神奈川県横須賀市・走水では、海の自然や地域資源を活かした体験プログラム「海とミライのがっこう」が行われている。漁師でありレストラン「かねよ食堂」を営む金澤等さん(愛称:ジョンさん)と、地域のメンバーやNTT東日本 地域循環型ミライ研究所の社員らが協力して運営する取り組みだ。
3月8日には、そのプログラムの一つとして「海のめぐみを育てよう! ~獲れたてのワカメを味わおう2026~」が開催された。参加者は、わかめの生態について学ぶ時間や浜辺での自然観察、収穫したわかめを使った調理体験などを通じて、海の恵みや自然の仕組みに触れた。
「学び、収穫し、食べる」わかめ体験イベント
イベントは、わかめについて学ぶプログラムから始まった。ジョンさんが絵本に描かれた海藻を使ったクイズを通して、わかめや昆布、アカモクなど海藻の違いについて分かりやすく解説した。
また、わかめの成長についても紹介された。ジョンさんによると、わかめは特に2月から3月にかけて成長が早く、1日に2〜3センチ、10日で20センチほど伸びることもあるという。
「この時期は成長が早いので、収穫のタイミングがとても大事なんです。わかめは一度硬くなると、また柔らかくなることはありません。今日がベストの状態で、来週になるともう硬くなってしまう。だからこの時期は漁師もタイミングを見ながら収穫しています」(ジョンさん)
ほかにも、天草を原材料とした“ところてん”と寒天の違いなどの説明があり、身近な食材と海の環境について学んだ。
絵本講座の後、ジョンさんが海へ向かう準備をしている間、参加者たちは近くの浜辺に出て海岸を観察する時間を過ごした。浜辺には打ち上げられた海藻や貝殻、イカの骨などが落ちており、子どもたちはそれらを見つけては「こんなのが落ちてた!」「ジョンさんに見せよう!」と声を上げながら、興味深そうに浜辺を歩き回っていた。
その後、ジョンさんは船で海へ向かいわかめの収穫へ。ビデオ通話を通じて海上の様子が会場のモニターに映し出された。
当初は参加者が船に乗ることを想定していたが、海の状況により実施が難しくなり、NTT東日本のメンバーとジョンさんを含む「海とミライのがっこう」のメンバーが相談し、急きょこの形で実施することになった。
海上では、ジョンさんが養殖用のいかだからわかめを引き上げ、収穫の様子を紹介した。画面越しでも伝わる迫力に、子どもたちは前のめりになって収穫の様子を見つめていた
収穫されたわかめは会場に持ち帰られ、子どもたちは手に取ったわかめを触りながら、「ヌルヌルしてる」「こっちはゴワゴワしてる」と感触の違いを確かめた。わかめの間に小さな生き物が隠れていることもあり、興味深そうに観察していた。
続いて、包丁を使った収穫体験にも挑戦。参加者は自分のお気に入りの一本を選び、根元からわかめを切り取っていく。ジョンさんは「ゴワゴワしている部分は汚れがつきやすいので、そこから先を切ると残りは全部食べられる。もっと早い時期だと、実は根っこも食べられるんです」と説明しながら、わかめの処理方法を紹介した。
さらに、収穫したわかめを使いその場で調理も行われた。茶色のわかめを熱湯にくぐらせると、一瞬で鮮やかな緑色に変わる。その様子を見た子どもたちからは「色が変わった!」と驚きの声が上がっていた。
参加した保護者からは、「食育という面だけでなく、環境保全についても興味を持つきっかけになればと思って参加しました」といった声が聞かれた。また、過去に行われたプログラム「わかめの種付け体験」から参加している家族もおり、「種付けから収穫まで、つながりを持たせて体験させたかった」と話す参加者もいた。
子どもたちからも「調理体験が楽しかった」「全部楽しかった!」といった感想が聞かれ、体験を通じて海の食や環境など自然への理解を深めていた。
NTT東日本と地域が生んだ「海とミライのがっこう」
「海とミライのがっこう」は、走水の自然や文化を活かした体験プログラムとして2022年に始まった。NTT東日本の社員研修「越境学習」をきっかけに、地域の事業者やメンバーとともに地域の課題を探る中で生まれた取り組みだ。現在は週に1回ほどメンバーが集まって企画会議を行い、月に1度のペースで体験プログラムを実施している。NTT東日本はプログラムの企画や運営、情報発信などの面で活動を支援している。
-

わかめ収穫体験を運営した、海とミライのがっこうのメンバー。左から、NTT東日本 神奈川事業部の水谷次郎氏、ボランティアで参加する宮川穂乃香さん、海とミライのがっこうを運営する藤澤寛子さん、金澤等さん(ジョンさん)、NTT東日本 デジタルコンサルティング部の伊勢徹氏
活動の背景には、地域の小学校の廃校という課題もあった。地域と企業が連携して地域の課題を探る中で、学校がなくなることで地域における「学び」の機会が失われてしまうのではないかという声が上がったという。そこで、この地域の自然環境そのものを学びの場として活用できないかという発想から、校舎をもたない学校として「海とミライのがっこう」の取り組みが生まれた。
現在、プログラムでは漁業体験やビーチコーミングなど、子どもから大人まで参加できる体験が行われている。
「子どもたちが10年後に振り返った時に、記憶に残る時間だったかどうかが大事だと思っています。大人になった時に『あの時、海でわかめを取ったな』と思い出すような、生きた体験を通じて、考えさせられる・気づきのある取り組みができたらいいなと思っています」(ジョンさん)
活動には地域のメンバーも関わっている。情報発信などの面でプロジェクトを支えている藤澤寛子さんは、「子どもだけでなく大人にも参加してもらいながら、走水という場所を知ってもらうきっかけを作りたいと思っています。こうした体験を通じて、いろいろな人がこの地域を訪れるようになればうれしいです」と話す。
また、帝京科学大学 生命環境学部 アニマルサイエンス学科の宮川穂乃香さんも活動に関わるメンバーの一人だ。ジョンさんが募集していた大学生インターンとして、廃校となる可能性のあった小学校の活用案を考える取り組みに参加したことがきっかけで、この活動に関わるようになったという。現在はボランティアとしてプログラムの運営を手伝っている。このように「海とミライのがっこう」は、地域のメンバーや学生など、さまざまな立場の人が関わりながら、活動の輪を少しずつ広げている。
NTT東日本 地域循環型ミライ研究所 エバンジェリストの原田拓哉氏は、プロジェクトの背景について次のように説明する。
「NTT東日本では『地域循環型社会の共創』をパーパスとして掲げています。地域循環型ミライ研究所では、地域の文化や自然、食といった資源に着目し、それらを活かして社会的価値と経済的価値を循環させていく『ローカル・ループ』という考え方を研究しています」(原田氏)
NTTによる社員研修「越境学習」をきっかけに始まった本取り組みは、学習期間を過ぎた現在も、社員の自主的な活動制度「スクラム活動」を通じて継続されている。
「地域の魅力を磨き、発信することで交流人口や関係人口が生まれます。人の循環が地域の経済や文化の持続につながる。そうしたモデルを作っていきたいと考えています」(原田氏)
今回のわかめ収穫体験でも、参加者は収穫から調理までの工程を体験しながら、海の恵みや自然の仕組みに触れていた。走水の自然を起点に、NTT東日本や地域のメンバー、学生など多様な立場の人が関わりながら、活動の輪は少しずつ広がっている。






