エンジンの咆哮とアリババの洞窟|パリの一日競売、17台のモトとオートモビリア

2026年6月2日、パリ六区のグロ&ドレトレズ(Gros & Delettrez)で、ひとつの風変わりな競売が開かれた。午前はラジエーターを飾った150点超のカーマスコット・コレクション、午後2時からは17台のオートバイ、そして午後3時からはオートモビリアの数々。ラジエーターに載せる芸術と、エンジンの咆哮と、収集家垂涎の宝物が、一日のうちに次々と槌の下をくぐっていく趣向である。30年をかけて集められたマスコットの饗宴については稿を改めるとして、ここでは午後のモトとオートモビリアに目を向けたい。

【画像】ユニークなオークションを彩ったオートバイ、オートモビリアの数々(写真28点)

出品された17台のオートバイは、1930年から1970年代末までを射程に収める。フランスのルネ・ジレ、英国のBSA、イタリアのジレラやラヴェルダ、そして日本のホンダにドゥカティ。さらにジャパウトやドゥヴィルといった、より稀少な作り手まで顔をそろえる。いずれも実際に走らせて愉しめる個体であり、パリの石畳でも、オーヴェルニュの峠でも、あるいはマス・デュ・クロのサーキットでも、その本領を味わえるという。

口火を切るのは、1930年頃のルネ・ジレ K750である。750ccのサイドバルブV型二気筒を積むこの大型車は、その堅牢さと信頼性から、長らくフランス陸軍と警察に愛用された一台だ。戦後の復活は叶わずプジョーに吸収され、1958年に姿を消したが、フランスのオートバイ産業がかつて誇った栄光を、いまに伝える貴重な存在である。出品個体は念入りなレストアを経て、戦前車のツーリングにそのまま加われる状態にあるという。

英国車を代表するのは、BSA ゴールドスター DBD34だ。1950年代英国製スポーツバイクの精髄ともいうべき単気筒500ccで、マン島のクラブマンTTを席巻し、ついにはそのクラスそのものが消滅したという逸話を持つ。バーハンドルにバックステップ、赤いラインの入ったクロームタンク。停めていてさえ疾走して見えるその姿は、今日もっとも蒐集家に求められるオートバイのひとつである。

イタリア勢には、1954年頃のドゥヴィル(OCMA)160や1957年のジレラ150スポルト、そして1979年頃のラヴェルダ750が並ぶ。なかでも目を引くのが、1971年のドゥカティ 450 R/Tである。デスモドロミック機構を備えた単気筒オフローダーで、フランスで新車として売られたほぼ唯一の個体とされる希少車だ。

そして時代を一気に下らせるのが、日本車の充実ぶりである。C77ドリーム300やS90、CB350 K2、CB125Sといった往年のホンダに加え、1975年のGL1000ゴールドウィング初期型、そして名高いCB750フォア K0までがそろう。白眉は、1974年のジャパウト 1000であろう。パリのホンダ・チューナー、ジャパウトが手がけたこの一台は、ボル・ドール24時間耐久を制したことで知られる、フランス・オートバイ史の生きた伝説である。

午後3時からのオートモビリアは、まさしくアリババの洞窟であった。ブガッティからフェラーリ、ルノーやプジョーまで、名だたるマルクにまつわる品が、小物から逸品まで集う。ボル・ドールや映画『イージー・ライダー』のポスター、「速さの画家」と称されたジェオ・アム(Géo Ham)のリトグラフ、モトクラブの琺瑯看板や古いトロフィー、ルノーのエトワール・フィランやアルピーヌ A442といった競技ゆかりの資料、さらにはエルメスの装身具や、旅の守り神たる聖クリストフの章牌まで。収集家であれば、誰もが「探していた最後の一片」をここで見つけられたにちがいない。

この一日を組み立てたのは、自動車とオートモビリアを担当する専門家、アントワーヌ・ソルニエとバティスト・ニコロジ(Baptiste Nicolosi、Arts and Cars)の二人である。オクタンの読者なら、ニコロジの名に覚えがあるかもしれない。かつて本誌が、彼自身が愛するブガッティのオーナーとして紹介した人物だ。車を心から愛する者が、車の祭典を仕切る。会場のグロ&ドレトレズ・リーヴ・ゴーシュもまた、本売立ての専門家によれば、二十世紀初頭にはガレージ、すなわち自動車の販売店か修理工場であった産業建築だという。かつて車を出し入れしたであろう硝子屋根の下に、マスコットとモトとオートモビリアが一堂に会した一日。それは、自動車という文化のあらゆる断面を惜しみなく見せてくれる、またとない眺めであった。

ヴェント グロ&ドレトレズ「マスコット、モト&オートモビリア」

2026年6月2日 パリ六区 ベリット通り2

https://www.gros-delettrez.com/vente/178371

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI