JR東日本は、3月23日から東北新幹線で「荷物専用新幹線」を運行する。山形新幹線で活躍したE3系2000番代を改造し、盛岡~東京間を最高速度275km/hで走る。従来の荷物輸送サービス「はこビュン」の輸送量を拡大することになる。

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    「荷物専用新幹線」は山形新幹線「つばさ」などで活躍したE3系1編成を改造。3月23日から運行開始する

現在、この区間に定期航空便はなく、トラック輸送や貨物列車の輸送は時間がかかる。最も速い輸送モードが、新たな食文化を作るかもしれない。

東北新幹線の上り「やまびこ56号」と併結? 列車名が欲しい

「荷物専用新幹線」のベースとなったE3系2000番代は、2008~2010年にかけて、山形新幹線「つばさ」の初代車両400系を置き換える目的で導入された。7両編成で最高速度は275km/h。登場時は東北新幹線で最高速度240km/hのE4系と併結していた。2012年3月のダイヤ改正からE2系と併結し、本来の最高速度275km/hで運行した。2024年3月に「つばさ」向けの新型車両E8系が登場し、E3系2000番代は順次引退。2025年12月に全編成が定期運用を終了した。

引退したE3系2000番代のうち、L69編成が「荷物専用新幹線」に改造され、新たな役割を与えられた。E3系0番代は「とれいゆつばさ」「現美新幹線」という観光車両になったが、2000番代は「荷物輸送」という実用的な役割が与えられた。

「荷物専用新幹線」は、山形新幹線「つばさ」時代と同じ7両編成。客室内の座席をすべて撤去し、床は台車用のガイドレールと作業員向けの滑り止め加工を施した。荷棚にフレームを設置し、カゴ台車を固定するベルトを取り付けた。空調吹出し口や照明は変わらず。窓側座席の足もとにあった電源コンセントも残っている。冷却装置付きの荷物の電源が取れるように、あえて残したようだ。

荷物はカゴ台車に載せられて車内へ搬入される。カゴ台車は120サイズ(三辺の合計が120cm)の箱を約6個、最大120kgの荷物を積載できる。1両に10~25台程度のカゴ台車が載り、7両編成全体で1,000箱程度、最大17.4トンの荷物を輸送できる。重さで換算すると、中型トラック(約4トン積み)で約5台、大型トラック(約15トン積み)で1台分となる。軽くてかさばる荷物なら、もっと多くのトラックを代替できるだろう。

  • 「荷物専用新幹線」の車内。客室内の座席をすべて撤去し、床面をフラット化して滑り止め加工を施した。窓側座席の足もと付近にあったコンセントは残している

  • 外観は白を基調としており、「はこビュン」のロゴも掲出。中間車の窓に輸送実績のある地産品などデザインしている

窓はすべてスクリーンが降ろされ、直射日光を遮る。外観では、窓の部分に野菜や海鮮など「はこビュン」で輸送実績のある産物をデザインした。生鮮食品は直射日光で変質する場合もあるから、ここは割り切って窓を埋めたとみられる。車体色は全体的に白いが、屋根部分に「つばさ」時代を継承する「おしどりパープル」を残した。スーパーマーケットの入口のようにも見えるし、冷蔵庫を連想させるところも面白い。新鮮さを象徴した色使いといえる。

「荷物専用新幹線」はいまのところ1編成のみで、盛岡新幹線車両センターと東京車両センターを結ぶ。運行頻度は平日に1本だけ。盛岡新幹線車両センターでのE3系荷物輸送対応に向けて、積み降ろし設備を準備した。トラックから降ろした荷物はカゴ台車に載せられ、無人搬送車によって最大6台まで連結して各車両の入口まで運ばれる。そこで待機する係員が車内にカゴ台車を積み込む。

  • 車内電源を活用することで、冷蔵品の輸送なども可能に。AGV(無人搬送車)も導入し、作業効率化を実現する

資料によると、「荷物専用新幹線」は正午前に盛岡新幹線車両センターを発車し、16時頃に東京新幹線車両センターに到着するダイヤを予定している。運行時はE5系の「やまびこ」と連結するとのこと。これに関して、荷物輸送は「旅客輸送の業務に付随した運送」として認可されているため、現行制度において単独運行ではなく旅客列車と併結して運行される。

ダイヤ改正後の時刻表を調べると、該当する列車は盛岡駅始発の東北新幹線上り「やまびこ56号」。盛岡駅12時8分発・東京駅15時24分着で、客扱い後に田端駅付近の東京新幹線車両センターへ向けて回送というダイヤになる。

ところで、ここまで何度も「荷物専用新幹線」と書いてきた。わかりやすい名称ではあるものの、少し固い気もする。「やまびこ」「つばさ」のような列車名を付けてあげたい。かつて下関と汐留を結んだ鮮魚特急「とびうお」のように。美しくスピード感のある列車名を与えられないものか。「めかじき」とか。

これは冗談ではなく、たとえば併結している「やまびこ」や駅の案内で「11号車から17号車は荷物専用新幹線のめかじき号です。ご乗車になれません。本日は三陸産のウニ、トラウトサーモンなどを運んでおります」とアナウンスすれば、「荷物専用新幹線」の宣伝になるし、「東京で東北の魚を食べられる店があるのか!」と、乗客も楽しい気分になると思う。

国鉄時代からの「レールゴー・サービス」が「モノ輸送」に転じた

JR東日本の新幹線荷物輸送サービスは「はこビュン」と呼ばれる。正式なサービス開始がコロナ禍の最中の2021年10月だったため、「乗客が減ったから空いた客室で貨物輸送を始めた」と思われがちな面もある。しかし、荷物輸送の試みはコロナ禍以前の2017年に「朝採れ新幹線マルシェ」として始まった。東北新幹線、秋田新幹線、上越新幹線、北陸新幹線で、車内販売準備室を利用して生鮮野菜などを輸送した。2020年にJR西日本、JR北海道と連携した海鮮輸送を実施。この試験の結果、正式に「はこビュン」となった。

もとより新幹線荷物輸送は国鉄時代の1981年から、「レールゴー・サービス」として東海道新幹線で始まり、東北・上越新幹線にも拡大していた。

当時の「レールゴー・サービス」は、書類やコンピュータ用の磁気テープ、フロッピーディスクなどを想定しており、輸送時はジュラルミン製トランクを使用した。鮮魚や野菜など生鮮食品の輸送は貨物列車か在来線の荷物列車の役割だった。ところが、1985年のNTT発足にともない電気通信事業法が改正されると、パソコン通信の商用サービスがスタート。1992年に商用パソコン通信事業をまたがるメールの送受信が可能になり、1995年の「Windows95」をきっかけにインターネットや常時接続環境が整備された。書類や画像データはメール添付またはファイル転送が一般的となり、「レールゴー・サービス」の利用者が減っていく。

そこで書類やデータだけでなく、「モノ」を運ぶサービスへ切替えが行われた。JR東日本とJR北海道は新幹線荷物輸送サービス「はこビュン」、JR東海は「東海道マッパ便」、JR九州は「はやっ!便」を開始。料金体系も宅配便のような「箱の3辺合計」あるいは「重さ」の分類を採用している。2024年にJR西日本の産直輸送ブランド「FRESH WEST」とJR四国も加わり、JR旅客6社による荷物輸送連携サービスが始まった。2025年にJR西日本は荷物輸送サービス「荷もっシュッ!」を開始している。

それぞれ基本的なサービスは「駅の窓口で差出し」「駅の窓口で受取り」となるが、通運業者を介して集荷と配送も可能。法人向けサービスだけでなく、個人でも利用できる。JR東日本の場合、「はこビュン」は法人向けサービスで、在来線でも対応可能とのこと。「はこビュン Quick」は法人・個人向けの小口荷物輸送サービスで予約不要。東京~新函館北斗間、東京~新青森間、東京~盛岡間、東京~仙台間、東京~新潟間、東京~金沢間、東京~長野間でサービスを実施している。

「はこビュン」は2025年4月から臨時列車の一部客室を使用した大口輸送サービスを開始しており、毎週金曜日に最大200箱程度の輸送が可能となっている。JR東日本の「荷物専用新幹線」は、新たに定期列車を設定し、専用車両で5倍の輸送量を実現するサービスとなる。

新幹線輸送のメリットは「人と同じように運ぶ」

新幹線荷物輸送のメリットは「定時性」「速達性」にある。野菜や生鮮魚介は箱詰めされた時点から風味が落ちていく。生産者は「採れたてが一番美味しい」と思っている。消費者のもとへ届くまでに鮮度が落ちることに対し、残念な気持ちがあったに違いない。

長距離トラック輸送は夜間走行が多い。朝に収穫した食材も出発は夜で、翌朝に東京の市場へ届く。トラックを昼に出発させて夜に東京入りしたとしても、市場は朝から動き出す。市場から小売店、レストランに届くまで、どうしても24時間以上かかる。しかし、「荷物専用新幹線」を使えば、「朝採れ」の食材が夕方の食卓やレストランのディナーに間に合う。

当日も翌日も鮮度に大きな差はないと思うかもしれない。しかし、筆者の好きなホルモン焼肉は、冷凍したかしないかで食味がまったく異なる。冷凍すると固くなって噛み切れないが、市場直送の肉は柔らかく、口の中で溶けていくように思える。現在は冷凍技術も進化し、差は縮まっているものの、それでも冷凍しない肉のほうが美味い。筆者は魚介類を好まないが、おそらく鮮魚でも、冷凍とチルドと絞めたばかりの差は大きいと思う。野菜も収穫した途端に水分が失われていく。収穫したばかりのニラは生食でき、しかも甘いという。

新幹線荷物輸送のメリットは他にもある。たとえば乗客サービス用に整えた空調と乗り心地。食品や液体製剤は冬でも冷房が必要だが、窓下のコンセントを使うことで、業務用クーラーボックスや保温機器を利用できる。精密機器は結露と振動が大敵だが、E3系2000番代は先頭車(11・17号車)にフルアクティブサスペンション、隣の12・16号車にセミアクティブサスペンションを搭載している。つまり、「人が乗る車両だから、人と同じように大切に荷物を運べる」というわけで、いままでトラックの長距離輸送には適さなかった荷物も安心して運べる。

ここまでは良いことばかりの「荷物専用新幹線」だが、筆者としては1点だけ、下り便が輸送メニューにないことが気になった。盛岡発東京行として運行し、東京新幹線車両センターで荷物を降ろした後、翌日に盛岡新幹線車両センターで荷物を積むために回送されると思う。そこにも荷物を載せる手立てはないものか。過去には東京のケーキを東北へ運んだ事例がある。筆者が心配しなくても、すでになにか検討しているだろう。

「はこビュン Quick」では、家に置き忘れたチケットを運んでもらい、ライブに間に合った事例もあるという。新しい輸送手段は新しい使い方を生む。傷みやすくてトラックでは運べなかった野菜や果物が、新幹線なら輸送できるかもしれない。「新幹線で輸送できるなら栽培しようか」という農家が現れるかもしれない。「荷物専用新幹線」という新しい輸送手段が、新しい市場と新しい文化を生み出すことに期待したい。

  • 「荷物専用新幹線」の車内と外観