海外にいると、日本の姿が違って見えてくる。日本食、カルチャー、トレンド、価値観……世界各地の目線から見える“ニッポンの今”とは? 現地在住ライターが、海外から“逆照射”される日本の面白さをお届けする連載、第1回のテーマは、「オーストラリアの日本食の現在地」。


オーストラリアでは様々な日本食がブームとなっている。いや、もう「完全に定着している」と言っていい。その背景として挙げられるのが、日本を訪れたことがある人が増えたことだ。筆者は20年以上オーストラリアに住んでいるが、コロナ前はざっと見て日本-豪州便の乗客の8割が日本人だったのに、今や完全に逆転して8割がオーストラリア人になっている。

  • ※画像はイメージ

    ※画像はイメージ

オーストラリアで日本食が大人気のワケ

ではなぜオーストラリア人にとって日本が人気なのか。まずは「ヨーロッパや北米と異なるオリエンタルな雰囲気と伝統(神社仏閣など)を、安全かつ衛生的に味わえる」からだ。歴史的建造物があるアジアの国々は多いが、日本ほど治安がよく、清潔な街並みやトイレもあわせもつところは意外と少ないのだ。

さらに桜の春、紅葉の秋、雪景色と雪遊びの冬など、季節ごとの楽しみがあるのも魅力。筆者の知人の中でも「毎年2回は日本に行く」という強者もいる。

このことを裏付ける数字がインバウンド客数だ。欧米・オセアニア圏でインバウンド客の「絶対数」が最も多いのはアメリカ合衆国で、日本政府観光局(JNTO)が発表した2025年1~11月の推計値によると約303万6000人。一方オーストラリアは約93万7100人。「なんだ、たった3分の1じゃないか」と思われるかもしれないが、米国の人口はオーストラリアの12倍強。つまり対人口比ならオーストラリア人はアメリカ人の4倍も日本を訪れていることになる。

「近場」である韓国、中国、台湾など東アジアの国や地域を除けば、対人口比での訪日客はオーストラリアがトップ。つまり欧米・オセアニア圏の国々の中では、オーストラリアがぶっちぎりとも言える。

そうした訪日客が増える中、日本で「日本食の本当のおいしさと奥の深さ」に触れた人々が帰国後も「本物の味」を求める。それがオーストラリアの日本食人気の背景だ。

「熟成肉」をつかった本格派トンカツ店も登場

そんな日本食人気の中で今回取り上げるのは、トンカツやチキンカツなどの「カツ」。これがなかなか本格派だ。多くの海外在住者にとって日本一時帰国の楽しみのひとつが「おいしい日本食を思う存分食べまくること」なのだが、筆者は日本ではトンカツを選ぶことはほとんどない。オーストラリアで充分においしいものが味わえるからだ。

  • オーストラリアですっかり人気が定着した日本食。なかでも「カツ」はかなり本格派だ

    ブリスベンのトンカツ専門店での骨付きのトンカツ「トマホークカツ定食」は36豪ドル(約3,700円)

価格と為替レートは2025年12月現在。ちなみにこの店では「熟成肉」を使っている。

  • 同じ店で「チキンカツ定食」(31豪ドル=約3,200円)。「トンカツ定食」も同じ値段だ

    同じ店で「チキンカツ定食」(31豪ドル=約3,200円)。「トンカツ定食」も同じ値段だ

チキンカツはモモ肉180グラム、トンカツはロース肉200グラム。日本の一般的なロースカツ(約100~120g)と比べて約1.5~2倍サイズと、ボリュームたっぷりだ。

変わり種のカツもある

なかには、ちょっと不思議なメニューもある。

  • 同じ店の「海老カツ定食」(36豪ドル=約3,700円)だが……

    同じ店の「海老カツ定食」(36豪ドル=約3,700円)だが……

「これは海老カツじゃなくて海老フライだろう」という声が聞こえそう。そう、日本で海老はフライで提供されることが多いが、「海老カツ」の場合は、すり身や刻み身にして形成したものが一般的だ。

それでも「海老カツ」という名称をつけたのは、「海老フライ」だとフィッシュ&チップス(タラなどの魚のフライとフライドポテト。もともとイギリスの国民食の一つで、イギリス系の住民が多いオーストラリアでも当然人気のファーストフード)の店で提供される「プロウンフライ」と似たものに思われるが、「海老カツ」なら「日本食のトンカツの仲間」と差別化が図れるからだろう。

味はもちろんちゃんとした海老フライだ。タルタルソースもうれしい。

  • 日本の一般的なものより、チーズの割合がずっと高いような気がする「チーズカツ定食」(31豪ドル=約3,200円)

    日本の一般的なものより、チーズの割合がずっと高いような気がする「チーズカツ定食」(31豪ドル=約3,200円)

またベジタリアン向けメニューも用意しておくのがオーストラリアのレストランでは基本なので、「豆腐カツ定食」(29豪ドル=約3,000円)もある。豆腐にカツの衣をつけて揚げたものだ。

さて、ではなぜ日本のカツがオーストラリアで人気なのか。理由のひとつとして、カツとよく似た食べ物であるオーストリア(豪州ではなく欧州のほう)発祥の「シュニッツェル」が、オーストラリアでもそれなりに一般的に食されていることが挙げられる。

  • 鶏肉を薄くたたいて揚げた「チキンシュニッツェル」。ヴィール(子牛肉)シュニッツェルも人気だ

    鶏肉を薄くたたいて揚げた「チキンシュニッツェル」。ヴィール(子牛肉)シュニッツェルも人気だ

こうしたオーストラリアのカツ料理専門店の経営者や従業員は、日本人よりも韓国系のほうが多い印象を受ける。だが海外でよくある「なんちゃって日本食」ではなく、先ほども書いたように肉を熟成させるなど、味は本物だ。

  • 基本の「トンカツソース&すりごま」だけでなく、岩塩(ピンクソルト)、わさび、トリュフ入りオリーブオイルなど、「味変」も楽しめる

    基本の「トンカツソース&すりごま」だけでなく、岩塩(ピンクソルト)、わさび、トリュフ入りオリーブオイルなど、「味変」も楽しめる

ちょっと不思議なところもないわけではないが……

味は合格点を充分に超えている一方、配膳面で日本人の感覚からするとちょっとはてなマークがつくところもないわけではない。次の2枚の写真、どこか変なのかおわかりいただけるだろうか。

  • 【写真】間違い探し! このトンカツ定食の「何が変」なのか、おわかりいただけるだろうか?

    何が変なのか、パッと見で気づけるだろうか?

  • こちらの「間違い探し」ははさらに難問かもしれない

    こちらの「間違い探し」ははさらに難問かもしれない

では正解、というか「間違い」をお伝えしよう。1つめの写真の間違いは、ごはんが「味噌汁用のお椀」に、そして味噌汁が「蕎麦猪口」に盛られている点。2つめの写真は、ごはんと味噌汁の位置が変なのはまだいいにして、トンカツの上の赤い物体が目に入っただろうか。そう、福神漬けである。トンカツに福神漬け!

  • それからメニューで「トマホークカツ」と「チーズカツ」が縦書きなのに、音引きは横棒になっている点も改善点すべき点だ

    それからメニューで「トマホークカツ」と「チーズカツ」が縦書きなのに、音引きは横棒になっている点も改善点すべき点だ

と、細かいツッコミどころはあるにしても、味は本当に合格点をつけられる。

  • テーブルに「食べ方指南」が貼られているのも好感度が高い

    テーブルに「食べ方指南」が貼られているのも好感度が高い

カツサンド系も人気!

そしてカツと言えば、カツサンドも忘れてはならない。オーストラリアのサンドウィッチは卵やハム、サラミやレタスなどシンプルなものが多く、筆者はこれまで揚げ物のサンドウィッチは見たことがない(チキンフィレやフィッシュフライの「バーガー」はある)。

そこに登場したのが日本のカツサンド系のメニューだ。

  • 「海老カツサンド」。こちらはちゃんとすり身にした日本風の「海老カツ」だ

    「海老カツサンド」。こちらはちゃんとすり身にした日本風の「海老カツ」だ

  • 「スパイシーチキンカツサンド」。ピリ辛マヨネーズをパンに塗るのではなく上からかけて「見える化」しているのが一工夫だ

    「スパイシーチキンカツサンド」。ピリ辛マヨネーズをパンに塗るのではなく上からかけて「見える化」しているのが一工夫だ

ちなみにこれらのサンドウィッチ、メニュー名も「Katsu Sandwich」ではなく、わざわざ「Katsu Sando」と日本風にして、「日本発の商品」と強調する。

今回はオーストラリアのカツ事情をアツく語った。今後も人気になっている日本食をあれこれ紹介していきたい。