「脳卒中はいつ起こるかわからない」——確かにその通りですが、実は発症が多い時間帯があることが知られています。その一つが“朝”。起床前後は体に大きな変化が起きやすく、脳卒中の引き金がそろいやすい時間帯でもあります。なぜ朝にリスクが高まるのか、どんな人が注意すべきなのかを解説します。

脳卒中は「朝」に起こりやすい傾向が

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脳卒中の発作は突然起こるものですが、数々の研究から発症する時刻には次のような特徴があることがわかっています。

発症時間には偏りがある

脳卒中は大きく脳出血と脳梗塞の2タイプに分けられます。原因となる病気はさまざまですが、いずれも1日の中で午前中と夕方~夜間の特定の時間帯にピークがあるという調査結果があります。また季節性や曜日との関連とあわせて「冬の月曜日の朝」が最も注意したいタイミングともいわれています。

あくまで多いというだけで、必ずこの時間に起きるわけではありません。それでも起こりやすい時間と理由を知っておくことで、速やかな対処や予防につながります。

特に起床前後〜午前中は注意が必要

夕方~夜間の発症のピークは脳卒中のタイプによって異なりますが、朝の6~7時台は共通して多くみられる時間です。脳梗塞は早朝から午前中にかけて起こりやすく、特に起床後2時間は注意したい時間帯とされています。

就寝中に発症し、朝に気づくケースもある

脳梗塞は夜間の就寝中に発症することも少なくありません。寝ている間に発症すると、起きてから異変に気づくことになります。

なぜ朝にリスクが高まるのか

朝にリスクが高くなるのは、睡眠中から起床後にかけて起こる体の変化が関係していると考えられています。

起床前後の血圧上昇

脳卒中の発症には血圧が関係しています。健康な人でも朝起きると血圧は上昇しますが、特に朝の脳卒中のリスクを高めるのが「早朝高血圧」です。これは隠れ高血圧の一つで、日中は高血圧ではないものの起床後1~2時間の血圧が高い状態を指します。

中でも夜間に血圧が低下して早朝に急上昇するタイプを「モーニングサージ型」といい、脳卒中との関連が高いとされています。

脱水になりやすい時間帯

睡眠中は汗をかきやすいため脱水になりやすく、起床する頃には血液が濃くなり血管が詰まりやすい状態になります。

血液が固まりやすくなる生理的変化

朝は交感神経が優位になることで血小板の機能が高まり、血液が固まりやすい状態になります。一方で固まった血液を溶かす機能は抑制されるため、血栓ができやすい状態になります。

朝の脳卒中リスクが高い人の特徴

次に当てはまる人は特に注意しましょう。

高血圧や糖尿病などの持病がある

高血圧は脳の血管に負担をかけるため、血圧が高いほど発症率が高くなります。上で説明したモーニングサージ型の早朝高血圧の人は特に注意が必要です。

日中の血圧が140/90mmHg未満でも、寝る前と起床直後の血圧の差が55mmHg以上ある人がこのタイプになります。また糖尿病や脂質異常症、不整脈といった持病がある人もリスクが高くなります。

喫煙習慣がある

たばこに含まれるニコチンが血圧を上昇させ、動脈硬化を促進するため、喫煙も脳卒中のリスクを高める要因になります。

大量の飲酒習慣

大量の飲酒習慣は脳出血のリスクを増加させます。特に寝る前の大量の飲酒は就寝中の脱水にもつながるため注意が必要です。

高齢になるほど影響を受けやすい

高齢になるほど心臓の病気を含めた持病や血管の問題が増えるため、朝方の高血圧や脱水の影響を受けやすくなります。

朝に起きやすい“見逃されがちなサイン”

脳卒中の症状にもかかわらず、朝に起こると見逃されやすいサインを紹介します。

起きたときにろれつが回らない

ろれつが回らない、言葉が出ない、言われたことが理解できないといった突然の言語障害は脳卒中の症状です。

片側の手足が動かしにくい・しびれる

手足の片側に起こるしびれや麻痺も脳卒中が疑われる症状です。

顔のゆがみ、視界の異常

顔の片側が麻痺したりしびれたりすることで顔にゆがみが現れます。また目の神経に影響すると、ものが二重に見えたり視野が欠けたりします。

朝だからこそ「様子を見る」が危険な理由

「寝起きだから」と判断が遅れやすい

脳卒中は突然発症することが特徴ですが、寝ている間や寝起きに症状が出た場合、その自覚が少なく「寝ぼけているかもしれないから様子を見よう」となりがちです。

家族が出勤・登校で見過ごされやすい

同居の家族がいても朝は出勤や登校で慌ただしくしているため、症状が見過ごされる可能性があります。

発症からの時間が治療結果に影響する

もし脳卒中になっていた場合、速やかに専門の医療機関で治療を受けることが大切です。タイムリミットがある治療もあり、早く治療するほど後遺症が軽くなる可能性が高くなります。

様子を見て症状が消えたとしても、それは本格的な発作の前触れのこともあります。慌ただしい朝だからと放置せず、疑わしいときは救急車を呼ぶなど早急に対処しましょう。

朝の体調変化を見逃さない

朝起きたとき、体に違和感があっても「疲れが残っているのかも」「少し様子を見よう」と軽く考えてしまうことは少なくありません。しかし経験したことのない違和感は、大きな病気のサインのこともあります。症状をよくチェックして、脳卒中に当てはまるものがあれば速やかに医療機関を受診しましょう。

脳卒中の朝のリスクについて、脳神経内科の専門医に聞いてみました。

脳卒中は一日の中でも朝(6~12時頃)に発症が多いことが知られています。起床前後には交感神経が活発になり、コルチゾールなどのホルモン上昇に伴う血圧が急激に上昇する「モーニングサージ」が起こるほか、血液が固まりやすくなるなどの体の変化が重なり、脳の血管に負担がかかりやすくなると考えられています。

高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、過度の飲酒などの生活習慣は脳卒中のリスクを高めるため、日頃からの血圧管理や生活習慣の見直しが重要です。

脳卒中を疑うサインとしては、突然の顔のゆがみ、片側の手足の脱力・しびれ、呂律が回らない、言葉が出にくいといった症状が代表的です。これらは短時間で消える場合もありますが、その後深刻な後遺症を残す脳卒中の前触れの可能性もあります。

症状に気付いた場合はたとえ改善していたとしても様子を見ず、速やかに医療機関を受診することが大切です。発症から治療までの時間が短いほど回復の可能性が高まります。

金井 雅裕(かない まさひろ)先生

一宮西病院 脳神経内科副部長/脳卒中センター副センター長
資格:日本神経学会 神経内科専門医、日本内科学会 総合内科専門医、日本脳卒中学会 脳卒中専門医