連続テレビ小説『虎に翼』のスピンオフドラマ『山田轟法律事務所』(NHK総合)が3月20日(21:30~)に放送される。本編では様々な社会問題を描いてきた脚本家の吉田恵里香氏だが、今回は72分という枠の中で、かなり踏み切った差別の問題にも切り込んでいる。ある意味でアクセル全開! そんな決してひるまない気骨なチャレンジャーの吉田氏に、同ドラマの制作秘話や本作に込めた思いについて話を聞いた。

「第62回ギャラクシー賞テレビ部門大賞」「第33回橋田賞」「第51回放送文化基金賞ドラマ部門最優秀賞」などを受賞した伊藤沙莉主演の『虎に翼』。熱いラブコールを受けたスピンオフドラマの主人公は、伊藤演じる佐田寅子ではなく、彼女の明律大学女子部の同期である山田よねだ。演じるのは、本作で高い評価を受けた土居志央梨。本作では、戦後の混乱期を舞台に、よねと、のちに彼女とタッグを組むことになる同大学卒の轟太一(戸塚純貴)とのバックストーリーが、弁護士の視点から語られていく。

  • ドラマ『山田轟法律事務所』より(左から土居志央梨、戸塚純貴)

    ドラマ『山田轟法律事務所』より(左から土居志央梨、戸塚純貴)

「こういうよねが見たい」という気持ちで書いた脚本

――まずは、よねを主人公にした経緯からお聞かせください。

寅子とよねは、正反対ではないけど、ある意味“対”になっているキャラクターです。(義姉で親友の)花江(森田望智)もそうですが、『虎に翼』は“リーガルエンターテインメント”なので、その特性がより出るのは、よねだと思いました。また、よねと轟の2人の活躍は私自身も見たかったし、多くの方から「あの2人の話を見たい」と言っていただいた体感もあり、そうしました。

土居さんは、すごく作品を大事にしてくれる人だなという印象が強くあります。今回の作品については、自分から土居さんへの一方的なラブレターというか、「こういうよねが見たい」という気持ちで脚本を書いたところが大きいです。

――具体的に、どんなよねが見たいと思ったのですか?

本編『虎に翼』でのよねは、寅子との対比として、自分自身を曲げないし、折れないし、間違わない、みたいな人として描きました。でも、そんな人は絶対に実在しないし、よねも折れそうになったことがあるはずだと。でも、メソメソしたり、落ち込んだりするよねは、あまり見たくなかったから、折れそうになる時でも、怒りをガソリンに燃え上がる、スピードが加速していくよねを意識して書きました。

  • 『虎に翼』で主人公・寅子を演じた伊藤沙莉

    『虎に翼』で主人公・寅子を演じた伊藤沙莉

「正しく怒る」「正しく不機嫌になる」とは

――今回、「正しく怒る」「正しく不機嫌になる」というのがキーワードとなっていますが、あの台詞に込めた思いとは?

それは、『虎に翼』本編にも共通しているテーマですが、怒って声を上げることが、なぜかネガティブに取られ、「感情的だ」とか「怒ったらもう負け」みたいな謎の理屈が、世の中でまかり通っている気がしています。そうではなくて、怒ることの大事さや、なぜその人が怒るのか?という歴史的構造もちゃんと理解しないといけないんじゃないかと私は思っています。

実際に人によっては、「怒る」というワードから、人に対して不機嫌を撒き散らすとか、理不尽に高いところから怒り、誰かを踏みつけるみたいなことを想像するケースもあります。でも、『虎に翼』においての「怒る」は、人を傷つけるための道具ではなく、声を上げて社会を変えたり、誰かを守るために使ったりする意味なので、今回そこがより深く伝わるように「正しく怒る」としました。

――今回、土居さんの演技を見て驚いた点はありますか?

よねが、「自分は怒りたくて怒っているんじゃない」と感情的になるシーンはシナリオでも書きましたが、そこがどう描かれるのか、梛川善郎監督がどう撮るのかと楽しみにしていました。それはただの怒りだけではなく、号泣するシーンに等しいとも思っていたので。そしたらいろんな感情があふれた土居さんのお芝居が素晴らしくて。まさによねの感情が爆発していて、より深みがあるシーンになっていて、すごく良かったです。

土居志央梨の魅力「作品に対してとても誠実」

『虎に翼』『山田轟法律事務所』の脚本を手掛けた吉田恵里香氏

『虎に翼』『山田轟法律事務所』の脚本を手掛けた吉田恵里香氏

――これまで『虎に翼』を執筆する際に、土居さんの演技を見て、脚本に反映したこともあったのでしょうか?

当初のよねは、もう少し冷たい人、体温が低そうなイメージでした。でも、映像を見せてもらった時、最初からすごく熱があるなと感じ、はいつくばり、歯を食いしばって生きてきたよねの泥臭さがすごく出ているなと思い、その後、土居さんからすごく影響を受けたと思います。寅子との別れのシーンで、土居さんが途中で涙をこらえきれずに流されたのを見て、すごくいいなと思いました。また、脚本に涙を流すというところをゴールに書いてはいけないんだなと気付かされたし、土居さんにすごく感謝したシーンです。土居さんが、よねとして怒りのフルスロットルをずっとやってくれたからこそ、今回のスピンオフはできたのかなとも思っています。

――改めて土居さんの魅力についてお聞かせください。

土居さんは、すごく作品に寄り添ってくれる人。『虎に翼』に限らず、様々な作品に出演されていますが、本当に作品に対してとても誠実な人だなとは思っています。だからこそ、その誠実さとよねの親和性がすごく高い。よねを演じるのは、しんどいと思うのですが、土居さんはすごくポジティブに向き合ってくださいました。

――今回、よねが主人公として描かれたことで、よねの見え方は変わりましたか?

改めてよねは、自分ではそんなに動けない人だなと思いました。私が書いているのに変な話ですが、寅ちゃんと出会えて、この人は良かったんだという謎の気づきがありました。寅子だけがよねの恩恵にあずかり寄りかかっていたわけではなく、実は寅子に対して、よねも寄りかかっている部分がたくさんあったと気づけたんです。無意識には分かっていたけれど、それをちゃんと言語化できて、2人の関係がより自分の中でキラキラしたものになりました。

「自分の作家としての姿勢は間違ってなかった」と実感

――2027年には『虎に翼』の映画も公開されます。ここまで作品が大きくなったことに対しての戸惑いや驚きはありましたか?

戸惑いはないのですが、驚きみたいなのはあります。反響があってもちろん嬉しいのですが、そもそも私の中で、脚本家としての目標が朝ドラを書くことだったから、それがやれたのがウルトラビッグなことでした。すべてにおいて誠実に向き合っていたら、こんな嬉しいことがいっぱい起こるんだなと。今ここまで来れたから、自分の作家としての姿勢は間違ってなかったとすごく感じています。

――最後にこれから本作を見る方々へメッセージをお願いします。

『虎に翼』の放送が終わって約2年、作品自体が誰かに支持され続けないと、スピンオフは作られないから、本当に応援してくれた方々には感謝しかないです。つらいことがたくさんある世の中で、平和や平等などの価値観がだんだん遠のいていく世の中だからこそ、今抗ったり踏ん張ったりしなきゃいけない時だなとも思っています。

もちろんドラマを面白く楽しんでもらうことが大前提ですが、私自身はエンタメでできる力を信じているから、今しんどい思いをしている人に寄り添えたり、何か声を上げたりする力になれたらいいなとも思っています。

(C)NHK