芸能人を名乗る不審なメールや、SNS上の“なりすましアカウント”。俳優の新川優愛が先月3日、Xで「某男性有名アイドルの方からメールがきました。“ダンスの練習中に身体を痛めてしまった”とのことです。私はその方とほとんどお会いしたことがありませんし、ましてメールアドレスを交換したことは一度もありません。皆さまもお気をつけください」と注意喚起した事例は大きな話題となったが、こうした行為はどこまでが犯罪にあたるのだろうか。
アディーレ法律事務所の正木裕美弁護士によれば、不正アクセス禁止法違反や著作権法違反、さらには詐欺罪・恐喝罪に発展する可能性もあるという。また、受信者側が開封・返信・拡散してしまった場合にも、思わぬリスクが生じることも。なりすましメールや偽アカウントの法的責任、そして被害を防ぐために今すぐ取るべき対処法とは。正木弁護士が具体的に解説する。
「なりすましメール」を送信・受信するリスク
――芸能人や企業を名乗る「なりすましメール」を送信する行為は、それだけで罪に問われますか? また、新川さんのように受信した場合、開封や返信をすることでどのような法的・実務的リスクが生じますか?
単に芸能人や企業になりすますメールを送信するというだけでは直ちには犯罪にはなりません。しかし、宣伝・広告目的で送信者を偽った迷惑メールを送ることは特定電子メール法で禁止されています。また、なりすましてIDやパスワードを不正取得するために入力するよう求めるフィッシングメールを送ることは不正アクセス禁止法違反にもなりえます。
受信したメールを開封することはリスクが高いので絶対に避けるべきです。なぜなら、ファイルが添付されている場合、開封するとパソコンがウイルスに感染してデータを抜き取られるなどの被害に遭うおそれがあります。他にも、メールに記載されたリンクをクリックしたり返信をしたりすると、実在して稼働しているメールアドレスだと犯人に知らせてしまったり、フィッシングサイトに誘導されたりする危険性もあります。このような方法で盗み取られた情報を使ったクレジットカード不正利用や金融機関の不正送金被害などのトラブルに巻き込まれるリスクも高まります。
大前提として、電子メールの送信者やリンクの表示は、一見すると正常なもののように偽装することができ、見かけ上の情報から偽物かどうかをすぐに判断することは難しいので、知らない人や知らない企業からのメールは絶対に開封しない、知っている企業等を名乗るメールでもリンクや添付ファイル等のクリックはせず、記載された電話に連絡やメールにも返信せず、自分でブックマークしたURLから公式HPへ飛ぶことや公式アプリからアクセスすることを心がけましょう。
悪質な「なりすましSNSアカウント」の法的責任
――承諾なく他人の名前や写真を使ってSNS投稿を行う行為は、名誉毀損やプライバシー侵害以外に、どのような罪に問われる可能性がありますか?
まず、どのような方法でなりすましたのかという点を考えると、他人の名前を使ったなりすましアカウントを勝手に作った場合はそのSNSの規約違反になるのが一般的ですが、直ちに犯罪にはなりません。しかし、不正に入手した他人のIDやパスワードを利用してログインし、他人のアカウントを乗っ取ってなりすまし行為を行うことは、ログイン時点で不正アクセス禁止法違反(不正アクセス罪)となり、3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
また、なりすましアカウントでは写真が無断利用されてしまうことが多いですが、人には「肖像権」という「承諾なくみだりに容姿を撮影または公表されない権利」があるので、他人の写真を勝手に利用することは肖像権侵害として違法であり、損害賠償責任を負います。さらに、写真には著作権がありますから、著作権侵害として10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金又はその両方が科せられるほか、損害賠償責任を負う可能性もあります。
「金銭の要求」や「情報の搾取」があった場合
――なりすましによって金銭を要求したり、個人情報を聞き出そうとしたりした場合、どの段階で「詐欺罪」や「恐喝罪」が成立しますか?
まず、詐欺罪は、騙された被害者が勘違いをし、その結果、被害者が金品を渡してしまうことで成立する犯罪。恐喝罪は、暴行や脅迫により、怖がった被害者が金品を渡すことで成立する犯罪です。金品を渡した時点で犯罪が成立しますが、それ以前の段階であっても犯罪には着手したと評価されて、未遂として処罰されることがあります。なお、いずれも金品を渡させることがポイントの犯罪なので、単に個人情報を盗むためだけになりすましメールを送ることは、いずれにも該当しません。
恐喝の場合は、金品を渡させるための脅しを含むメールをした時点で、犯罪の着手があったとされる可能性があります。詐欺罪の場合は、様々なウソをついて被害者を騙して最終的に金品をだまし取るわけですが、犯罪の着手があったと評価されうるのは、金品を渡させることに向けたウソで、金品を渡してしまう客観的な現実的危険性が生じる段階や内容のウソと考えられます。今回、新川さんが受け取ったメールでは、某男性有名アイドルをかたってダンスの練習中に体を痛めてしまった旨記載があったようです。事案や状況によって結論は変わり得るものの、単に自分が有名人だとなりすますウソだけであれば、詐欺の準備とはいえるものの、犯罪に着手したとはされにくいでしょう。しかし、体を痛めてしまったからお金が必要だという内容だとすれば、犯罪の着手があったと認められやすくなります。
安易な「拡散」も加害者に?
――「なりすまし」と知らずに、あるいは面白がって、その投稿を拡散した場合、拡散した側も法的責任を問われることはありますか?
過去の裁判例で、リツイート(リポスト)は「元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為」とされ、名誉毀損する内容の投稿をリツイートした人に対して損害賠償が認められたものがあります。また、なりすましアカウントが名誉毀損になるデマを流しており、それを拡散してしまうと、元の投稿者と同じように違法と評価されてしまうおそれがあります。他にも、無断転載された写真をリツイートした結果、本来の著作権者が表示していた作者名がトリミング表示により自動的に切除されてしまった事案では、リツイートした人に著作権法違反が認められました。
SNSの拡散は簡単にできてしまい、あまり考えずに行ってしまうことも多いと思いますが、法的責任を問われてしまうリスクをはらんでいます。なりすましアカウントや詐欺等違法行為のために運用されているアカウントは珍しいものではないので、信頼出来る投稿主や内容か都度確認するくせをつけ、安易に拡散してしまわないよう注意しましょう。
なりすましを発見・受信した時の正解は?
――自分がなりすましの被害に遭った、あるいは怪しいメールを受信した際、証拠保全や法的措置(発信者情報開示請求など)のために、最初にすべきことは何でしょうか?
なりすまし被害の捜査や裁判を行うには証拠が非常に重要です。メールそのものを消さない、件名・送信元・受信先・送信日時・IPアドレス等メールヘッダ情報を全て表示させ、ヘッダ情報を含むメール全体をPDFやスクリーンショットで保存しておきましょう。また、SNSでのなりすましの場合は、アカウント名・URL・投稿日時・内容・コメントなど、なりすましに関するもの全てが表示されるようにPDFやスクリーンショットで記録を残しておきましょう。同時に早期に関係者への注意喚起を行い、被害拡大を防ぐことも大切です。
ただし、ネットにまつわる記録は時間制限があるなどスピード感のある対応が求められる上、投稿者特定のためによく使われる発信者情報開示請求は、ネット上の不特定に向けた書き込み等が対象で、1対1のメールやDM等は対象外とされています。そのため、民事での対応が困難な場合があるので、犯罪被害に該当する場合は早急に警察に告訴を行うほか、弁護士などの専門家に対応を相談しましょう。
■アディーレ法律事務所 正木裕美 弁護士
一児のシングルマザーとしての経験を活かし、不倫問題やDV、離婚などの男女問題に精通。TVでのコメンテーターや法律解説などのメディア出演歴も豊富。コメンテーターとして、難しい法律もわかりやすく、的確に解説することに定評がある。

