
新江ノ島水族館といえば、華やかなイルカショーや、愛らしいペンギンたちを思い浮かべる人が多いかもしれません。
けれど、館内にはもうひとつ、じっくり見てほしい展示があります。それが「深海Ⅱ」エリアにある、JAMSTECの有人潜水調査船「しんかい2000」です。
江ノ島のすぐ沖に、深さ200メートルを超える深海が広がっている。そんな事実を知ると、いつもの海の景色も少し違って見えてきます。
今回は、展示飼育部の杉村誠さんにお話をうかがいながら、「しんかい2000」の見どころや、相模湾の深海の魅力についてご紹介します。
江の島のすぐそばに広がる“深海”
江の島といえば観光地のイメージが強いですが、その沖合には意外な世界が広がっています。
相模湾は、陸から近い場所で急激に深くなる地形をもち、深海が身近に広がる特徴があります。杉村さんによると、相模湾では近い場所で深海200メートルほどに達する場所もあるそうです。東京湾の水深が数十メートルほどであるのに対し、相模湾では一気に深海へとつながっていきます。
普段何気なく見ている海のすぐ下に、まったく異なる環境が広がっている。そう考えると、いつもの景色も少し違って見えてきます。
本物の「しんかい2000」を間近で見られる
そんな深海を実際に調査してきたのが、「しんかい2000」です。
新江ノ島水族館の「深海Ⅱ」エリアでは、光の届かない深海の環境をイメージした空間の中で、この潜水船が展示されています。だんだんと濃い青へ変わっていく壁を眺めながらゆっくり階段を下りていくと、しんかい2000が展示されているエリアに到着。深海に自分がいざなわれているような、不思議な感覚がありました。
ドアを開けて部屋に入ると、目の前に飛び込んでくる大きな潜水船。
照明を落とした静かな空間に置かれた船体は、まるで実際の深海で調査をしているかのような雰囲気があり、潜航の様子を想像しながら見ることができます。
展示されている船体は、1400回以上の潜水調査に使われた本物。汚れもあえてそのまま残し、今にも海へ戻れそうな姿で展示されています。
実際に目の前で見ると、その存在感に思わず圧倒されます。展示空間の中にどんと置かれた船体は迫力があり、最初はレプリカだと思う来館者も少なくなかったというのも、うなずける気がしました。
シミュレーターのコックピットも展示
さらに驚いたのが、人が入る空間の小ささです。コックピットは直径約2メートルで、そこに3人が乗り込んで調査を行っていたとのこと。
杉村さんは「この中で7〜8時間過ごすんですが、トイレもないんですよ」と話してくれました。
限られた空間で長時間過ごしながら、深海を調べていた。そう聞くと、深海調査がぐっと現実味をもって迫ってきます。
日本の深海調査を支えてきた存在
「しんかい2000」は、日本の深海調査を支えてきた有人潜水調査船です。日本の深海調査を支えてきた存在として評価されていて、「ふね遺産」にも登録されています。杉村さんは「しんかい2000は日本の深海調査を支えてきた大切な存在で、これは絶対に残していかなければならない」と話していました。
また、新江ノ島水族館では年に2回、公開整備も行われています。そのときには、実際に「しんかい2000」を運用していた元パイロットたちが参加し、船体のカバーを外して内部構造を見られるようにしてくれるそうです。
当時の体験談を直接聞ける機会があるのも、この展示ならではの魅力です。
深海は“わからないこと”が多い世界
深海は、太陽の光が届かない暗い世界です。水温が低く、水圧は高い、私たちが普段知っている海とはまったく異なる環境が広がっています。
エサとなる生物が少なく過酷な環境である一方で、深い場所ほど環境が安定しているともいわれています。その中で生きる生き物たちは、少ないエネルギーで生きられるよう工夫しているそうです。
杉村さんは、深海の魅力について「深海って、まだわからないことが多いんです。”わからないこと”が魅力ですよ」と話してくれました。人類が調査できているのは、深海のほんの一部。まだ知られていない生き物や環境がたくさん残されているからこそ、調べる面白さがあるのだと感じました。
杉村さんおすすめの見方は“階段を上がること”
今回の取材で印象に残ったのが、杉村さんが教えてくれた「しんかい2000」の見方です。
おすすめは、深海Ⅱエリアに設置されている階段を上がって見てみること。杉村さんは「階段に上がってみてください。上から見ると、全部見えるんです」と話します。
下から見上げるだけではわかりにくい上部まで見渡せるため「しんかい2000」の全体像をつかみやすくなります。写真を撮るなら、上から眺めてみるのもよさそうです。
どのような景色が見られるかは、行ってからのお楽しみ。ぜひ、みなさんの目で確かめてみてください。
展示を見るときは、目の前の迫力を楽しむだけでなく、少し視点を変えてみるとまた違った発見がある。そんな見学のコツまで聞けたのも、今回の取材ならではでした。
相模湾とともにある展示
「しんかい2000」が新江ノ島水族館に展示されている背景には、相模湾との深いつながりがあります。
相模湾は、「しんかい2000」が多くの潜航を重ねてきた海でもあります。さらに新江ノ島水族館は、JAMSTECとの共同研究を続けてきた経緯があり、そのつながりの中で展示が実現しました。杉村さんは、この展示に込めた思いについて「いつでも相模湾に戻れるよという気持ちで展示しているんですよ」と話していました。
海の近くに展示されているのも、そんな思いがあるからこそ。ただ展示を見るだけでなく、その背景まで知ると「しんかい2000」がもっと特別な存在に感じられます。
おわりに
江の島のすぐそばに広がる深海の世界。その一端を感じられるのが、新江ノ島水族館の「しんかい2000」展示です。
本物の潜水船を間近で見られるだけでなく、日本の深海調査の歴史や、相模湾の面白さにもふれられるこの展示。ふだん何気なく見ている海の下に、未知の世界が広がっていると思うと、なんだか不思議な気持ちになるのではないでしょうか。
訪れたときは、ぜひ深海Ⅱエリアの階段も上がって、「しんかい2000」をいろいろな角度から眺めてみてください。見慣れた江の島の海が、ロマンあふれる深海に見えてくるかもしれません。
新江ノ島水族館
営業時間
9:00〜17:00※日により変動あり
休館日
年中無休※年末年始、イベントなど時期により変更あり※施設点検等で臨時休館あり
アクセス
小田急江ノ島線「片瀬江ノ島駅」 徒歩3分江ノ島電鉄「江ノ島駅」 徒歩10分湘南モノレール「湘南江の島駅」 徒歩10分
住所:〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2丁目19番1号
駐車場:なし(周辺の駐車場をご利用ください)








