![日本代表DF板倉滉 [写真]=Getty Images](index_images/index.jpg)
FIFAワールドカップ2026が開幕。48カ国の頂点を巡る戦いがついにスタートした。
メキシコ代表対南アフリカ代表による開幕戦の少し前、激震に見舞われたのが日本代表だ。ベースキャンプ地のアメリカ・ナッシュビルで10時45分から練習が始まり、冒頭15分の公開が終わった後、日本サッカー協会の山本昌邦ナショナルチームダイレクターの囲み取材が急きょ設定され、キャプテン遠藤航の離脱が告げられた。同時に板倉滉がキャプテンを引き継ぐことも正式に発表された。
「今朝、朝食を食べて練習に行く前だったんですけど、そこで(森保一)監督から(遠藤の離脱とキャプテン就任の)話をもらった。出発まで時間はなかったんですけど『自分から航くんのところに行かないといけない』という思いになりました。連絡もせず、とりあえず部屋に行かせてもらった。相手の気持ちを考えないといけない部分もありましたけど、一言喋っておかないといけないと感じたんです」と板倉は急転直下の出来事を報道陣に説明。新リーダーとして気持ちを切り替え、3日後に迫ったオランダ代表戦に向かっていく覚悟を口にした。
ワールドカップ本番直前のキャプテン交代というと、2010年の南アフリカ大会を思い出す。本番2週間前、イングランド代表との親善試合の前に岡田武史監督からキャプテンの重責を託されたのが長谷部誠(現日本代表コーチ)だった。中澤佑二からのリーダー変更という大鉈が振るわれ、本人も戸惑ったが、これによりチームの雰囲気が一変。停滞感を打破した日本代表は前向きな戦いを見せ、ベスト16まで勝ち上がっている。
その実体験を今回、長谷部コーチが板倉に伝えたという。「練習後、ハセさんが『自分の時も同じような状況だった』と話をしてくれました。『滉の人間性とかそういうのを見て、森保さんは指名してくれたと思うから、変に気負いすぎずにやれ』と。今は(吉田)麻也くんがいたり、ハセさんがいたりと、偉大な先輩方がいるので、本当に恵まれているなと思います」と、板倉はしみじみと語った。ワールドカップでキャプテンマークを巻いた先人たちにサポートしてもらいながら、本番を迎えられるのは大きなアドバンテージ。長友佑都や南野拓実も含め、年長者たちに支えてもらいながら、板倉は大舞台に挑んでいくことになるのだ。
実際、長谷部コーチが太鼓判を押した通り、板倉の人間性は高く評価されている。川崎フロンターレのアカデミー時代の恩師・高崎康嗣(京都U-18監督兼ヘッドオブコーチング)は「いつも穏やかな笑顔で対応できるのが滉のよさ。彼と敵対関係になる人間は皆無だった。ピッチ内外で言い合いになるようなところにいつも笑顔の滉が入ってくると、潤滑油のように周りを円滑にしてくれる。それは持って生まれた才能でしょう」と嬉しそうに語ったことがあった。新キャプテンの板倉には仲間を一つにできる器の大きさが備わっているのだ。
常に他者への気配りを忘れず、いろんな変化を敏感に察知できるのも板倉の長所。筆者の話で恐縮だが、2023年秋にヒザのケガをして松葉杖で日本代表の取材に行った際、板倉は取材ゾーンで「大丈夫ですか?」と真っ先に声をかけてくれた。取材者と取材対象という線引きがある中、そういった言葉をサラリと口にできる選手はそう多くない。板倉の思いやりと優しさを痛感する好機となった。
そういった人物だからこそ、誰もが板倉をリスペクトし、一緒になってチームを盛り立てていこうとなるはず。森保監督がこの非常時にキャプテンの重責を託したのも、その人間力を信じたからに違いない。「常に先頭に立っていないといけないと思いますし、チームがいい時、悪い時を含めて全ての責任を負いたいと思っています」とも板倉は語気を強めたが、時には苦言を呈したり、仲間であろうとも厳しく要求することも必要になってくるのだ。
目下、板倉は今年頭からの長期離脱の影響もあって、最終ラインの絶対的主力とは言い切れない立場にいる。オランダ戦も3バック中央は川崎F時代の先輩・谷口彰悟がスタメン出場する可能性があり、その場合は板倉はベンチから戦況を見守ることになる。それでも彼ならばキャプテンとしてチーム全体を俯瞰し、的確な声かけをしてくれるはず。もちろんピッチ上でも冨安健洋、伊藤洋輝といった仲間たちを鼓舞することもができるだろう。
その“板倉効果”でオランダ、チュニジア、スウェーデンとのグループリーグで日本が隙のない戦いを見せ、着実に勝ち点を積み重ねることができれば理想的。決勝トーナメント進出をいち早く決め、過去最高のベスト8以上へとけん引してくれれば、志半ばでチームを離れた遠藤も安堵するはずだ。前任者に最高の報告をするためにも、板倉が新たな日本代表を統率し、光り輝く集団にしなければならない。本領発揮はここからだ。
取材・文=元川悦子
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