西日本鉄道が3月19日に公開した「にしてつグループ第17次中期経営計画」で、重点施策のひとつに「西鉄貝塚線と地下鉄箱崎線の直通運転の実現に向けた検討」が盛り込まれた。検討した結果、実現しないかもしれないが、じつは将来の直通運転を見据えながら実現しなかった経緯がある。過去の検討状況を調べてみた。
西鉄貝塚線は貝塚~西鉄新宮間を結ぶ11.0kmの路線。全線電化されているものの、単線で列車は2両編成とローカル線の趣がある。日中時間帯は15分間隔、平日夕方以降の帰宅時間帯は貝塚駅から10分間隔で運転し、短編成の輸送量を補っている。混雑の激しかった平日朝の通勤時間帯も、今年3月のダイヤ改正で貝塚行を増便し、最短7分間隔の運転とした。
ほぼ全線にわたってJR鹿児島本線と並行し、西鉄千早駅で貝塚線から鹿児島本線(千早駅)へ乗り換えることで博多方面へアクセス可能。和白駅でJR香椎線とも接続している。貝塚駅で西鉄貝塚線と福岡市地下鉄箱崎線が接続しており、両路線は改札口を挟んで向かい合う。階段なしで乗換え可能という便利さもあり、利用者数、沿線人口ともに増えている。
福岡市地下鉄箱崎線は空港線の中洲川端駅を起点とし、貝塚駅までを結ぶ4.7kmの路線。いまも西鉄貝塚線へ階段なしで乗り換えられるので便利ではあるものの、直通運転が実現すればさらなる利便性向上につながる。
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貝塚駅の航空写真。駅舎の北側が西鉄貝塚線、南側が福岡市地下鉄箱崎線。その右側の線路がJR鹿児島本線。JR九州は新たにJR貝塚駅を建設しており、2027年の開業を予定している(地理院地図をもとに筆者加工)
西鉄貝塚線、地下鉄箱崎線ともに軌間1,067mm、直流1,500Vで同じ。貝塚駅の構造も、互いに線路を延ばせば直通できそうに見える。車体の規格もほぼ同じで、西鉄貝塚線への導入が始まった7050形は全長19.5m・全幅2.718m、福岡市交通局の新型車両4000系は全長19.935m・全幅2.8m。4000系が西鉄貝塚線に乗り入れると仮定して、一定の改修で対応可能と考えることもできるが、それよりも問題は編成長のバランスだろう。西鉄貝塚線の2両編成に対し、地下鉄箱崎線は6両編成で、バランスが悪い。
では、どのような直通運転が考えられるか。2025年1月、福岡市住宅都市局交通対策特別委員会は「福岡都市圏における公共交通に関する調査」のひとつとして、「高速鉄道2号線と西鉄貝塚線との直通運転について」という資料をまとめている。ここでは2014年に報告された「3両編成案」と、2020年に報告された「増結・分離案」が示された。ただし、どちらの案も国の補助採択基準を満たせなかったとのこと。補助採択基準については、費用便益比が「1」を超えることや、開業40年で累積損益が黒字転換することが条件となる。
「3両編成案」は、西鉄貝塚線、地下鉄箱崎線ともに3両編成とし、天神駅から西鉄新宮駅まで相互直通運転を行う案。この場合、西鉄は貝塚線を3両編成で走る車両を用意するほか、3両編成に対応するためのホーム延伸、分岐器や線路の再配置といった改良工事が必要になる。ただし、ほとんどの駅で3両編成に対応したホームがあるか、ホーム延伸の用地を確保できそうに見える。航空写真で見る限り、唐の原駅の改良が大がかりになるかもしれない。
一方、地下鉄箱崎線は6両編成から3両編成に減車される。この場合、天神駅から先、西新・姪浜方面の直通は輸送力不足のため廃止となるだろう。西鉄貝塚線の利用者にとっては、福岡市中心部の天神まで乗換えなしで行ける。地下鉄箱崎線の利用者も、現在は日中時間帯の約半数が中洲川端駅折返しだが、すべて天神駅折返しとなれば利便性が上がる。とはいえ、西新・姪浜方面へ行く場合は乗継ぎが必須になる。天神駅に折返し設備を設置する必要もあり、空港線の列車と支障しないために引き上げ線も必要になるかもしれない。
「3両編成案」は単年度収支で0.1億円の黒字が見込める。ただし、費用便益比は「0.6」となるため、国の補助採択基準を満たさない。
「増結・分離案」は、西鉄貝塚線の車両を2両編成のままとし、地下鉄箱崎線の車両を4両編成に減車する。貝塚駅で西鉄貝塚線の車両と地下鉄箱崎線の車両を連結し、6両編成で空港線の天神・姪浜方面へ直通する。この場合、西鉄貝塚線の線路改良や天神駅の折返し設備が不要になるため、「3両編成案」よりも費用が小さい。現在と同じように箱崎線から西新・姪浜方面への直通が可能になるため、単純に西鉄貝塚線の直通メリットが加わることになる。
もっとも、貝塚駅で車両の併結・分割に時間がかかることから、直通運転が実現しても時間短縮効果は見込めないとのこと。費用便益比の便益は、実施したことで短縮した時間を利点とするため、乗換えがなくなって便利という部分は十分に反映されにくい。
「増結・分離案」は単年度収支で約2.6億円の赤字であり、費用対効果は「0.42」となる。これも補助採択基準を満たさない。
最も効果的な方法は、西鉄貝塚線も6両編成とし、線路を複線化して、西鉄新宮駅から姪浜駅まで直通運転を可能にすることだろう。しかし、これには莫大な費用がかかる。まずは直通運転を実施し、利用者の増加に合わせて線路を改良していく枠組みになると思われる。
なお、これらの試算は報告時の相場をもとにしており、初期投資はほぼ全額を国などの公的資金で賄う。2024年に再度試算したところ、「3両編成案」の単年度収支は約0.3億円と増えた一方、費用便益比は「0.5」に下がった。「増結・分離案」は単年度収支で0.6億円の黒字に転じたものの、費用対効果は「0.4」で0.02ポイント下がった。
もし2026年度に費用便益比を再度試算した場合、国債金利の上昇が社会割引率に反映されるため、さらに厳しい数字になることも予想される。
直通構想は半世紀以上前から提言されていた
西鉄の基幹路線といえる天神大牟田線は軌間1,435mmだが、貝塚線は軌間1,067mmを採用し、西鉄の中でも孤立した路線となっている。現在の貝塚線は博多湾鉄道汽船によって建設され、1924(大正13)年に新博多駅と和白駅を結ぶ路線が開業。新博多駅は博多港付近の御笠川河口付近に設置された。翌年に和白駅から宮地岳駅へ延伸。博多湾鉄道汽船は国鉄と連携し、筑豊炭田と博多港を結ぶ目論見があったため、軌間も国鉄に合わせて1,067mmとなった。
戦前の福岡市内は路面電車が発達しており、民間資本の福博電気軌道と博多電気軌道を母体として路線網を拡大していった。1942(昭和17)年、陸上交通事業調整法によって北九州・福岡エリアの民間鉄道会社5社が合併し、西日本鉄道が発足。このとき博多湾鉄道汽船も吸収合併されたが、同社が建設した粕屋線は1944年に国有化され、現在はJR香椎線となっている。
新博多~宮地岳間の路線は「宮地嶽線(宮地岳線)」という名称になり、戦後に新博多駅を西鉄博多駅に改称したほか、1950(昭和25)年に西鉄多々良(現・貝塚)駅が開業。1951年に宮地岳駅から津屋崎駅まで延伸された。しかし1954年、西鉄博多~西鉄多々良間を分離して西鉄福岡市内線(福岡市内の路面電車)に組み込み、軌間も1,435mmに改軌したことで、宮地岳線の博多直通運転は終わる。西鉄多々良駅は競馬場前駅となった後、1962年に貝塚駅へ改称された。
西鉄宮地岳線(現・貝塚線)の地下鉄直通について、箱崎線が開業する前から運輸省(当時)の都市交通審議会で提言されていた。1971(昭和46)年の答申第12号「福岡市及び北九州市を中心とする北部九州都市圏における旅客輸送力の整備増強に関する基本的計画について」の中で、既設交通機関の再編と整備のため、「路面電車の逐次廃止」「バス路線、バスターミナルの整備」「都市高速道路で通勤高速バス運行」などが挙げられている。
鉄道に関して、「国鉄鹿児島本線、日豊本線、筑肥線、西鉄大牟田線、筑豊電鉄線の輸送力の増強」を第一に掲げ、続いて「西鉄宮地岳線の都心部乗り入れ」「筑豊電鉄の黒崎駅延伸」を挙げた。さらに「福岡市と北九州市に高速鉄道路線の新設が必要」などとまとめられている。その末尾に、高速鉄道路線のうち、都心から南西部方面の路線と国鉄筑肥線、都心から箱崎方面の路線と西鉄宮地岳線の直通運転を検討する必要があると明記された。
答申第12号で示された通り、福岡市内の路面電車は順次廃止され、1979(昭和54)年に西鉄福岡市内線を全廃。1986(昭和61)年には、同じく答申第12号が示していた箱崎方面の地下鉄が貝塚駅に到達する。ただし、西鉄宮地岳線との直通運転は実現せず、将来的に対応可能な構造の新たな貝塚駅が誕生した。
直通運転が実現しなかった理由は、宮地岳線側の線路設備にあった。地下鉄車両の重量に耐えられない可能性があるほか、地下鉄車両に対応したホーム延伸など、西鉄側の負担が大きかった。加えて、民間企業の線路改良に国の補助金を投入できないという制度上の問題もあった。それでも1997(平成9)年の「福岡都市交通問題協議会」において、福岡市と西鉄は相互直通運転の検討を行うことで合意した。
その後の調査で、鉄橋などの設備が地下鉄車両の通過に耐えうる可能性が示された。福岡市からは、第三セクターを設立して国の補助事業の適用をめざす方針も伝えられた。ところが、国が調査したところ、貝塚~西鉄香椎間を対象とした相互直通運転において、施設改良に多額の無償資金(補助金のように返済しない資金)が必要になることや、無償資金の調達、需要喚起策、運行経費低減化などの課題を指摘される。
しかも地下鉄箱崎線、西鉄宮地岳線ともに利用者が伸び悩んでいた。2007(平成19)年、西日本鉄道は利用者の少ない西鉄新宮~津屋崎間を廃止した。この区間に宮地岳駅が含まれることもあり、路線名を「宮地岳線」から「貝塚線」に変更している。西鉄は直通運転についても「乗客が増える見込みがない。第三セクターへの投資は難しい」と消極的だった。
当時、福岡市が西鉄宮地岳線直通に前向きだった理由のひとつにアイランドシティが挙げられる。西鉄香椎~香椎花園前間に「香住ヶ丘駅(仮称)」を新設し、ここからアイランドシティまで約2kmの新線を建設して、人工島内に2つの駅を設置する構想があった。アイランドシティに投資した銀行団からも、地下鉄の乗入れを強く要請されていた。今後、西鉄が相互直通運転に前向きになった段階で、この計画も再起動するかもしれない。
福岡市としてはもうひとつ、JR九州が設置する新駅、JR貝塚駅の開業(2027年春予定)も注目される。JR貝塚駅は、福岡市が進める「九州大学箱崎キャンパス跡地の基盤整備」と合わせて、「貝塚駅周辺土地区画整理事業」の交通アクセスに位置づけられている。新駅の開業で鹿児島本線と地下鉄箱崎線のアクセスが変化する可能性もあり、こうした周辺環境の変化も、西鉄貝塚線と地下鉄箱崎線の直通運転を再検討する背景のひとつといえる。
これらの状況を俯瞰すると、直通運転に積極的だった福岡市に対し、西鉄は費用対効果の観点から投資に消極的だったと考えられる。ただし、西鉄は貝塚線の連続立体交差区間である西鉄千早~西鉄香椎間で、地下鉄乗入れを想定した6両編成対応工事を実施済みだという。近年は利用者も増加傾向にあり、沿線の宅地化も進んでいる。西鉄貝塚線と地下鉄箱崎線の相互直通運転が実現すれば、沿線価値も上がるだろう。
「にしてつグループ第17次中期経営計画」の期間は2028年度までとされている。鉄道事業者の視点で事業費や収支などが改善されるか、あるいは新しい枠組みを提案できるか。どのような結論になるか興味深い。



