
昨年末から続く来日ラッシュだが、2月に入ってもその勢いは衰えを知らない。特に2月第三週はギースやピンクパンサレスをはじめ、アレックス・G、ロイエル・オーティス、ルーシー・デイカスなどが一気に日本の地を踏むという超過密状態。体が幾つあっても足りる気がしない。そしてそんな2月第3週で、もっとも見逃せないライブのひとつがウェット・レッグ(Wet Leg)だ[2月18日(水)東京・豊洲PIT、2月19日(木)大阪・GORILLA HALL、2月20日(金)名古屋・DIAMOND HALLにて開催]。
デビュー時からイメージが大きく変わり、「いまのウェット・レッグはよくわからない」と感じている人もいるかもしれない。しかし本当に自分たちらしいアイデンティティを確立し、格段の進化を遂げたいまの彼女たちを見逃すのはあまりに勿体ない。そこで本稿では改めてその魅力を解きほぐし、「いまこそウェット・レッグを観るべき理由」を5つの観点から紹介しよう。
左からリアン・ティーズデール、ヘスター・チャンバース(Photo by Iris Luz)
1. 2020年代のUKインディを代表するバンドだから
ウェット・レッグは、2020年代UKインディのトップランナーだ。まずはその事実を改めて強調しておきたい。
彼女たちはそのデビューからしてセンセーショナルだった。当時のUKインディで主流だったサウスロンドン勢の前衛主義とは完全に一線を画する、どこまでもシンプルでダイレクトでキャッチーなサウンド。少しばかりシニカルで、ウィットとユーモアに富んだ歌詞。そして片田舎のワイト島から出てきたというエキゾチシズムを増幅させたコテージコア風のファッション。そのすべてが鮮烈で、いまだUKインディが「冬の時代」にもがく中、ウェット・レッグはあっけらかんとメインストリームのど真ん中へと躍り出てしまったのだ。
これまでにリリースした2枚のアルバムは、どちらも全英1位。しかも2作目『moisturizer』は、再結成ツアーが始まって1位に返り咲いていたオアシスのベストアルバム『Time Flies…1994 - 2009』を蹴落としての首位奪取だった。アメリカでもUKインディの新人としては破格の成功を収めており、1st『Wet Leg』が11位、2ndが45位。デビュー作でグラミー賞2部門を受賞したのも大快挙だった。
同じ2020年代デビュー組で、彼女たちに匹敵する成功を収めている者は見当たらない。文字通りウェット・レッグは2020年代のUKインディを代表するバンドなのである。
1st『Wet Leg』の人気曲「Chaise Longue」2025年のライブ映像
2. 『moisturizer』は「2作目のジンクス」を完璧に乗り越えた傑作だから
ウェット・レッグのようにデビューと同時に大きな脚光を浴びたバンドは、二作目で壁にぶつかることが多い。いわゆる2ndアルバム・シンドロームと呼ばれるものだ。しかし彼女たちはその難関を軽々と乗り越えている。実際に『moisturizer』は、理想的な2ndアルバムだと言っていい。
『moisturizer』でまず耳を引くのは、格段に逞しさを増したバンドアンサンブル。「catch these fists」のゴリゴリと唸るベースや、「CPR」の大振りでノイジーなギターリフなどは、いかにも青白いインディキッズ風だった1stのサウンドからは想像もつかないほどだ。無論この変化は、1stのリリース後、ほぼ休みなしで2年間ツアー生活に明け暮れた成果だろう。バンドの結束力が高まり、基礎体力も大きく向上したのが手に取るように伝わってくる。
そもそもウェット・レッグはリアン・ティーズデールとヘスター・チャンバースのデュオとして始まったが、『moisturizer』制作時に、結成当初からツアー/レコーディングを共にしている3人を加えた5人組へと拡張。曲作りもリアン任せではなく、5人全員でおこなう体制へと移行した。この変化も彼女たちの結束力と友情が一段と深まったことを示している。
成功を経て絆を深めたウェット・レッグは、そのサウンドを大きくパワーアップさせた。と同時に、成功後のプレッシャーをリアン一人ではなく、バンド全員で受け止める体制も作り上げた。それはウェット・レッグが「2作目のジンクス」を乗り越えることが出来た大きな要因のひとつだろう。
3. 「ウェット・レッグ2.0」と呼ぶべき、新たなアイデンティティを確立したから
『moisturizer』の筋肉質なサウンド以上に、私たちオーディエンスを驚かせたのはリアンのビジュアル面での変化だろう。美しく鍛え上げられた肉体、ボディラインを強調するタイトで露出の多いファッション、そしてプラチナピンクに染め上げた髪──その新しい視覚的イメージは、1st時におけるコテージコア風の素朴な見た目とは180度異なるものだ。
よく知られているように、この変化はリアンがノンバイナリーのパートナーと出会い、クィアネスに目覚めたことと大きく関係している。男性の視線を意識することから解放されて自分の身体に対する所有感が高まった結果、彼女は新たな自由を手にし、本当に自分らしいスタイルを見つけた。このリアンの力強いヴィジュアルイメージは筋肉質になった『moisturizer』のサウンドとも呼応しており、「ウェット・レッグ2.0」とでも言えるような、バンドの新たなアイデンティティの確立へと繋がっている。

リアン・ティーズデール、2025年撮影(Photo by Erika Goldring/WireImage)
4. 世界が愛した抜群のユーモアセンスは健在だから
ここまで読んで、「ウェット・レッグもすっかり変わったな」と感じた人も多いだろう。だがもちろん変わらない魅力もある。それは、いつだって自分自身や世の中をシリアスに捉えすぎないユーモアセンスを持っていることだ。
例えばアイドルズへの憧憬を滲ませたギターリフで突っ走るデビュー曲の「Chaise Longue」は、表面的には一日中長椅子で寝そべっている話だが、明らかに性的な仄めかしが随所に散りばめられている。同じく1stアルバムの代表曲「Wet Dream」は男性の自慰の話。どちらも男性の滑稽さを少しばかりトゲのあるユーモアで茶化している。だがその表現は愚かな男性を叩きのめしているというよりは、男女問わずみんなでそのバカバカしさを笑っているような楽しさを感じさせるものだ。ウェット・レッグが愛されたのは、こうしたユーモアに拠るところも大きい。
そしてそのユーモアセンスは『moisturizer』でも健在。「mangetout」はクソ男に中指を立てているストレートな怒りの曲だが、「サヤエンドウ=mangetout」と「男は失せな=man get out」をかける言葉遊びも忘れない。恋に落ちることの戸惑いと胸の高まりを告白した「CPR」では、日本で言う119番に電話をかけて「私、恋に落ちてるんですけど!」とオペレーターに通報するスキットを挟み、自分自身を茶化してみせる。遠距離の恋人の代わりに枕を抱き、キスし、舐め、ファックする様子を歌う「pillow talk」も、恋人に夢中になり過ぎている自分自身の相対化だ。
ユーモアによる相対化は、特定の感情に自分が支配されることを防いでくれる。だからこそ、それは開かれた表現として多くの人に共有されるのだ。ぜひ今回の来日公演でも「Chaise Longue」で「I got the big D!(学校の成績と男性器をかけた表現)」と一緒に歌い、「CPR」でダイヤル式電話を持ち出してスキットを始めるリアンと一緒に「Im in love!」と叫びたい。
5. 次世代アリーナロック級の強烈なライブを目撃できるから
ウェット・レッグはそのライブパフォーマンスも格段にパワーアップしている。もう2023年の初来日時とは同じバンドと思わない方がいい。
映像で確認する限り、ときにセクシーに体をくねらせ、ときにその筋肉を誇示するようにポーズを決めて堂々とステージ中央に立つリアンの姿は、以前とは比べ物にならないほど自信に満ち溢れたもの。一方、最近は社交不安から対面インタビューに応じないことが多いヘスターは、ステージ奥でオーディエンスに半分背を向けながら、しかし楽しそうに演奏する。二人の姿は実に対照的だが、どちらも自由に自分らしく振舞っているところが魅力的だ。
そして『moisturizer』でも感じられたように、そのバンドサウンドは見違えるくらいパワフルでアグレッシブに変貌した。以前ウェット・レッグはフー・ファイターズのオープニングアクトを務めたことがあるが、今の彼女たちのステージを観ればそれも納得だろう。特に『moisturizer』からの曲は、もはやインディロックというより、大会場で鳴り響くのが相応しい大文字のロックといった風格である。
今回の日本ツアーは、初来日のときより会場のサイズが大きくアップしている(特に東京は2倍以上)。まさにこの規模だからこそ、進化したウェット・レッグの実力が存分に味わえるはずだ。あなたもこの機会に、生まれ変わった彼女たちの姿を絶対にその目に焼き付けてもらいたい。

WET LEG japan moistourizer 2026
2026年2月18日(水)東京・豊洲PIT
2026年2月19日(木)大阪・GORILLA HALL OSAKA
2026年2月20日(金)名古屋・DIAMOND HALL
open 18:00 / start 19:00
前売:8,800円(税込 / 別途ドリンク代)※未就学児童入場不可
詳細:https://linktr.ee/moisturizer2026

ウェット・レッグ
『moisturizer』
発売中
日本盤:解説書・歌詞対訳付き/ボーナストラック追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14881
