
サッカー日本代表がワールドカップで見せた戦いぶりは、多くの人の胸を熱くした。惜しくもベスト32で大会を去ったものの、主力を欠きながらも最後まで貫いた「凡事徹底」の姿勢は、今のドラゴンズが見習うべきものではないだろうか。交流戦明けの巨人戦、そして甲子園での阪神戦。そこには、チームが浮上するためのヒントが詰まっていた。(文・チャッピー加藤)
森保ジャパンに学ぶ「凡事徹底」。ドラゴンズに足りないもの
[caption id="attachment_272703" align="alignnone" width="1200"] 中日ドラゴンズナイン【写真:産経新聞社】[/caption]
竜党の皆さん、ワールドカップ、観ていますか? サッカー日本代表の「サムライブルー」に「ドラゴンズブルー」をつい重ね合わせてしまった方も多いのでは? サポーターで青一色に染まった日本側のスタンドは、まるで神宮球場や東京ドームのレフトスタンドのようだった。
日本代表が遠藤航や久保建英ら主力を負傷で欠きながら、強豪ブラジルと後半アディショナルタイムまで堂々と渡り合えたのは、層の厚い控えメンバーがいたからだ。指揮官の意図するものが選手全員にしっかり伝わっていたから、誰が試合に出ようと「日本のサッカー」が展開できた。そういうチームを時間をかけて作り上げた森保一監督のマネジメント術には、ドラゴンズも学ぶところが多いのではないか。故障者の多さは言い訳にならない。
大事なのは、森保監督もつねづね口にしている「凡事徹底」である。ちょっとしたことでも、コツコツと徹底して積み上げていけば、いずれそれは大きな成果となる。今季は「キャンプで何をやっていたの?」と言いたくなるプレーが散見されるドラゴンズだが、チームが勝つために、選手自身は何をすべきか? 改めて足元を見つめ直してほしいと思う。
大勢撃ちで劇的逆転! 東京ドームで見たドラゴンズの執念
[caption id="attachment_272701" align="alignnone" width="1200"] 中日ドラゴンズの阿部寿樹【写真:産経新聞社】[/caption]
さて、6月21日の日曜日、私は交流戦明け最初のカード、巨人―中日戦の3戦目を東京ドームへ観に行った。1勝1敗で迎えたこの試合は、午後2時にプレイボール。ちょうどこの日はワールドカップ「日本―チュニジア戦」が行われていて、こちらは午後1時(日本時間)からキックオフ。都合のいいことに、東京ドームシティ内のオープンスペースでパブリックビューイングが開催されており、試合前半の模様は大画面で観ることができた。私同様、前半終了と同時にドームへ向かう人も結構いた。
後半の模様は、ドームに入ってからスマホで経過のみチェック。日本はチュニジアに4-0で快勝した。上田綺世の2ゴールも見事だったが、問題は目の前で戦うドラゴンズだ。巨人先発・井上温大の出来はそれほど良くなかったのに、ランナーは出すが得点を奪えない。
一方、ドラゴンズ先発・柳裕也は初回、ボビー・ダルベックにいきなり先制タイムリーを打たれ、4回・6回には泉口友汰にソロ本塁打とタイムリー二塁打を許してしまう。この時点で0-3。もう1点取られたらチュニジア戦と同じスコアだ。泉口の2打点が、上田の2ゴールにカブる。
このままでは「チュニドラがチュニジアみたいに負けた!」とSNSで揶揄されかねない。反撃を期待した7回のラッキーセブン、2死一塁から代打・板山祐太郎がライトに二塁打を放ち、一塁走者の田中幹也が長駆ホームを狙ったが、好返球が来てホームで憤死……「ああ、また負け試合を観に来てしまったか」と、このときは半ば覚悟していた。
ところが、野球とは怖いもので、8回に信じられないことが起こる。
巨人は予定通りセットアッパー・大勢が登板。先頭・岡林勇希の放った強い当たりを二塁手・浦田俊輔がいったんグラブに収めながら、送球する前にボールをこぼし内野安打に。続く鵜飼航丞はセカンドゴロで万事休すと思ったら、なんと浦田がファンブル。ドラゴンズは労せずして無死一、三塁のチャンスを迎えた。
いつもなら敵のミスにつけこめないお人好しのドラゴンズだが、この日は違った。細川成也と高橋周平がタイムリーヒットを放ち、これで1点差に迫り、なおも2死一、二塁。続く村松開人の打席のとき、ネクストに代打の切り札・阿部寿樹の姿が見えたので、私は「何でもいいからマスターに回せ!」と村松に念を送った。無理に打ちにいかず四球を選んだ村松は、実にいい仕事をしたと思う。
さあ、2死満塁で一打逆転のチャンス。そしてマスターは期待通り、きっちり仕事をしてくれた。ライト前にタイムリーを放ち、2者が生還。なんと大勢から4点をもぎ取って、試合を一気にひっくり返したのだ! やればできるじゃん!
さらに最終回には、代打・石川昂弥がダメ押しのタイムリーを放ち、これで勝負あった。最後は守護神・松山晋也が締めて勝利。ドラゴンズは交流戦で楽天に3連勝して以来、実に6カードぶりのカード勝ち越しを決めた。巨人相手、しかも敵地で大勢を打ち崩しての逆転勝ちだけに、溜飲が下がった人も多かっただろう。私も試合終わりに祝杯をあげた。
それから11日後の7月2日、私は甲子園球場にいた。
今度の舞台は甲子園。再び試されたドラゴンズの勝負強さ
[caption id="attachment_272704" align="alignnone" width="1200"] 中日ドラゴンズの柳裕也【写真:産経新聞社】[/caption]
阪神との3連戦、6月30日の初戦は8回、ドラゴンズが1点を勝ち越したが、その裏すぐに追いつかれ、延長10回、松山が森下翔太にサヨナラアーチを食らうという辛い内容だった。
私は7月1日の第2戦を観る予定だったが、あいにく雨で中止。急きょ予定を変更して、2日の試合を観に行くことにした。この試合に負ければ、ドラゴンズは4連敗で借金は「20」になる。ここは是が非でも意地を見せてほしい。そんな思いで、私は甲子園のスタンドから再びグラウンドに念を送った。
ドラゴンズの先発投手は、前日からスライドで柳。阪神はこれが一軍初登板となる3年目・下村海翔である。こういう投手に気前良くプロ初勝利をプレゼントしがちなのがドラゴンズ。2回・3回と先頭打者が出塁しながら無得点はいただけない。
かたや柳は初回、森下に先制の20号ソロを打たれてしまう。3回にも森下の内野ゴロの間に1点を追加され、0-2のまま5回を迎えた。この回も抑えられたら、下村に勝ち投手の権利が付く。「踏み台にされてどうする。最低でも追いつけ!」と私はさらに強い念を送った。
それが功を奏したのか(?)この回、石伊雄太・石川昂・鵜飼の3連打で1点差に迫ると、柳凡退の後、岡林がタイムリー二塁打を放ち同点に。続く福永裕基が死球で出塁し、1死満塁と勝ち越しのチャンスを作った。打順はクリーンアップに回り、下村はアップアップの状態。「さすがに今度ばかりは勝ち越すだろう」と思ったのがいけなかった。この日3番に入った村松は三振に倒れ、4番・細川はライトフライ。なんと同点止まりで終わってしまったのだ。私は満塁で楽観して、つい念を弱めてしまった自分を恥じた。
試合はその後、両軍の投手陣が踏ん張り、2-2のまま膠着状態に。惜しかったのは8回だ。阪神3番手のラファエル・ドリスが村松、細川に連打を許し、ミゲル・サノーを歩かせ無死満塁。このときは5回の反省をふまえ、緩めずに念を送ったが、石伊・石川昂・鵜飼が凡退し無得点……。「ドラゴンズにとって無死満塁はチャンスではなく、ピンチだ」という格言はここでも生きていた。
こんなことをやっていたら、流れは向こうに行く。試合は延長戦となり、阪神は10回、1死から中野拓夢が齋藤綱記から二塁打を放ってチャンスメイク。一塁が空いているので森下は当然申告敬遠だが、次打者は佐藤輝明だ。2試合連続でサヨナラ負けを食らうのか……と思いきや、ここで齋藤は踏ん張った。佐藤を三振に仕留め、続く大山悠輔は藤嶋健人が抑えて、見事にピンチを切り抜けたのだ。
またしても主役はマスター。阿部寿樹が示した「凡事徹底」
[caption id="attachment_272702" align="alignnone" width="1200"] 中日ドラゴンズの阿部寿樹【写真:産経新聞社】[/caption]
こうなると、試合の流れは再びドラゴンズのほうへ。11回、阪神6番手・及川雅貴を攻めて、2死一、三塁のチャンスを作る。ここで井上監督は、3番・村松に代えて、代打・阿部を起用。私は、先述の巨人戦を生観戦したときと同じ匂いがしたので、「絶対に打つ」と確信していた。2球目、阿部の打球はセンター前に抜け、3-2。その裏は松山が締めて、マスターはまたしてもチームを救った。
この勝ち越し打を放った時点で、阿部の代打成績は.409(22打数9安打)、9打点。特に得点圏打率は.600と驚異的だ。なぜチャンスで結果が出せるのかは以前このコラムにも書いたが、()「凡事徹底」を普段から欠かさないからだろう。
いつ出場してもいいよう準備を怠らず、ベンチにいても試合への集中力を切らさない。だから途中出場してもスッとゲームに入っていける。バッテリーの配球を読み、基本に忠実なセンター返し。カッコ良すぎではないか。私は甲子園のスタンドから惜しみない拍手を送った。
同時に、ハタと気づいたことがある。そういえば逆転勝利を収めた巨人戦も、今回の阪神戦も、ドラゴンズの先発は柳だった。柳は阿部にとって明治大学の後輩でもある。巨人戦も阪神戦も柳に勝ちは付かなかったが、後輩が見せた粘りのピッチングを無にしてはならない……そんな思いもきっとあったに違いない。ますます惚れてまうがね! マスター!
ただ、甲子園のスタンドにいたドラユニ姿の女性ファンがポツリと語ったひとことが気になった。「最近、ヒーローはマスターばっかやん」……たしかに。
阿部のような試合への集中力を全員が持ち、「凡事徹底」を実践する。そうすれば容易には負けなくなるはずだ。ドラゴンズが強さを取り戻すためのカギは、まさにそこにある。手本は身近にいるぞ。
【著者プロフィール】
チャッピー加藤(Chappy Kato)
1967年生まれ。愛知県名古屋市出身。上智大学卒業。構成作家、コラムニスト、ラジオDJ。幼少時より半世紀以上野球を観戦。特に球場巡りがライフワーク。贔屓のドラゴンズ戦を中心に、毎年プロ野球全12球場での公式戦を生観戦。2006年から20年連続で継続中。落合監督時代、5度出場した日本シリーズの最終戦をすべて球場で見届けた。歌謡曲のレコードコレクターでもあり、昭和文化にも造詣が深い。
【動画】鮮やかすぎるセンター前!阿部寿樹、7月2日の勝ち越し打
DAZNベースボール公式Xより
今季の切り札
今宵もきっちり仕事
阿部寿樹 延長11回に勝ち越しタイムリー
⚾️阪神×中日
【関連記事】
この記事が面白いと思ったら…?
Googleの新機能を利用して「ベースボールチャンネル」を優先表示しよう!
最新の野球情報をいち早くチェックしたい方は下記リンクから↓
【了】