なぜ老舗文具店は、畑違いの「ホテル経営」に乗り出したのか? 九州教具グループが実践した「捨てる勇気」
株式会社ジャパンエフエムネットワークが制作する全国JFN系列22局ネットで放送中のラジオ番組「となりのカイシャに聞いてみた!supported by オリックスグループ」。意外とあなたの近くにある、地元で活躍するカイシャ。「そこに辿り着くまでの話」や「事業への想い」など、明日へのヒントになる話から、地域のお気に入りスポットまで、地域に密着してお届けする企業応援ビジネスバラエティプログラムです。パーソナリティは小堺翔太が務めます。今回は、エフエム長崎で放送中の「Sunrise Station」のパーソナリティ・芳野裕美がパートナーを担当。

3月7日(土)の放送では、九州教具グループ 代表の船橋修一さんをゲストにお招きして、経営の転換点や、ビジネスシーンにおけるバックキャスティングの活用について話を伺いました。

(左から)パーソナリティの小堺翔太、九州教具グループ 代表 船橋修一さん、アシスタントの芳野裕美(エフエム長崎)

◆企業のはじまりは募金運動だった

九州教具グループは、町の文具店としてスタートした企業です。時代の変化や地域の課題に向き合いながら事業を展開し、現在はオフィス空間の改善をはじめ、ホテル経営やおいしい水の提供など、多角的な取り組みをおこなっています。

その原点は、1946年、戦後間もない時期にさかのぼります。長崎県大村市で「本田文具店」という小さな町の文具店として創業しました。創業者は船橋さんの義理の叔父にあたる人物で、もともとは学校の校長を務めていた教育者でした。戦時中は一家で朝鮮に渡り、日本人向けの国民学校の校長を務めていましたが、敗戦後に引き揚げ、大村市へ疎開し、文具店を始めたといいます。

当時の長崎や大村市は激しい空襲を受け、引き揚げ者が教職に戻る道はほとんど残されていませんでした。そうした状況のなかでも、創業者は文具や教材を扱うことで、教育の現場に近い仕事を続けたいと考えていたのでしょう。単なる文具店にとどまらず、盲学校や点字図書館との関わりをきっかけに、点字図書館の建設という社会的な課題にも取り組んでいきます。

その資金を集めるために、会社は株式会社化され、九州教具株式会社が設立されました。そして始まったのが「愛の鉛筆運動」です。5円の鉛筆を販売し、そのうち2円を点字図書館の建設資金に充てる取り組みで、全国に展開。「岩手県をはじめ、7ヵ所で点字図書館を作りました。それが我が社の成り立ちです」と船橋さんは説明します。

◆文具店からビジネスホテル業に方向転換した理由は?

船橋さんが入社した当時、会社はまだ文具・教材店としての色合いが強く、軽トラックで商品を配達する行商が主な業務でした。しかし、社会は大きく変化していきます。文具や教材が中心だった時代は過ぎ、機械化が進み、やがてコンピューターの時代へと移り変わっていきました。「業態を変えたいとは思っていましたが、簡単なことではありませんでした」と船橋さんは振り返ります。

そこで同社が選んだのが、まったく異なる業種への挑戦でした。他社のノウハウに頼らず、自分たちの力で課題解決の経験を積む。そのために選んだのが「ビジネスホテル事業」です。

背景には、船橋さん自身の体験があります。1990年代前半、まだ携帯電話やノートパソコンを持ち歩く人が少なかった頃から、それらを仕事道具として使っていた船橋さん。当時のホテルでは電源が不足しており、延長コードや三又プラグを持ち歩くのが当たり前でした。「ホテルが用意してくれたらいいのに」という実感が、「自分たちでやろう」という決断につながりました。

◆「バックキャスティング」で企業の在り方を見直す

ビジネスホテルという、これまでとは異なる業種への挑戦。社内から戸惑いの声は当然上がります。その判断の軸にあったのが、大学時代にアメリカで学んだ「バックキャスティング」という考え方でした。理想の将来像を描き、そこから逆算して「今、何を選び、何を捨てるのか」を考える思考法です。

インターネットが登場し、OA化や電子化が進み始めた当時、船橋さんは「文房具は将来、インターネットで買うものになる」と予測しました。そこで、あえて文房具中心の事業から距離を取り、ホテル事業へと舵を切ります。ホテル予約もいずれネットが主流になると見据え、「ITに順応できなければ成り立たないサービス業」だと考えたからでした。

この決断は、社内にとって容易なものではありませんでした。売上の大部分を占めていた事業を手放すことへの不安は大きく、「考えられない」という声もあったといいます。それでも船橋さんは、「文房具が不要になるわけではなく、手に入れる手段が変わるだけだ」と捉えていました。自動化や高度化が進む社会において、事務機器やコンピューターへの需要が高まるのは必然だったのです。

一方で、ホテルやオフィス分野へ展開しながらも、ICT教育に再び力を入れている点は象徴的です。その背景には、「創業者が教育者だった」という原点があります。教育の重要性を強く意識するようになったのは、アメリカ留学時の授業体験でした。

講義で教師から投げかけられたのは、「君はなぜこの問題を解いているんだ?」という問いでした。「解けと言われたから」と答えたのは船橋さんだけで、以降の授業でも繰り返されたのは「なぜ?」という問いかけだったといいます。この体験を通じて、「答えではなく理由を考える。それがバックキャスティングなのだ」と気づきました。

「我々人間は何をすべきかというと、“なぜこれをやるのか”を考えなきゃいけないと思うんです」と船橋さんは語ります。その考え方は、事業の転換にも、教育への取り組みにも一貫して流れています。九州教具グループの歩みは、常にその問いとともにありました。

「となりのカイシャに聞いてみた!supported byオリックスグループ」では、番組公式Instagramもスタートしています。

<番組情報>

番組名:となりのカイシャに聞いてみた!supported by オリックスグループ

パーソナリティ:小堺翔太

番組サイト:https://audee.jp/program/show/300006289