住信SBIネット銀行は2月26日、AIを使って銀行アプリの使い勝手を刷新する「ジェネレーティブUI」を実装した「NEOBANK ai」サービスのベータテストを開始した。2025年12月の発表以来、数万人の応募があり、その中から数千人規模のテスターを選出して順次ベータテストを進めていく。

  • ベータテストがスタートするNEOBANK ai

    ベータテストがスタートするNEOBANK ai

「NEOBANK ai」は生成AIのエージェントを通じて一部の銀行サービスを自然言語で実行できるサービスで、ユーザーが自然言語による指令をすると、AIエージェントが送金などの実行直前まで準備を整えて、最後に実行を指示するだけで操作が完了する。

これまでの、リンクを辿って機能を探してていくという従来の複雑な動線を改善し、より使いやすいUIの実現を目指した。今後はベータテスターからの声を集め、正式サービスに向けた検討を行っていく方針だ。

  • NEOBANK aiの詳細を説明した(左から)同社執行役員の半田英二氏、UXデザイン部 サービスデザイングループ吉岡翼氏、  UXデザイン部 クリエイティブイノベーションG UXデザインエンジニア田村義希氏、UXデザイン部長関衛介氏

    NEOBANK aiの詳細を説明した(左から)同社執行役員の半田英二氏、UXデザイン部 サービスデザイングループ吉岡翼氏、 UXデザイン部 クリエイティブイノベーションG UXデザインエンジニア田村義希氏、UXデザイン部長関衛介氏

生成AIが銀行取引を行うジェネレーティブUI

現在の住信SBIネット銀行のアプリでは、トップ画面によく利用される機能を中心としたアイコンが配置され、ユーザーが自分のしたいことを探して選んでいく形だ。同社の執行役員である半田英二氏が「UIの陣取り合戦」と指摘する通り、最もよく使われる機能を前面に配置するが、逆にあまり使われない機能は階層の奥深くに配置されてしまい、いざ使おうとすると見つけにくくなってしまうという弊害があった。

  • 動線を探すのではなく、やりたいことを言うとその機能が実行できるジェネレーティブUIを実現

    動線を探すのではなく、やりたいことを言うとその機能が実行できるジェネレーティブUIを実現

こうした課題に対してNEOBANK aiでは、テキストだけでなく音声でもやりたいことを話しかけるなど、自然言語での指令に対して生成AIが意図を理解し、目的に沿った機能を直接提供することを目指した。今回対応しているのは、「振込」「残高照会」「入出金明細」などの操作。関連する操作として、振込結果の照会や組戻、入金確認といった機能を音声でも操作できる。

  • 振込サポート機能では、あらかじめ登録した宛先に対して自然言語で振込指示ができる。送りたい、送金したいといった異なる言葉でも生成AIが認識できればその機能が実行できる

    振込サポート機能では、あらかじめ登録した宛先に対して自然言語で振込指示ができる。送りたい、送金したいといった異なる言葉でも生成AIが認識できればその機能が実行できる

振込機能では「○○さんに1000円を振り込んで」と話しかけると、AIが事前に登録した振り込み先から「○○」の名前を検索して提示し、振込金額を入力した状態でそのまま送金直前の画面を表示する。「送金しますか?」とエージェントから問われるので、「はい」と答えれば送金が実行される。

LLMなので、言葉は「振り込んで」だけでなく「送って」「送金して」といった近い言葉でも解釈して対応してくれる。事前に送金先の登録は必要だが、指示する際には名字だけでもいいし、名前だけでも検索できる。メモ欄にニックネームなどを登録しておけば、それも検索してくれる。

例えば子どもの口座に振り込む、自分の別の銀行口座に振り替えるときなど、頻繁に行う振込などでは特に便利そうだ。登録されていれば、「○○と△△に1000円ずつ」といった言い方もできるそうだ。なお、音声入力はiOS、Androidのいずれも可能で、iOSのみ音声読み上げにも対応する。

「画像から振込」機能も実装されている。これは、請求書などの写真を送信することで、宛先や金額をAIが読み取り、振込操作を提案してくれるという仕組み。斜めに写った写真でも認識可能で、「これで振り込んで」といった簡単な指示でもAIが認識して画像を読み取り、送金画面を表示する。こちらもあらかじめ送金先の登録は必要だ。

  • 画像から振込機能。請求書などを写真に撮ったりデータをキャプチャして送信すれば、その内容に応じて宛先、金額を検出して振込をしてくれる

    画像から振込機能。請求書などを写真に撮ったりデータをキャプチャして送信すれば、その内容に応じて宛先、金額を検出して振込をしてくれる

明細情報から家計診断をしてくれる機能も搭載。生成AIによって高度な分析が可能で、「家計診断をして」などの言葉だけでデビットカードの利用履歴などを収集し、グラフ化するなど見やすく分かりやすい表示にしてくれる。外食やコンビニ、スーパーなどのカテゴリは生成AIが分析して自動で分類。昨年同月との比較や直近4カ月の推移といった利用状況の確認ができる。「今月は使いすぎ?」のような問いかけでも前月との比較を回答してくれる。

  • デビットカードなどの明細情報から家計診断ができる。外食などのカテゴリーを生成AIが認識してまとめてくれる。過去との比較も可能

    デビットカードなどの明細情報から家計診断ができる。外食などのカテゴリーを生成AIが認識してまとめてくれる。過去との比較も可能

「残高を教えて」で全資産の残高照会もできるほか、「直近の振込結果を見せて」と尋ねれば過去の履歴を確認できる。万が一振込先を誤っていた場合も「振込を間違えた」などと言えば、組戻依頼を行える。割り勘などで複数の人から送金を受け取る場面では、レシートの写真を撮って「割り勘を確認して」などと言うと、その割り勘に近い送金結果から、全員から送金されているかをチェックできる機能も搭載されている。

  • 階層深くにある、普段は使わない機能も生成AIが実行してくれる

    階層深くにある、普段は使わない機能も生成AIが実行してくれる

これらの言葉はすべて生成AIが認識して文脈から意図をくみ取るため、一字一句同じ言葉である必要はなく、特別なキーワードが含まれている必要もない。音声や画像も認識するマルチモーダル対応のため、将来的な機能拡張の余地も大きいだろう。

ただし、AIエージェントが実行してくれる機能はまだ少なく、それ以外の機能は、ナビゲーション機能で補完する。100以上に及ぶほぼ全ての銀行取引に対応しており、やりたいことを伝えると、該当する手続き画面へのリンクを表示する。同社では「地味だけど重要な機能」としており、「住所変更」のようなめったに使わず、階層深くに配置されがちな機能も、「住所を変更したい」などと言えば、すぐにアクセスできるため利便性が向上するとしている。

  • 直接、その機能を提供するページにアクセスできるナビゲーション機能を提供。100以上のほぼ全ての銀行機能へ案内できる

    直接、その機能を提供するページにアクセスできるナビゲーション機能を提供。100以上のほぼ全ての銀行機能へ案内できる

同様のチャットボット形式のヘルプ機能は多くの事業者が実装しているが、NEOBANK aiでは、回答や説明を返すだけでなく実際の取引に直接アクセスできるようになっている。LLMを活用して適切な答えが返るようになって降り、社内テストでも2カ月ほどの間におかしな回答が返ってくることはなかったそうだ。

  • 2月26日時点でジェネレーティブUIとして開放されている機能

    2月26日時点でジェネレーティブUIとして開放されている機能

なお、NEOBANK aiを利用するためには「スマート認証NEO」でのログインが必要で、ブラウザ経由ではなく銀行アプリでの利用が前提となっている。

Googleの検索窓のようなシンプルなUIに?

この生成AIによるジェネレーティブUIの開発は1年ほど前から始まったという。当初は外部のシステムベンダーやパートナーとの協業も検討したが、コスト面で折り合いが付かず、自社開発へと方針を転換した。社内でデザインとエンジニアリングに長けた人材が育ってきたこともあり、5~6人の少人数でスタートした。

  • NEOBANK aiのデモで、音声によって送金をしようとしているところ

    NEOBANK aiのデモで、音声によって送金をしようとしているところ

  • それに対してAIエージェントが登録済みの送金先をピックアップしてくれた。このあとも、音声で「はい」などと応えれば実際の振込が実行される

    それに対してAIエージェントが登録済みの送金先をピックアップしてくれた。このあとも、音声で「はい」などと応えれば実際の振込が実行される

もともと住信SBIネット銀行は、BaaSの提供にあたって様々な機能をAPI化してきた。これがNEOBANK aiでも活用され、個別の機能を生成AIで制御できる仕組みが実現できた。

サービスの全体像は2025年4月ごろに固まり、そこから機能を絞る形で作り込みを行ってきた。「住信SBIネット銀行のアプリはUI・UXが優れていると言われてきたが、満足はしていなかった」と半田氏。多くの機能があるため、どうしてもメニューの奥深くに埋もれる機能が出てくるため、UIデザインのパラダイムシフトが不可欠だと判断した結果、生まれたのがこのNEOBANK aiだ。

  • 内製での開発を行ってきた。銀行APIを検証し、AIが実際にAPI経由で動作するかを確認。実際の開発に至った

    内製での開発を行ってきた。銀行APIを検証し、AIが実際にAPI経由で動作するかを確認。実際の開発に至った

NEOBANK aiについて半田氏は、「新しいUIと捉えているが、ある意味"デザイナー殺し"」だと指摘。これまでデザイナーが設計してきた階層構造やメニューのナビゲーションが、生成AIによってすべてフラットになって、ユーザーはやりたいことから機能を探せようになるというわけだ。

初期構想を経営陣に紹介したところ、「Googleのトップ画面のように検索窓だけにする」という意見もあったという。さすがにそこまでの大きな変更はできなかったというが、最終的にNEOBANK aiがホーム画面になるUIの可能性もあるとしている。

まずはベータテストを開始することでユーザーの使い方、フィードバックをもらいながら整理し、今後の開発に繋げていく方針。NTTドコモグループ入りしたこともあり、dポイントやd払いのアプリ上でもエージェントAI経由で銀行取引できるような機能も想定する。

将来的には、生成AIのサービスの1つとして、「ChatGPTから直接振込」のような可能性もありえるだろう。エージェントAIが買い物などを代行するエージェンティックコマースの時代においては、銀行のエージェントAIとの連携も考えられるかもしれない。

  • 当初は自社アプリからスタートし、今後他のアプリにも組み込むことで、その中に溶け込むようなバンキングを実現したい考え。将来的にはOSへの組み込みにも期待する

    当初は自社アプリからスタートし、今後他のアプリにも組み込むことで、その中に溶け込むようなバンキングを実現したい考え。将来的にはOSへの組み込みにも期待する

なお、「d NEOBANK ai」ではなく「NEOBANK ai」という名称になったのは、BaaSを提供する各社にも提供する可能性を想定しているからで、現状は住信SBIネット銀行アプリのみが対象だが、将来的にはこうしたBaaSへの開放も検討するそうだ。