
968ほど見すごされているポルシェもめずらしい。トランスアクスルモデルの最後のバージョンだけに、驚くほど出来のよいドライバーズカーで、新車当時はハンドリングで911を上回るとの呼び声も高かった。ところが販売数は振るわず、軽量なクラブスポーツは、かなり安あがりの走行会用モデルとしてしばらく重宝されていたが、今では状態のよいものが本格的なコレクタブルカーの地位を手に入れた。
【画像】もはや「安あがりのポルシェ」ではない?価格がじわじわ上昇中のポルシェ968
ルーツをたどると、1976年924に行きつく。4気筒トランスアクスルモデルの3番目として登場したのが968だった。このシリーズは、ほぼ50:50の重量配分を実現するため、水冷式エンジンをフロントに、ギアボックスをリアに搭載していた。924が944に進化するとパワーアップし、開発も進んだ944は金で買える車の中で最高のハンドリングだと、たちまち評判を呼んだ。販売台数は世界で16万3192台に上り、ポルシェにとっても大ヒット作となった。
944のS3バージョンを開発するうち、ポルシェのエンジニアは、実質的にほぼ完全な新車を生み出した。83%のパーツをアップデートしたとされている。そこで、上層部は新モデルとして発売することにした。
924と944がアウディのネッカーズルム工場で生産されたのに対し、968の生産はポルシェのツッフェンハウゼン工場で行われた。標準のクーペとカブリオレは、1991年8月に発売される。3リッター16バルブ、DOHCの総アロイ製4気筒エンジンは、944 S2のエンジンと似ていたが、可変バルブタイミングのバリオカムと、モトロニックのエンジンマネージメントで、出力は208bhpから237bhpに向上していた。外観はより丸みを帯び、928風のヘッドライトと、全面が赤いテールライトが特徴だった。
1992年10月に、軽量バージョンのクラブスポーツ(CS)が登場する。出力に変更はなかったが、防音材の省略、手動ウィンドウ、リアシートの省略、フロントに軽量型レカロ製バケットシートなど、大幅なダイエットを行って、約80kg軽量だった。また、サスペンションのセットアップも20mm低く、標準より大きい17インチホイールと大径のブレーキ、太いタイヤを履き、サーキット走行に適した装備だった。
今ならポルシェは、こうしたモデルの価格を間違いなく高く設定するだろうが、CSは装備が減っているという理由で、なんと標準仕様より低い価格だった。生産終了が近づいた頃、イギリス専用に968スポーツが加わった。これは電動ウィンドウ、集中ドアロック、リアベンチ、快適なシートを装備し、今でもコストパフォーマンスの高いモデルだ。
標準の自然吸気エンジンもパンチがあったので、トップスペックのターボモデルは実際には必要ではなかった。しかし、ポルシェは1993年にレース仕様の968ターボRSを出す計画で、ホモロゲーションを取得する必要があったため、公道向けに100台限定でターボSを発売した。ターボSはCSと比べてもかなりハードコアなモデルで、足回りはより低く硬くなり、美しいスピードライン製のスプリットリム式ホイール(964ターボと同様)と、さらに攻撃的なボディキットを装着。ボンネットの下には、8バルブ、SOHCのターボ版3リッター4気筒エンジンを搭載し、305bhpを発生した。だが、1年間で製造されたのはたった14台で、レース用のRSも4台に留まり、ここでポルシェは968の生産を打ち切った。
968の製造数は合計1万2776台で、先代の944よりはかなり希少で、大成功を収めた後継のボクスターに比べれば、はるかに少ない。現在は、苦労せずによい1台が見つかるが、価格はじわじわと上昇しているものの、964に比べれば格安だ。
バイヤーズガイド
●価格帯
最も入手しやすいのは、走行距離の多いティプトロニック・ギアボックス仕様で、クーペでもコンバーチブルでも1万2000ポンド(約240万円)前後からある。きれいなものは1万5000ポンド(約300万円)弱~、走行距離の少ないものは2万5000ポンド(約500万円)以上。
最良のクラブスポーツになると今や4万ポンド(約800万円)を超えるが、十分に使えてそれなりに整った1台なら1万5000ポンド(約300万円)から見つかるだろう。履歴がきちんと残っているかが鍵だ。イギリス向けの968スポーツは今も人気が高く、フル装備のCSよりやや低い程度の金額になることが多い。14台のみのターボSモデルがほしいとなると、50万ポンド(1億円)では足りないだろう…。
●注意点
全般にエンジンの信頼性は非常に高いが、これは念入りなメンテナンスに負う部分もある。定期的なオイル交換は必須だ。継続的な整備コストでとくに大きいのがタイミングベルトとウォーターポンプの交換で、4年ごとに必要。ギアボックスはかなり頑丈だが、デフのピニオンベアリングから異音がしないか注意しよう。
ファクトリーで亜鉛メッキ処理されているので、968のボディワークは全般に錆にはかなり強い。ただし、融雪剤がまかれた道路で日常的に使われていた車は、リアのホイールアーチやシルに腐食の兆候が出ているかもしれない。
サスペンションは、よく制御され、引き締まって洗練された感触のはずだ。CS(それ以外でもM030サスペンションパッケージを装着する場合)は、標準より足回りが相当に硬い。ルーズな感じやガタつきがある場合は、おそらくオリジナルのコニ製ダンパーのリフレッシュが必要だ。
ポップアップ式ヘッドライトは、開閉メカニズムの修理がやっかいなので、きちんと動くかチェックしよう。
ダッシュボードやインテリアは944とほとんど同じで、通常、傷みは少ない。湿気による染みがないか確認しよう。たいていはサンルーフかテールゲートの水漏れが原因だ。
編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) Translation:Megumi KINOSHITA
※この記事は『Octane』UK版268号(2025年10月号)を翻訳したものです。記載されている相場はその時点におけるイギリス国内のものであり(1ポンド=約200円で換算)、日本での流通相場とは異なる場合があります。