
音楽評論家・田家秀樹が毎月一つのテーマを設定し毎週放送してきた「J-POP LEGEND FORUM」が10年目を迎えた2023年4月、「J-POP LEGEND CAFE」としてリスタート。自由な特集形式で表舞台だけでなく舞台裏や市井の存在までさまざまな日本の音楽界の伝説的な存在に迫っている。 2026年4月前半の特集は、浜田省吾の1stアルバム『生まれたところを遠く離れて』と、2枚目のアルバム『LOVE TRAIN』のリミックスバージョン。
こんばんは。J-POP LEGEND CAFEマスター・田家秀樹です。今流れているのは、浜田省吾さんの「路地裏の少年」。1976年4月21日に発売になったファーストアルバム『生まれたところを遠く離れて』の1曲目。同時発売になったファーストシングル。4月21日に、このアルバムの50周年リミックス盤が出るんです。その盤からお聴きいただいているんですが、今週と来週の前テーマはこの曲です。2026年4月前半2週は『生まれたところを遠く離れて』と、二枚目のアルバム、77年5月発売の『LOVE TRAIN』、この2枚をご紹介していこうと思います。今週と来週2週にかけて『生まれたところを遠く離れて』の全曲をお聴きいただこうと思っています。
先週まで1966年ということで、いろんな話をしてきましたが、今年はそういう巡り合わせが多い年だなと思ったんです。1966年生まれは60歳で丙午っというタイミングで、その10年後、1976年もいろんなことがあった、いろんなアルバムが出た。J-POPのターニングポイントだったんではないかって改めて思っているんですね。デビューした人、この年に出た名盤のアルバムをご紹介していこうという。その口火を切るのが今週と来週、浜田さんの50周年リミックスアルバムということになります。
浜田さんは1952年12月29日生まれ。1972年に広島時代の音楽仲間とバンド愛奴を結成して、74年に吉田拓郎さんのバックバンドとしてプロの道に足を踏み入れたんですね。そして、1975年、愛奴でデビューして、浜田さんがいた時代にはアルバム1枚リリース。75年9月に脱退して、翌年1976年4月にソロデビューしました。80年代以降、地上波のテレビで全く歌うこともなく、CMに出ることもない。コンサート活動一筋でここまで来ました。
4月21日に出る『生まれたところを遠く離れて』と『LOVE TRAIN』のリミックス版。これが衝撃的に音が良かったんです。今週と来週は、まず『生まれたところを遠く離れて』の全10曲をお届けしようと思います。オリジナル版とは音の装いが一新しました。その象徴のような1曲目、改めてお聴きいただきます。
路地裏の少年 / 浜田省吾
1976年4月21日発売。浜田省吾さんのデビューアルバム『生まれたところを遠く離れて』の1曲目、デビューシングルでもありました。歌詞の中に、<おれ22 初めて知る 行き止まりの路地裏で>。23歳の誕生日前日に書いているんですね。75年12月28日に書いた、路地裏だったんですね。愛奴のデビュー曲が75年の「二人の夏」が、とってもポップな曲で、レコード会社が「これは100万枚売れるよ」って言って全く売れなかった。その後に拓郎さんのバックバンドで74年にツアーをやって、業界の中ではそれなりの知名度があったんですけども、オフィシャルサイトにディスコグラフィがあって、そこに浜田さんがこのアルバムについて長い文章を書いている。「「たとえ制作出来たとしても、これが最初で最後のアルバムになるかもしれない」そう思っていたので、とにかく自分のやりたいことをやる、ポップである必要なんて無い…って、かなり眉間に皺が寄った感じでした(笑)」って書いていますけれども、デモテープを持ち込んでも全然形にならなくて、最後この曲ができて、これがあるんだったらアルバムになるねって言われたっていう、そういうアルバムですね。作ったのが22歳、歌った23歳の浜田省吾の生々しさというのは、アルバムに刻まれております。
このイントロのベースとドラムで、「えっ、何これ?」と思ったのが、最初の印象でした。こんなに重量感のあるアルバムだっけ?っていうのが大きかった。ライブの始まりみたいな印象だったんですね。重量感とか音のエッジ。音の切れ味、先っぽみたいなものが見えるような、とってもシャープな音作りなのと、全体の音のスケール感がものすごく大きい。ああ、こういうアルバムになったんだと思いました。
リミックスっていうのは、今年の1月に中島みゆきさんの『Singles 2000』リマスター版をご紹介した時に、いろいろ瀬尾一郎さんに話を伺ったんですが、瀬尾さんいわく、リマスターっていうのは音の化粧直しだと言っておりました。すでに出来上がっているお化粧を、もう一度整え直すんだ。でも、リミックスはもっと根源的なんですよ。始まりから直すみたいな。マスターテープっていうのがありますよね。最初のレコーディングした時に、各楽器などをバラバラのチャンネル、違うチャンネルに分けて録音したマスターテープ。それを全部聴き直して、それぞれのバランスを全部作り直すんです。その中には使わなかったテイクっていうのがあったりするんですよ。そういうのを全部生かしながら作り上げているんですね。ですから、歌も演奏も元のままなんです。もとのまんまなんですけど、取り出し方、バランスを変えることによって、こんなに違うんだっていうのが、このアルバムの発見ですね。同じ曲の同じ歌と演奏でありながら、こんなに変わるのかっていう、そんなアルバムになっております。この「路地裏の少年」、イントロだけでもそれが伝わる。2曲目、もっとそういう印象がありましたね。アルバムの2曲目「青春の絆」。
青春の絆 / 浜田省吾
1976年4月21日発売。浜田省吾のデビューアルバム『生まれたところを遠く離れて』の2曲目「青春の絆」。どうですか? 一変した感じしません? このイントロ鳥肌立ちそうになりましたもんね。ギターの弦の響き方とか、ベースのブーンってなった時の奥行きとか沈み方とか、そこに入ってくるピアノの間とか、隙間感がとっても気持ちいいんですね。ブルージーな気持ち良さって、こういうことを言うんだろうなっていうような、そんな演奏で、浜田さんの歌、若さとは何なのかっていうようなことが歌にもにじみ出ているんですよ。
リミックスしたのは野口素弘さんっていう1982年生まれの若いエンジニアで、浜田さんのアルバムは2003年のアルバム『初秋』からアシスタントで参加して、2017年のカバーアルバム『The Moonlight Cats Radio Show』からメインのエンジニアになり、ライブ音源を商品化するときのエンジニアも担当している。浜田さんのライブの音も本当によく知っているエンジニアなんですね。彼は当時のことを知らないんです。彼のインタビューもしているんですけど、「当時アルバムのことはご存知でした?」「いや、当時は全く聴いてなかったし、仕事するようになったんだけども、聴かない方がいいかなと思って聴かなかったです」って言っていました。
でも、マスターテープを聴いていて、「あ、こういうことをやりたかったんだろうなっていうことがすごくよくわかったんで、そこに音を近づけたつもりです」と。プロデューサーの鈴木幹治さんはもうグッチの好きにやっていいよっていうことで話が始まって、そうやって作られてきた。ともかく若いんです、声が。「青春の絆」。感情的。情緒的なところが本当に情感たっぷりなんですよ。次の曲もタイプが違うんですけども、そういう若さが伝わってくる。浜田さんは、この曲を愛奴時代の75年から78年まで3年半暮らした部屋で書いたと書いております。環七沿いの4畳半一間の木造アパートで書かれた曲です。
朝からごきげん / 浜田省吾
このライブ感って言いますかね。ライブ盤じゃないですよ、もちろん。演奏が生き生きしているんですよね。使い古された言い方をすれば、演奏が歌っているって言いますけれども、そういう一体感が、表情が見えるように聞こえてきますね。
環七沿いの4畳半一間のアパート。都市郊外のど真ん中。騒音と排気ガス。引っ越したくても楽器のローンがあって、お金がなくて引っ越せなかった部屋で書かれた、とっても明るいロックンロールですね。当時の愛奴のメンバー、今のロードアンドスカイの社長さん、愛奴のベーシスト高橋信彦さんが、この曲を初めて聴いた時に、「なんか朝からご機嫌だね」って言った。それがそのままタイトルになっているというエピソードもある。
で、さっきご紹介した浜田さんのアルバムに対してのコメントの中に「やりたいことを全部やった」ということもありましたけど、音楽のタイプがかなり違うんですね。ロックンロール、ブルース、リズムアンドブルース、そしてポップスっていう当時の浜田さんがやろうとしていたこと、やりたかったこと、影響されたこと、それが全部形になっているな、と。どんなアーティストも。デビュー作に、その時の、その後の彼らのすべてが凝縮されているって言い方をしますけれど、デビューアルバムならではの面白さがより鮮明に蘇っておりますね。その後ツアーで演奏されている曲もあるんですけど、本当に生々しいほどリアルです。エンジニアの野口さんに、「なんでそういうことになったんでしょうね?」って聞いたら、16チャンネルに詰め込んでいるんで、それぞれの音にリバーブとかかけていない。全部の音が生のまま入っていたんで、それをどう取り出すかによってアルバムの音が決まってきた。その頃の音をそのままブラッシュアップしてみたんです、っていう話をしておりました。声が若いです。この曲もそんな曲です。
雨上りのぶるーす / 浜田省吾
とっても都会的でポップな曲でしょう。でも、こういう面はほとんど語られませんでしたね。アルバムが、やっぱり売れなかったんですね。残っている雑誌の記事が手元にあるんですけれども、例えば、「なんて疲れるアルバムなんだろうか」とか、そういうメッセージ性みたいなところばっかりみんな見ていて、アルバム全体、浜田省吾という人が何をやろうとしているのかまでは、ほとんど関心を持たれていなかったと言っていいでしょうね。でも、そういう中でも、浜田さんの歌って、どういう言えばいいのかな、とっぽさってありますよね。可愛らしいとっぽさっていうのかな。ちょっとイキがったとっぽさみたいなものが強調されているんですよ。もちろん、もともとそういう歌なんですけど、エンジニアの野口さんが、この頃の浜田さんってこうだったのかなとか、こういう歌を歌いたかったのかもしれないな、みたいなことを想像しながら作っているんです。こういう若さ、とっぽいよなぁっていうのがとっても素敵だなっていう、そんなアルバムでもあります。
悲しい夜 / 浜田省吾
とっても都会的なスローなジャージーな曲でしょう。『浜田省吾事典』という本がありまして、その中に、このアルバム全曲についての浜田さんの話が載っているんですけども、この曲については、「アマチュア時代はジャズのレコードもたくさん聴いていたんですよ。演奏能力がないから聴くだけですけど(笑)。今は聴く音楽は聴くだけですけれども、当時は直結していた。いいと思ったものは、そのままやりたい。できないのに(笑)」というコメントが載っておりましたね。
今回、アナログ盤とCDと両方出ていて、CDの方にライナーノーツが付いている。まあ僕が書いているんですけれども、そのための取材をしたんですね。町支寛二さんと高橋さんと鈴木幹治さん3人の話を聞いて、町支さんが当時いいと思った曲がこれだった。町支寛二さんは広島フォーク村のグルックスっていう高校生バンドのメンバーで、愛奴にも加わっていて、このアルバムにも参加している。町支さんが当時「こういう面もあるんだと思った」という、そんな曲ですね。
お聴きいただいてお分かりのように、演奏がとってもみずみずしい。どんなメンバーだったかというと、ドラムが岡本あつおさん、ベースが秋本良一さん、ピアノとキーボードがジョン山崎さん、そしてエレクトリックギターとアコースティックギターが、青山徹さんと町支寛二さんで、アコースティックギターの浜田省吾さん。トランペットが羽鳥幸次 さんと中沢健次さん、テナーサックスが村岡建さん。バリトンサックスが岡崎広志さん、トロンボーンが新井英治さん、こういうメンバーなんですね。ホーンセクション以外は浜田さんの気心の知れている人。青山さんと町支さんは愛奴のオリジナルメンバーですし、岡本あつおさんは浜田さんが抜けた後に、浜田さんが探してきたドラマーなんですよね。秋本良一さんはすでに横須賀で活動してバンドでデビューするっていうメンバー。ジョン山崎さんは、ザ・ゴールデン・カップスの後期のメンバーで、この時すでにスクール・バンドって自分のバンドをやっていた。いわゆるスタジオミュージシャンがいないんですよ。バンド仲間がこれから世に出ていこうという若いメンバーが中心なんですね。そういうバンドの空気みたいなものもすごく出ているなっていうのも、今回のリミックスの1つの大きな特徴ですね、6曲目をお聴いただきます。
街角の天使 / 浜田省吾
オリジナルのアナログ版の歌詞カードに、「Inspiration by Lamont Dozier with Rod Stewart. Can you dig it?」という英語のコメントがついている。ラモント・ドジャーっていう人はモータウン、デトロイトのリズム・アンド・ブルースの老舗、一大レーベル、これを支えたソングライターチームの1人なんですね。「Can you dig it?」っていうのは「分かりました?」っていう意味ですね。リズム・アンド・ブルースの名曲「ジス・オールド・ハート・オブ・マイン」。この曲のロッド・スチュワートバージョンからインスパイアされて作った、そういう説明ですね。『浜田省吾事典』では、「こういう曲をやったら、かっこいいんじゃないかと、初めて書いた曲じゃないかな」というコメントがありました。
さっきちょっとメンバーの話をしましたけども、愛奴のメンバーは全員22歳で、みんな若いけれど、それであれだけの演奏している。今回のリミックス盤はオリジナルと違いが本当に際立っているんですね。聴き比べて、どっちがいいとか悪いとかということではなくて、「ああ、こんなに違うんだ」。50年という時間とリミックスのやり方で、こんなに1つの曲が変わるんだっていう。そういう比較の仕方として聴いていただけると面白いと思います。ギターの演奏の奥行き感とか、いわゆる音のリバーブ感。それから、コーラスが入った。スキャットとかフェイクとか、オリジナルではこんなにはっきり聞こえていませんから、それが強調されていて。この曲について、エンジニア野口さんは「こんなに変えていいのかなと思いながらやった」と言っておりました。でも、鈴木幹治さんは好きにやっていいんだよ、ということで、こうなりました。原曲よりもやりたかったことというのが明らかにこう鮮明に伝わってくる。そんなリミックス版でありますが、極めつけですよ。7曲目「壁にむかって」。
壁にむかって / 浜田省吾
初めて聴いたときに、「あれ、こんなギターのディストーション入ってたっけ?」と思ったんですね。もちろん入っているんですけど、こんな長くない。元の演奏のまんま伸ばしているんですよ。こんな風にやっていたんですよ、っていうのはリアルでしょう。
デビューシングル、『路地裏の少年』のカップリング。違うでしょう? 当時「なんて疲れる重いアルバムなんだ!」みたいな不評の「重さ」になっている要因が、この歌の歌詞だったりもしたんですよ。<蹉跌の空>とか。石川達三さんの「青春の蹉跌」という小説がありましたけれども、そういうことを知らない人は、「なんだ、この言葉」みたいな気分で。<両刃(もろは)のやいば>とか、なかなか歌詞に出てこない言葉が入っているので、そういう重い曲って受け止められたんでしょうけど、こうやって聴くと、演奏が一緒に踊っているんですよ。ギターもドラムベースも踊っているのが見えたんですよね。それとこの若さ。浜田さんのちょっと強がっているような感じとか、反抗的ないきがっている感じとか、肩に力が入っている。思わずさっき、とっぽさって言っちゃいましたけれども、その青臭いとっぽさの瑞々しさみたいなものが本当によく出ているなと思って。このアルバムの中で印象的な1曲だったのがこれでした。来週はアルバム後半の曲と、77年の二枚目のアルバム『LOVE TRAIN』の中の曲をお聴きいただきます。
静かな伝説 / 竹内まりや
流れているのは、この番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。
浜田さんのアルバムのアナログ盤は去年からずっと何度かに分けてまとめて発売されていますね。今年の1月にも、バラードセレクションが4枚出ました。『SAND CASTLE』『WASTED TEARS』『EDGE OF THE KNIFE』『初秋』。そういう一連のヴァイナルコレクションの流れの中で、今回の『生まれたところを遠く離れて』と『LOVE TRAIN』があったんですけれども、これは本人の希望で、単にアナログ盤で出すのではなくて、リミックスしてくれ、どうしてもリミックスしたいんだということで、今回の形になっている。浜田さんは、70年代のアルバムは廃棄したいって言っていた時期がずっとあったんですね。90年代ぐらいまでは特にそういう話をしていました。もちろん廃棄というのは例え話ではあるんですけれども、思うようなアルバムを残せなかったことの後悔の念のようなもの、じくじたる思いみたいなもの。それがあって、なんとかしたいなと。自分のスキルの未熟さというのもあったんでしょうし、とりまく状況、思うようなレコードが作れなかった。そして、周りのプロデューサーとかマネージャーとかディレクターとか。一緒に始めた人たちだったんで、みんなレコーディング経験とかもあまり深くなくて、手探りでいろんなことをやっていた。特にこの1枚目は最初で最後だろうなということで作って、それが駄目で。じゃあ、違うものをやらなきゃっていうことで作ったのが2枚目。そういう意味では、自分の音楽の、ある意味では右と左というんでしょうかね。両方がここにあるんだっていうことで、この2枚はやり直したい。そういう結果になったんでしょうね。50周年に蘇りました。50年経って、あのころの浜田省吾さんと出会える。来週も続きをお聴きいただこうと思います。
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
「J-POP LEGEND CAFE」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストにスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
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