
軽量で、一見シンプルながら、その実、どこか皮肉めいたほどに知的なコンセプトを備えていたロータス・エリーゼ。エリーゼはその時代のロータスを再定義した。エリーゼが生産に入ったのが、実に30年前というのも驚きだ。それは、ロータス初のミドシップ・ロードカーであるヨーロッパの登場からエリーゼの登場までと、エリーゼの登場から現在までとが、ほぼ同じ時間であることを意味する。
【画像】ロータス・エヴォーラの初期型と進化型GT410、2台を比較試乗(写真17点)
「形は機能に従うべき」
だが、10年にわたる開発の末、サーキット志向のエキシージのようなより過激な派生モデルや、GMとの協業によって実現した法規に縛られつつ進化したS2といった展開を経て、ロータスはミニマルで剥き出しのスポーツカーの枠を超え、より広い市場の可能性を模索するようになっていた。求められていたのは、筋金入りの愛好家よりむしろスーツを着るような人が、日常的に乗ることのできる車だった。マレーシア資本プロトンのもとで、エリーゼをベースに急ごしらえされたヨーロッパSでは、その役には到底足りなかった。必要だったのはエヴォーラだった。
「これはコーリン・チャップマンと直接繋がりを持った人達による最後のプロジェクトでした」と語るのは、エヴォーラ開発当時のロータスのチーフデザイナーであり、2014年以降再びその職にあるラッセル・カーである。「私たちはマイク・キンバリーから目標を与えられました。送られてくるファックスは、まるでグランプリのピット指示でも読んでいるかのようでしたよ」
キンバリーは1970年代、創業者コーリン・チャップマンの下でロータスを導いた人物である。2006年に暫定CEOとして復帰し、その年の秋にはエヴォーラ計画が始動した。「きわめて短期集中型のプログラムでした。クリスマスまでにスケールモデルを完成させ、2007年いっぱいをテーマの熟成に費やしました。マイクのビジョンは、視覚的に魅力的であること、現代的な使い勝手を備えること、軽重量によって高性能を実現すること、コンパクトであること、さらに、形は機能に従うべきだというものです。加えて、彼は”プラス2”という言葉を繰り返し強調していました。リアシートが必要だったのです」
私がその成果を初めて目にしたのは、2008年ロンドン・エクセルで開催されたブリティッシュ・インターナショナル・モーターショーの場だった。そこで初めて「エヴォーラ」という名が披露され、ロータスのブースは、あのフォード・フォーカスRS(5気筒のあれだ)と並んで注目を集めていたことをよく覚えている。
エヴォーラを最近ふと一台見かけた。その時「これはそう頻繁に出会える車じゃないな」と感じた。目立たないが魅力的なロータスで、ポルシェ・ケイマンに真っ向から挑むために設計・開発された一台だ。思わず目を向けたくなる。そこで調べてみたところ、想像以上に価値が高いことがわかった。生産台数は2009年から2021年までで6117台と希少で、人気も高い。標準モデルでも30,000ポンドを下回ることはまずなく、後期のエヴォーラ400なら50,000ポンド近く、最も希少なGT430ともなればその倍近くの価格となる。
ここにあるのは、2010年式のグリーンのエヴォーラであり、オーナーはロータス・フォーラムの創設者として知られるアンドリュー・ベッツ、通称ビブスである。本人の言葉を借りれば、「所有して8年になる。GTEカーボンディフューザーと吸排気以外はほぼノーマルだ。スパにもニュルにも毎年少なくとも一度は足を運ぶし、普段からよく乗っている。乗るたびに思わず頬が緩むよ」と語る。ラッセルが言っていた”使い勝手”という要素はたしかに機能しているようだ。
ビブスの車両は、エヴォーラの初期仕様を体現する存在である。それと対をなすのが、ダニー・エルフィックの2019年式エヴォーラGT410スポーツである。この2台を比較することで、エヴォーラがどのように進化し、どこへ向かったのかが見えてくる。グレーのボディカラーを別にしても、ダニーの車はよりシャープに再設計されたノーズとサイドシル、いっそうドラマチックなリアまわり、そして従来のガラスハッチに代わるルーバー付きカーボン製エンジンリッドによって見分けがつく。インテリアは一新されており、さらに構造面にもより大きな違いがあるが、それは後ほど触れることにしよう。
エヴォーラ開発プロジェクト
「現代的で新しさを感じさせることは重要でしたが、同時にステアリングには強いロータスのDNAが求められました」とラッセルは語る。「フロントの楕円形エアインテーク、いわゆる”ロータス・マウス”はエリーゼ以前、オリジナルのエランにまで遡ります。ディフューザーやアンダートレイといったダウンフォースを生む機能的要素も盛り込み、フォルムで俊敏さを表現し、実際のドライビング体験に見合うようしなやかで躍動感のあるものでなければなりません。メカニカルを包み込むようにデザインし、さらにバイザーのようにぐるりと回り込むガラスの一体感も重要でした。ドライバーには車を”着ている”ように感じて欲しかったのです」
これは開発段階での話だが、その頃のロータスは内部で変化が起きていた。エヴォーラの下位モデルのエリーゼとその派生モデルは継続される見込みだったものの、キンバリーは発売後まもなく退任し、レッドブル・レーシングやフェラーリ出身のダニー・バハールがCEOに就任する。彼は高級志向への転換を狙い、少なくとも5つの新型モデルを開発すると野心的な構想を打ち出した(さらに2つの派生モデルの計画もあった)。しかしそれらは実現せず、バハールは物議を醸す形で去ることになる。2014年にはジャン・マルク・ガレスが指揮を取り、ロータスは数十年ぶりに黒字化を達成する。そして、エヴォーラは進化を続けた。それが可能だったのも、このプロジェクトが白紙から始められていたからだ。
「エリーゼはサイズ面で制約がありましたが、エヴォーラではサブフレームを用いて騒音を遮断し、整備性も高まり、エアバッグを搭載することもできました。シャシーチームはとりわけ大きな仕事をしましたが、私たちも他に引けを取らない規模のチームでした」と語るのは、現在ロータスのアトリビュート&プロダクト・インテグリティ部門を率いるギャビン・カーショウである(要するに、ロータスらしさを担う役職だ)。彼はエンジニア見習いとしてキャリアを始め、エヴォーラの立ち上げから関わってきた人物だ。
「私たちに必要だったのは”日常的に使える”車でした。乗り心地がよく、シートの快適性や空間にも余裕がある車でした。ポルシェ・ケイマンをベンチマークとして実際に走らせたりもしましたよ。ケータハムより快適でありながら、なおダイナミックで、あらゆる天候で乗れる車には、たしかな市場がありました」
マイク・キンバリーとトヨタとの関係から、3.5リッターのカムリ用V6はパワーユニットとして自然な選択だった。ギャヴァンは次のように語っている。「出力は280bhpありましたが、初期型はまるでブガッティ・ヴェイロンのようなギアリングでした。最初に手がけたテーマはスポーツレシオのギアボックスを開発することでした。とはいえ、接着構造のルーフのおかげで剛性は非常に高く、ダンパーはビルシュタイン、ブレーキはAP、タイヤはヨコハマ、可変式トラクションとスリップ制御はボッシュと、優れたパートナーに恵まれていました。久方ぶりの”本気のロータス”でしたよ」
エンジニアリングのコンセプト自体はエリーゼと大きく変わらず、接着およびリベット留めされたアルミ製タブにガラス繊維製パネルを組み合わせ、ミドに搭載したエンジンで後輪を駆動する。サスペンションは鍛造アルミ製ウィッシュボーンに、アイバッハ製コイルスプリングとビルシュタイン製ガスダンパーを組み合わせる。前方にはアルミ製クラッシュ構造が追加され、エンジンとトランスミッションはスチール製サブフレームに収められる。ステアリングは油圧アシスト付きラック&ピニオンである。
スポーツカーとしては”贅沢すぎる”乗り味
コンセプトどおり、ビブスのエヴォーラはエリーゼよりもはるかに乗り込みやすい。ドアの閉まり方はポルシェのような重厚さこそないが、エリーゼのような軽さでもない。ダッシュボードは1950年代のエリートを思わせる造形で、メーターフードがスポーツクーペ的な輪郭の頂点を成している。左側にはナビ画面があり、スイッチ類は丸型のフラッシュタッチボタンを中心にシンプルにまとめられ、コラムレバーはフォード製だ。「自分たちの得意分野で勝負しました」とラッセルは言う。「少量生産であることは、手仕上げの利点にもなります。マイクは、荒々しいロードスターではなく、より洗練されたスポーツクーペを望んでいたのですから」
スタートボタンを押すと、甲高い絶叫ではなく、品のある吠え声が迎えてくれる。アメリカの中流層向けセダンにルーツを持ちながら、この24バルブV6は豊かな音色を奏でる。車重1383kgに対して276bhp(280馬力)という数値は、当時のケイマンをいくらか上回っており、力強い加速にも納得がいく。テストでは、0-60mph加速5.0秒を記録しており、実際のところその性能はベーシックな911に近いものだった。6速トランスミッションは、やや節度のある手応えだが、シフトは十分に素早い。
それだけでも多くの人にとっては十分だろう。だが、動きの制御という点において、エヴォーラはロータスが長年ほとんど他のどのメーカーよりも優れてきたものを改めて思い出させてくれる。ステアリングはまさにお手本のようで、豊かな手応えに満ち、路面のキャンバーやグリップのわずかな変化にも敏感に反応する。エヴォーラはコーナーへ向けるというより、そっと導き入れるような感覚だ。その応答には繊細さがあり、作り込まれたというよりも、むしろ生まれつき備わっているかのようなバランスが感じられる。
しかし、決して繊細すぎる車ではない。エヴォーラは落ち着きとしなやかさをもって路面をいなし、その乗り味はスポーツカーとしては贅沢とすら言える領域にある。荒れたB級路、すなわち多くの高性能車が神経質な挙動に陥るような路面でも、冷静な余裕をもって走り切る。サスペンションは路面に呼吸を合わせるように動き、接地と安定を保ち続ける。ここにエヴォーラの真価がある。この車は滑らかな舗装路やタイム計測のためだけでなく、現実の道路のために設計されているのだ。ケイマンが路面を叩きつけるように進む場面でも、エヴォーラはそれをしなやかにいなす。
さらなる進化
それでもなお、さらなるパワーを求める声はやまなかった。これほど際立ったハンドリングを備えた車であれば、それも当然のことだろう。答えは2010年、エヴォーラSとして示された。私もその場にいた。スペイン南部リオ・ティント鉱山の火星のような丘陵地帯を駆け回りながら、ハロップ製ツインボルテックス・スーパーチャージャーによって新たに与えられた345bhpがもたらす速度向上に圧倒された(0-60mphは4.6秒、最高速度は172mph)。ダンパーやブッシュ、ジオメトリーには手が加えられたが、スプリングレートはそのままだった。エヴォーラSはブラックのドアミラーで標準モデルと見分けることができたが、ギアシフトについては手厳しい評価をしている。
2015年、ジャン・マルク・ガレスのもとで大きな変化が訪れる。新たなマーケティング戦略と品質向上への取り組みの結果生まれたのが、エヴォーラ400だ。エーデルブロック製インタークーラーによりV6エンジンの出力は400bhpにまで引き上げられ、空力の見直しによって23kgのダウンフォースが追加された。サイドシルは細くなり乗降性が改善され、インテリアには新しいダッシュボード、センターコンソール、ドアトリムが採用され、素材も一新された。
「市場は大きく変わっていました。ケイマンだけでなく、Z4やコルベットも台頭し、TVRやノーブルはその分押されていましたね」とラッセルは語る。「市場は成熟しつつありました。快適志向のスポーツカーと、キャラクターの強いスポーツカーの対比になっていました。ロータスのファンが求めていたものは後者、つまり、より軽く、より高性能で、より存在感のあるスポーツカーです」
そして進化はさらに先へと進む。「最終的にはGT430へと姿を変えていきました」とギャヴァンは言う。「カーボンパネル、新しいダンパーやブレーキ、内容を大幅に強化したのです」 2017年に登場したGT430は430bhpを発揮し、車重は1258kgまで軽量化されたが、生産はわずか60台に留まる。その直前には大型ウィングを備えたスポーツ410が登場し、その後に続いたのがGT410スポーツである。ギャヴァンいわく「量産エヴォーラの中で最も過激でありながら、優れた実用性も備えたモデル」である。『evo』誌はこれを「エヴォーラ版ケイマンGT4」と評している。ポルシェとの比較は常につきまとった。
その違いはすぐに感じられる。たしかに、カーボンルーフやエンジン上のバイザーは一目で判別できるし、インテリアもより整然とし、ダッシュボードのレイアウトも明確で引き締まっている。だが、本当に伝わってくるのは走りの部分だ。より攻撃的なエンジンの咆哮、よりシャープになったシフトフィール、そして明らかに増した加速の蹴り出し。410bhpという出力により、0-60mphは4.2秒、最高速度は190mphに達する。まさしく”速い”のだ。
乗り味もまた変化している。かつての魔法の絨毯のような感触は影を潜め、より引き締まったボディコントロールと鋭いターンイン、そして高い一体感と俊敏さが前面に出てくる。万人向けではなく、オーナーのダニーでさえ、ダンパーを400のよりソフトな仕様に替えたいと考えていたほどだ(スプリングはそのままが良いらしい)。それでも乗り味は洗練されており、911GT3に近い性格を持つ。たしかに硬めだが、しっかりと抑え込まれており、路面の荒さは正確に伝わる一方で、突き上げに翻弄されることはないし、波打った路面でBTCCマシンのように頭が揺さぶられることもない。個人的には?柔らかめを好む自分としては意外だが、こちらの方に惹かれている。
ある意味で、エヴォーラは今も生き続けている。現在ロータスは大型の電動車が生産の大半を占めているが、エミーラは依然としてヘセルで生産されており、その多くをエヴォーラから受け継いでいる。「私たちはエヴォーラの技術を継承し、それをさらに発展させればよかっただけです。手本はすでに自分たちで作っていたのですから!」とギャヴァンは語る。
「そう、エヴォーラは最後まで開発を続けていました」とラッセルも付け加える。その終焉は2021年に訪れ、2022年には同じプラットフォームとV6エンジンを受け継ぐエミーラが跡を継いだ。「それだけこのシャシーは凡用性が高いということです」とギャヴァンは言う。「エヴォーラを軸にロータス・エンジニアリング部門は成長し、ヘセルの工場も姿を変え、新たな章へと進んだのです。エルゴノミクス(人間工学)の面でもエミーラはエヴォーラを踏襲していて、ペダル配置やステアリング位置、視界などをさらに洗練させただけです。まったくのゼロから出発したわけではありません」
初期型と後期型のエヴォーラを比べると、その”核”となる体験がほとんど変化していないことが分かる。ラッセルの言葉を借りれば、「車に多くを求めることはできても、車の側からそれを強いられることはない」のだ。12年にわたる生産期間を通じて、エヴォーラは”感覚”によって定義される車であり続けた。走らせると指先と腰で操るような感覚があり、常に明確に語りかけてくるのだ。電子制御やモード、人工的な演出が支配しつつあるこの時代にあって、エヴォーラは驚くほど率直な存在だった。それは、ロータスが本質を見失うことなく進化できることを証明したのである。
翻訳:オクタン日本版編集部
Words: Glen Waddington Photography: Charlie Magee
THANKS TO owners Andrew Betts and Danny Elphick; thelotusforums.com.