやアニメみたいなシンデレラ・ストーリーですよね。
リリー:とにかく嬉しかった。当時の私たちには自分たちでスタジオ代を払ったり、曲をプロフェッショナルな形でレコーディングしたりする余裕がなかったから。だからコンテストで優勝したときは「すごい、これで自分たちの曲がちゃんとプロデュースされた形で完成した」って。それで、「Spotifyに出そう」「もうやっちゃおう」ってなっていったの。
たぶん、あのコンテストがなかったら、あんなに早い段階ではリリースしていなかったと思う。まだ学校に通っていたし、お金もなかったから。あれが最初のきっかけと後押しになった。それでTikTokのアカウントも作って、少しずつ曲を宣伝するようになった。あの出来事をきっかけに波紋が広がるように、いろんなことが次々とつながっていって、こんなに早く活動を始めることにつながったんだと思う。
ハンナ:本当に信じられないよね。そこから「よし、リリースしよう」「ラジオ局にメールしてみよう」「おっと、数学の勉強もしなきゃ」みたいな感じで(笑)、一歩ずつ前進して今に至る感じかな。
―「another seventeen」は、どんなアイデアから生まれた曲だったんですか?
リリー:17歳という年齢を過ごしながら、そこから少しずつ離れていって、「よし、もう大人になる準備ができた」って思うような感覚を歌った曲だね。17歳の頃って、18歳になることがものすごく大人になるように感じるじゃない? でも今振り返ると、「いや、まだ全然子どもだったよ」って思う(笑)。昔から17歳について書かれた曲や、17歳という時期に別れを告げる曲ってたくさんあると思う。だから曲名には、17歳について歌ってきた数々の曲へのオマージュも込めている。17歳ってすごく美しい年齢だと思うから。
―みなさんの青春もきっと美しかったんでしょうね。コンテストの前後でかなり練習したんじゃないですか?
リリー:そうだね。「another seventeen」は、その時点ですでにだいたい形になっていたけど、コンテストで優勝してからは「ちゃんと完璧に仕上げないと」ってなって、レコーディングに入る前にかなり練習した。
―小屋を練習場にしていたそうですね。
リリー:うん。私の実家の裏庭にある小屋。それと学校でも練習してた。週に2、3回くらい集まって、ほかにも時間が空けば、できるだけ練習するようにしてた。
エマ:特に土曜日が空いてるとね。
リリー:もう絶対に小屋にいた。両親からしたら、相当やかましかったと思う(笑)。
―何もかも順調だったように聞こえますが、ケンカしたりすることもあるんですか?
エマ:しょっちゅうだよ(笑)。
リリー:誰かが何か気になることがあっても、ちゃんと話し合うようにしてる。険悪になるより、そのほうがずっと楽だから。特にこれだけ長い時間を一緒に過ごしているとね。
エマ:そもそも、私たちってケンカするタイプじゃない気がする。
ハンナ:うん、言い争ったりもしない。
エマ:みんな怒ると泣いちゃうから(笑)。
リリー:ケンカしてる暇なんてないよね。
―おかしな質問で恐縮ですが、どうしてそんなに仲がいいんですか?
ハンナ:(爆笑)
リリー:一緒に過ごす時間があまりにも長いから、私たちにしかわからない独特のユーモアができあがってるんだと思う。本当に些細なことで笑えるんだよね。だから、どれだけ長い一日でも、移動が大変な日でも、みんなで一緒にいるとすごく楽しい。何でもジョークにできるから。
アルヴァ:それに最近は、だんだん4人だけに通じる言葉みたいなものも生まれてきてる。クルーの人たちに「それってどういう意味?」って聞かれても、「いや、説明できないんだよね」って(笑)。だんだん4人でひとつの集合意識みたいになってきてる(笑)。
「静と動」「明と暗」のコントラスト
―今回、日本独自盤『Between Seasons』に収録された2つのEP『Fall Back』と『Spring Forward』では、結成当初と比べてサウンドやソングライティングが大きく進化しているように感じます。
リリー:『Fall Back』は、私たちのまとまった作品として、世の中に初めて聴いてもらうものだった。だからこそ、あの曲たちを入れることにはすごく意味があった。自分たちらしさや、最初に世界へ見せたいと思っていたものを、ちゃんと表してくれていたから。
それに『Fall Back』を作っている頃から、『Spring Forward』を姉妹作のようなEPにしたいというアイデアがあったんだよね。この2作で、フローレンス・ロードの世界観をうまく提示できたと思うし、私たちの音楽にはいろんな人が楽しめる要素があると思う。
―「Hanging Out To Dry」や「Heavy」では、柔らかく穏やかなパートから一気に爆発するようなパートへ移っていく、大きなダイナミクスがありますよね。そういったスタイルは、どこから生まれたのでしょう?
リリー:私たちは昔から、静と動のコントラストを作りたかったんだと思う。ダイナミクスで遊ぶことは、ずっとやりたかった。どこから来たのかは自分でもよくわからないけど、昔からそういう感覚が自然とあったような気がする。「Hand Me Downs」を書いたときも、アルヴァがちょっとしたベースのフレーズを弾いていて、私が「ここから急にすごくヘヴィになったらどう?」って提案したの。それで一気に激しくなり、また引いていく形になった。私はラウドな音楽が大好きだし、人を驚かせるのも好き。だから、そういう展開を作るのが好きなんだと思う。
「Hanging Out To Dry」は日本全国のラジオ&CS局でパワープレイ中
―自分たちの好きなバンドのなかで、「明るさと暗さ」「静けさと激しさ」をうまく共存させている人たちを挙げるとすれば?
リリー:ウルフ・アリス。特にライブでは、展開の作り方が本当に巧い。ほかには……私が大好きなSlow Pulpというバンドがいて、かなり影響を受けていると思う。
―なるほど。グランジとか、そういう方面の名前が挙がるのかなと思ってました。
リリー:私たち全員、本当にたくさんの音楽を聴いているから、「これが影響源」とひとつに絞るのは難しいんだよね。ラジオでたまたま耳にした、曲名すら知らないような音楽からも、常に少しずつ何かを吸収している気がする。
エマ:そういうものが全部、無意識のうちに自分たちの中に入ってきているんだと思う。「こういう音にしたい」と最初から狙って作っているわけじゃなくて、自然とそうなっていく感じかな。
―新曲「7563」のサウンド面では、どんなものを表現しようとしたのでしょう? 個人的には、曲の中盤に出てくるリフを聴いてビースティ・ボーイズの「Sabotage」を少し連想しました。
リリー:その解釈は面白いね。ちょっと奇妙な曲にしたかったんだと思う。曲を聴いていて、なんとなく怖くなったり、不気味でゾッとしたりすることってあるじゃない? そういう感覚を、演奏やアレンジでも再現したかった。もちろん、本当にみんなを怖がらせたいわけじゃない(笑)。ただ、あの不安定で落ち着かない感じを出したかった。
―曲中で、自分が何者なのかわからなくなって混乱している状態が描かれていますよね。そして最後には〈戦うか、逃げるか(Fight or flight)〉と歌う。こうした歌詞はどこから?
リリー:歌詞を通じて、ひとつの世界を作りたかった。夢の中で場面が次々と展開していくような、自分が生きている世界や人生そのものがどこか現実ではないように感じて、自分がどこにいるのかもわからなくなるような感覚。
だから歌詞もかなりシュールだよね。たとえば〈私の顔はリンゴの木(my face is an apple tree)〉〈何もかもが青い(everything's blue)〉とか。最初に聴いたら「どういう意味?」と思うかもしれない。でも聴き返していくと、すべてがどこかおかしくて、何ひとつ現実のものに感じられなくなっている状態なんだとわかってくる。自分の人生から少し切り離されてしまっているような感覚というか。
そして〈Fight or flight〉は、「自分で立ち上がらなきゃいけない。だって、ほかの誰も自分の代わりにはやってくれないから」と少しずつ気づき始める瞬間。でも、まだ本当は立ち上がりたくない。怖いんだよね。そういう曲。
―みなさんとこうして話していると、明るくてポジティブな印象を受けるんですが……ほかの曲も歌っている内容は結構ダークですよね。
リリー:間違いない(笑)。私にとっては、悲しい曲や、混乱している曲、怒っている曲を書くより、幸せな曲を書くほうがずっと難しい。悲しかったり、混乱していたりするときが、一番むき出しの自分になっている気がする。だから、自分でもよくわからないくらい、歌詞が自然とどんどん出てくるんだよね。言葉がもうそこにあって、悲しいときは書かずにいられない。
逆に幸せなときは、そこから引き出せるものが少ないというか。もちろん、私たちにも明るい曲はたくさんある。でも、聴いていて気恥ずかしくならないようなハッピーな曲を書くのは、むしろ難しいんだよね。だから、普段の私たちはすごく明るくてポジティブなのに、曲にはドラマチックなものが多いんだと思う。
―ほかの3人は、リリーの歌詞についてどう思っています?
エマ:暗すぎるよね、もっと明るくしてよ!(笑)
リリー:(爆笑)
エマ:いや、本当に美しい歌詞だと思う。それに歌詞がダークでも、演奏やアレンジ次第で少し明るくしたり、重さを和らげたりできるから。私はすごくいいと思ってる。
ハンナ:リリーはいつも自分自身を更新していると思うし、その横で一緒に演奏できるのはすごく嬉しい。
リリー:やさしいね(笑)。
アルヴァ:リリーの頭の中で何が起きているのか知れるのも面白い。「あ、これは初めて聞くな」って思うこともあるし。
リリー:私の場合は、みんなでジャムしながら、とりあえず歌ってみることが多くて。そこからいろんな言葉が自然と出てくるんだよね。アルヴァがそれを書き留めてくれていて、自分では何を言ったのか覚えていないこともある。あとからアルヴァに「さっきこう言ったの覚えてる?」って言われて、「あ、そうなんだ。いいね」みたいな(笑)。だから、私の頭の中にあることは、全部アルヴァのメモアプリに入ってる。
4人の絆、アイルランドのルーツ
―ここまでのやり取りを聞いていても思うんですが、みんなで音楽を作ることが本当に楽しそうですよね。「バンドをやること」の何がそんなに楽しいんでしょう? ひとりで音楽を作るのと比べて、この4人だからこそ生み出せるものは何だと思いますか?
ハンナ:私たちがよく言うのは、4人分の意見があると、どうしてもたくさん妥協が必要になるということ。でも、その妥協があるからこそ、ひとりで全部を決めるよりも、最終的にはもっといいものになると思ってる。
リリー:それに、自分ひとりでは思いつかないようなアイデアが出てくる。それこそが、私たちをフローレンス・ロードたらしめている部分だと思う。4人それぞれに意見があって、アルヴァだけでも、エマだけでもフローレンス・ロードにはならない。4人全員でフローレンス・ロードなんだよね。それが、バンドのすごく美しいところだと思う。
エマ:ソロでやっている人たちは本当にすごいと思う。私には、いつもそばで支えてくれる仲間や友達がいないなんて想像できない。
リリー:私たちは同じことを一緒に経験しているから、ほかの誰にもわからないことでも、4人なら理解し合える。ストレスとか、いろんなことも4人で吐き出せるんだよね。みんな同じことを経験しているから。それって、すごく大事なことだと思う。


―そんなフローレンス・ロードが、ついに日本にやってきましたね。
一同:イェーイ!
―最近のインタビューで、「日本に行くのは、私たちにとってすごく大きなこと」と話しているのを見かけました。
リリー:こんなに離れたところで私たちのことを知っていて、音楽を聴いてくれている人がいるというのが、すごく特別に感じる。だからこそ、日本に来ること自体が私たちにとって大きなことだと思う。それに、日本ではロックがすごく愛されているみたいで、それがすごく嬉しい。今回のライブで、みんながどう感じてくれるのかを見るのも楽しみ。
ハンナ:アルヴァは気になるものがあるんだよね?
アルヴァ:そう、太陽の塔を大阪で見るのがすごく楽しみ。
リリー:あとはもちろん、食べ物も。
―フローレンス・ロードを同郷の大先輩であるクランベリーズと比較している記事もよく見かけます。自分たちの音楽やバンドのあり方に「アイルランド性」と呼べるものがあるとすれば、それはどんなところに表れていると思いますか?
リリー:私の場合は、歌い方に出ていると思う。声をひっくり返したり、少し割れるように歌ったりする感じが、かなりシャン・ノースっぽい。アイルランドの伝統的な歌唱法なんだけど、そこから「アイルランドっぽい」と感じる人は多いみたい。
アルヴァ:曲の構成にも、意図せず滲み出ている部分があると思う。私たちの曲って、途中で一度演奏を止めるようなブレイクがけっこう多いけど、そういう要素はアイルランドの伝統音楽にもあるんだよね。パブでトラッドのバンドが演奏していて、途中で一瞬ピタッと止まって、また一斉に演奏が始まると、みんなが「わーっ!」って盛り上がる。そういう楽しくてエネルギッシュな感覚を、自分たちの音楽にも自然と取り入れているんだと思う。
―アイルランドの伝統音楽を学んだこともあるそうですね。
リリー:そう。みんなトラッドを演奏したことがあって。伝統的なフルートやティン・ホイッスルを吹いたり、エマはフィドルも少しやってたよね。学校ではアイリッシュ・ダンスも踊ったり。
―リバーダンス?
リリー:そうそう!
―現在はデビューアルバムを絶賛制作中だと思いますが、そこにも「アイルランドらしさ」が入ってくることになりそうですか?
リリー:そうだね。アイルランドらしさは、何らかの形で入れたいと思ってる。たとえばティン・ホイッスルだったり、アイルランド語で書いた曲もいくつかあるから、そういうものもぜひ入れたい。私たちにとって、そういう要素が作品の中にあることは大切だと思う。ただ、そういうのをすごく前面に押し出したいわけでもなくて。わざとらしくなったり、「アイルランドらしさを見せよう」と頑張りすぎている感じにはしたくない。ごく自然にバランスのいい形で入れられたらいいと思う。
今はたくさん曲を書いていて、自分たちでもすごく誇りに思えるものができてる。まだ制作中だけど、いつか完成して世に出せる日をすごく楽しみにしてる。
―最後に、サマソニ出演にちなんでの質問です。もし自分たちでフェスを主催するならどんなものにしたいですか?
リリー:いいね、面白そう。
ハンナ:まず、開催地は日本にしよう。
リリー:日本かアイルランドか、どっちか選ばないと……いや、両方でやろうか。姉妹フェスみたいな感じで。
ハンナ:名前は「Winter Sonic」。
エマ:それか「Spring Sonic」。
リリー:緑いっぱいの場所、どこか大きな野原で、巨大なテントをひとつ置いて。メインステージは2つ。
エマ:タイムテーブルの被りは絶対ナシにしようね。そうすれば大物アーティストと時間がかぶって、お客さんが誰も来ないなんてこともないから。
アルヴァ:食べ物は絶対おいしいものにしたい。フードホールがいいな。
エマ:ホットドッグのお店が少なくとも3、4軒はほしい。
リリー:ラインナップも決めないと。まず、私たちは絶対に出演する。自分たちのフェスで演奏したい。それから、オリヴィア・ロドリゴにぜひ出てほしい。
ハンナ:サム・フェンダー。
リリー:ウルフ・アリス、CMAT、ザ・ラスト・ディナー・パーティーも。
ハンナ:あとはテイト・マクレー。
エマ:いいね! 私たちのステージにスペシャルゲストとして出てもらおう。
アルヴァ:私のためだけに、ファットボーイ・スリムも入れていい?
ハンナ:一日のクロージングに出てもらおう。夜12時から朝4時くらいまで。
―そういえば、過去にフィービー・ブリジャーズの「Georgia」をカバーしていますよね。あと8時間くらいでニューアルバムも出ます(※取材日はリリース前日)。
リリー:そうだよね、楽しみすぎてちょっと怖い(笑)。彼女はとにかくクールだと思う。歌詞もメロディも、どうやったらあんなものを書けるのか全然わからない。声もすごく柔らかいのに、とても力強い。ソングライティングも正直だよね。そこが本当に美しいと思う。フィービーもラインナップに追加しないと。

フローレンス・ロード
『Between Seasons』
発売中
■デジタル配信でリリースされたEP2作品「Spring Forward」(2026年3月発売)と「Fall Back」(2025年9月発売)に、ライブ音源3曲を追加収録した日本オリジナル企画CD
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