「これが当たっていなかったら、私は今、ここにいないと思います」――長くこの業界に身を置き、何度も“波”を見てきた人間だからこその重く切実な言葉だった。

SANKYOのパチスロ開発者として、初代『パチスロ からくりサーカス』に関わったSANKYO商品本部 PS開発部 次長の野坂和哉氏。彼にとって、この一台は単なる代表作ではない。自身のキャリア、部門の命運、そして“スマスロ時代のSANKYO”の立ち位置を左右する、まさに転機そのものだった――。

  • SANKYO商品本部 PS開発部 次長の野坂和哉氏 撮影:泉山美代子

    SANKYO商品本部 PS開発部 次長の野坂和哉氏 撮影:泉山美代子

就職氷河期の大学生を突き動かした“一番愛着のある商材”への思い

「大学時代、友人に誘われて打ったのがパチスロに興味を持つようになったきっかけです。最初に触れたのは、1993年頃に登場し、大量リーチ目を搭載したノーマル機の金字塔です。そこから1998年頃の技術介入要素が強い人気シリーズなども打ち込みましたが、一番ハマったのは、その後にCT(チャレンジタイム)という新ジャンルを確立させた機種ですね」

営業職を希望しながらスタートした就職活動。様々な業界のメーカーを受けるなかで、あの時の感動と興奮が、就職氷河期時代の真っただ中、当時大学生の野坂氏を突き動かす。

「友人に誘われて以降、大学時代はずっとパチスロをやっていたので、就職活動の時に『どうせやるなら、自分が一番触れてきた、愛着のあるものを商材にできたら面白いんじゃないか』という思いがありました」

運命に導かれるようにSANKYOへ。24年の社歴で、業界の浮き沈みを何度も見てきた。入社の時、家族に言われた言葉が今も残っている。

「もともとパチンコが好きな家族で、有名な会社でもあったので、入社が決まった時は喜んでくれました。ただ、うちの家族は結構シビアで、『この業界は変化が激しいし、10年で勢力図が変わることもある。そういう世界だと覚悟して入れよ』と言われました」

厳しくも、現実をよく知る先人の言葉として受けとめた。その重みを、彼は経験を積み重ねる中で噛みしめている。

「今は10年どころじゃないですね。もっと短いスパンで波が来る。時代とともに変化の周期が短くなってる感じがします」

“オンリーワン”の要素は後から加えられない

その“波”を正面から受けるのが、開発の現場だ。現在の彼はPS開発部の次長に加えて、複数機種の責任者を務めている。フェーズの違う機種が同時に走る中で、常にジャッジを求められる。

「時期にもよりますが、午前中はある機種の企画会議、午後は別機種の試打、さらに別の機種は申請段階の最終チェック、というように1日の中でいろいろなフェーズの機種が入ってきます。基本的には会議や確認がかなり詰まっている日が多いですね」

開発で何を一番重視しているのかと聞くと、迷いなくこう答えた。

「企画の段階で、最初にどれだけ突き抜けたものを持てるかですね」

今の市場は台数も多く、少しの差では埋もれる。だからこそ、後から付け足したような特徴では意味がない。

「“オンリーワン”の要素は、後から加えられないんです。最初に“突き抜けたもの”がないと、最終段階になっても弱いままになってしまう。そこはすごくこだわっています」

過去の名機をヒントに未来を切りひらく

ほかにはないものを――そこを核としつつも、立ち止まる瞬間もある。チームが行き詰まった場合、彼は過去の機種をヒントとして持ち出す。そこには、ある信念がある。

「新しいものは、ゼロからいきなり生まれるわけじゃないんです。過去にあっても、今は誰もやっていないからこそ、新鮮に感じるものもある。自分は4号機時代を知っているので、ヒントとして“過去の機種ではこういうのもあったよ”と話すことは結構あります」

その意味で、スマスロという存在は、まさに“過去が未来に再接続された瞬間”でもあった。

「スマスロは、メダルレスというだけじゃなくて、設計できること自体が変わりました。4号機的な出玉性能や感覚も、再現しやすくなったのです」

チャンスが大きい時ほど競争も厳しい。そして彼にとって最大の皮肉は、“ライバル”となる存在が社内にいたことだった。

「ライバルが自分の中にいたというか。社内に、もうとんでもない先行機がいたんです。初代『パチスロ 革命機ヴァルヴレイヴ』は、本当にすごい機械でした。スマスロの幕開けを象徴するような機種で、“原点にして頂点の出玉性能”とまで言われるくらいの存在です。そういう機種が社内にある中で、その次に出す『パチスロ からくりサーカス』はどのように戦うのか、というのがまず大きな課題でした」

“最強先行機”と「同じ土俵に上がるのか」

社内にいるからこそ、その強みもよく分かる。しかも、その存在を意識しないわけにはいかない。『パチスロ からくりサーカス』は、『パチスロ 革命機ヴァルヴレイヴ』とどのように戦うのか。同じ土俵に上がるのか。それとも、まったく違う方向に行くのか。彼らが選んだのは、後者だった。

「真正面から出玉性能の強さだけを見せると、どうしても“出来レースっぽい”とか“そういう見せ方なんでしょ”という風に見られやすい。だったら真逆に振ろう、と考えました」

その真逆としてたどり着いたのは、自らの手で好機を引き寄せるような“自力感”だった。

「その時に考えたのが、“自力感”です。しかも、誰でも簡単に引ける小役、具体的にはリプレイのような比較的引きやすい役に価値を持たせることでした。今まで出玉性能の高い機種で、通常役にそこまでの価値を持たせた機種はあまりなかったと思います。『通常役が仕事をする』『“自分でやった”感がある』というところを前面に出そうと考えたんです。結果的に、それが差別化に繋がりました」

技術面で苦労したのは、やはり高い出玉性能と試験適合の両立だった。

「出玉性能が高い機種なので、その数値調整にはかなり気を使いました。最終的には試験を通さないと世に出せないので」