1人当たりの名目GDPは10万4681米ドルで、世界4位。日本の3倍以上というスイスは、世界でも有数の豊かな国だ。世界の物価を比較する「ビッグマック指数」は日本円にして1,452円で世界最高値で、これまた480円の日本の3倍強。
そんな「スーパーリッチカントリー」スイスで、入場者数が最も多い博物館が「交通博物館」だという。なぜ交通なのか? と不思議に思うが、実際に訪れてみると納得の理由があった。
■上からも下からも楽しめて、「召喚」までできる博物館
衛星都市などを合わせた都市圏人口約15万人、スイスで6番目の大きさの地方都市ルツェルンにある「交通博物館」。古い街並みとルツェルン湖の眺めが人気の観光都市だが、それでも国際都市であるチューリッヒやジュネーブでないここに、入場者数が最も多い博物館があるのは意外だ。
日本の交通博物館でも「真横から」だけでなく、「上からも俯瞰で眺められる」展示にしている施設は珍しくない。ルツェルンの交通博物館にも2階デッキがある。だがさらに素晴らしいのは「地下ルート」を作り「蒸気機関車を下から眺められる」ようにしている点だ。
単純と言えば単純な仕掛けだが、これで今まで見られなかったものが見られる。自動車整備工が車の下に入るときに使う「クリーパー(寝板)」などを使う必要もない。まさに「目からうろこ」の展示方法だ。
またケーブルカーもちゃんと傾斜をつくって展示。こちらも臨場感たっぷりだ。なぜか車体には「48%…世界一急勾配の登山列車」という日本語の文字が書かれている。
博物館のガイドに聞いたところ「実際にこの車両が運行していたときから書かれていたもののはず。たぶん日本もケーブルカーが多い国なのでそれへのリスペクトという意味と、当時は日本人観光客が多かったからでしょう」とのことだった。
そう、スイスはケーブルカーやロープウェイ、山岳鉄道などが多い国。そして、海はないが湖が多いので水運が盛ん。これらがスイスに立派な交通博物館がある理由だ。
もっと大掛かりな設備もある。スポーツカーなど世界の名車を集めた展示だ。ミニカー収納棚のように展示されているのだが、コントロールパネルで車を選ぶとまるでタワーパーキングのように機械が目の前まで運んできてくれる。好きなスーパーカーを目の前に「召喚」する感覚がたまらない。
■「見学」ではなく「体験」できる!
通常博物館の展示の多くは「お手を触れないでください」という表示が多いが、ルツェルンの交通博物館では触れるどころか実際に「乗れる」ものも多い。
この「コンペア990コロナード」、中型機とはいえ全長42.47メートル、全幅36.60メートルある。かなり昔のネタで恐縮だが、春日三球・照代という漫才コンビが1970年代に大流行させた「地下鉄の電車はどこから入れたの? それを考えていると一晩中寝られないの」というフレーズを思い出す。この飛行機は、どうやってここまで運んだのだろう?
■F1カーのコックピットに!
個人的に最も素晴らしい体験だったのは、レッドブルレーシングのF1カーのコックピット、つまり運転席に収まったことだ。もちろん本物ではなくレプリカだが、F1ファンにとってはたまらない瞬間だ。
さらに、運転席が実際に左右に傾斜したりする本格的な飛行機やヘリコプターのフライトシミュレーター、宇宙の「無重力」状態を疑似体験できるというアトラクションも人気があった。
体験型展示はさほど珍しくないが、ここまで「特別な体験をした」と感じられる場所はそう多くない。「博物館とテーマパークのハイブリッド」という言葉が頭に浮かぶほどだ。しかもプラネタリウムや3Dシアターなどの一部を除き、フライトシミュレーターなどを含めてほとんどのアトラクションが入場料に含まれている。
■スイスのうまいもの・その1「ラクレット」
そして旅の楽しみといえばやはり食。スイスのグルメもまた、意外なようで理にかなったおいしさだ。
スイスの名物料理としてまず名前が挙がるのは、白ワインで溶かしたチーズをパンなどにつけて食べる「チーズフォンデュ」。そしてこの「ラクレット」もご存じの方も多いだろう。
冬季オリンピックの競技である「カーリング」のストーンのような形の巨大チーズを半分に切り、その切断面を専用オーブンで熱してトロ~リと溶けたものを削いで皿に盛る。それを茹でたジャガイモ、野菜(特に酢漬け)、パン、ハムなどとともに食べる。
チーズの大きさや溶かし方などは簡易版もあるようだが、要は「トロトロにしたチーズ」という極めてシンプルな料理だ。
溶かしたチーズを様々なものといっしょに食べるという点ではチーズフォンデュと似ていて、最大の違いは鍋の中なのか皿の上なのか。ちなみに、往年の名作アニメ『アルプスの少女ハイジ』でも、主人公のハイジが同居しているおじいさんの山岳地帯にある家でラクレットを食べる場面がある。
ラクレットのおいしさを際立たせるのが、添えられたミニキュウリや小タマネギの「ピクルス」だ。チーズのトロ~ッとした濃厚さはうまいが、それだけだとしつこく単調になりがち。そこで合間あいまに酢漬けの甘酸っぱさを挟むことで、またチーズのトロトロ感を恋しくさせる。「とっろとろ~っ」と「すっぱ~っ」の相乗効果なのである。
■スイスのうまいもの・その2「干し肉」
もうひとつのスイスおすすめグルメが、各種「干し肉」だ。「チーズの次は干し肉? もう少ししっかり調理したものはないの?」という声が聞こえてきそうだが、チーズと干し肉こそがスイス、特にアルプス地方の“うまいもの”なのだ。
スイスなどの山岳地帯では、夏になると牛や羊を平地の牧場から標高の高い場所へ移動させる。いわゆる「避暑」ではない。
冬に備えて干し草を確保するためだ。牧草地に家畜がいれば草を食べてしまうが、「将来のために控えめに食べよう」などと考えるわけもない。そこで、草がよく伸びる夏の間は家畜を山に移し、その間に牧草を刈り取って干し草にする。
こうした暮らしのなかで、チーズや干し肉のような保存食が発達した。夏の間はふもとに降りられず、新鮮な肉を手に入れるのも難しい。そこでミルクはチーズに、肉は干し肉に加工し、長く保存する工夫が生まれたのである。
さらに夏の間保存していればパンだってカチカチになる。それをなんとかおいしく食べるにはどうしたらいいか。そこで生み出されたのかとろとろのチーズと絡めて、柔らかくして食べるという手法。そう、チーズフォンデュやラクレットである。というわけで「ラクレット」や「干し肉」はスイスアルプスが生んだ伝統の味わい。それらがうまくないはずはないのだ。
物価の高いスイスだが、交通博物館の体験展示やラクレット、干し肉のように、この国ならではの魅力をお手頃に楽しめるものもちゃんとある。
















