『僕のヤバイ妻』のあらすじは、「望月幸平(伊藤英明)は妻・真理亜(木村佳乃)の両親による遺産でカフェを経営しているが、夫婦生活には嫌気がさしていた。ある日、幸平は経営するカフェの料理長で愛人の北里杏南(相武紗季)と妻の殺害を企てる。しかし、彼が帰宅すると妻は何者かに誘拐されていた……」。はたして料理上手で清楚かつ貞淑な妻に何があったのか。タイトル通り本当に“ヤバイ妻”なのか。
誘拐が幸平、真理亜、杏南の3人だけでなく、隣人夫妻の鯨井有希(キムラ緑子)と和樹(高橋一生)、幸平の元義兄・横路正道(宮迫博之)、学生のころ真理亜に想いを寄せていた後輩・緒方彰吾(眞嶋秀和)、真理亜の元家庭教師でバーマスターの木暮久雄(佐々木蔵之介)らを巻き込んださらなる事件につながっていく。
身代金2億円の行方も含めて、第1話から最終話まで混沌とした状況が続き、「数分先の展開すら予想できない」という点で、1990年前半に一世を風靡したジェットコースタードラマを彷彿させた。
幸平は主人公であるにもかかわらず、妻の恩恵を受けてカフェを経営しながら店のスタッフと不倫し、妻を殺害しようとする最低男。さらに、知られざる事実を知って反省したり、それもすぐに覆されて疑心暗鬼になったりなどの不安定な状況が続き、追い詰められていく。そんな幸平はすべてが明らかになる最終回でどのような決断を下すのか。
ドラマ終了後、本能や欲望をさらけだしてぶつかり合った夫婦の結末にさまざまな反響の声が飛び交った。当作は命をめぐるサスペンスであるとともに、夫婦のあり方を考えさせられる人間ドラマとも言っていいだろう。このあたりのコンセプトや展開の妙は、主人公を中心にさまざまな嘘が飛び交う10年後の『リブート』につながっている。
続きが気になるクリフハンガーの名手
あらためて黒岩の脚本作品を振り返ると、「主人公にハイテンポで試練が訪れ、追い詰められていく」というサスペンスの要素が濃い。いい意味で視聴者の予測を裏切るような方向に進み、特に各話のクライマックスは“絶体絶命の危機”や“衝撃の新事実”を提示する“クリフハンガー”という手法が徹底されていた。
それは『僕のヤバイ妻』以降、『マイファミリー』などで多用され、今冬の『リブート』でも徹底されている。黒岩は視聴者に「続きが気になる」「来週まで待ちきれない」という気持ちにさせられるという点で日本トップの脚本家と言っていいだろう。
さらに言えば、力のある俳優に悪人を演じさせて持ち味を引き出すという点でも最高峰。『僕のヤバイ妻』で言えば、伊藤英明、木村佳乃、相武紗季、キムラ緑子、高橋一生、宮迫博之、『モンテ・クリスト伯』で言えば、大倉忠義、稲森いずみ、高橋克典、山口紗弥加。
今冬の『リブート』でも、鈴木亮平、戸田恵梨香、永瀬廉、藤澤涼架。そういえば『僕のヤバイ妻』で主演を務めた伊藤英明は当作にも警務部監察官として出演しているが、黒岩と縁の深い俳優だけに、悪人として描かれる可能性もありそうだ。
ネットの普及によって、人と向き合わず、本音を語らずに距離を取ることが当たり前のようになる中、登場人物が正面から向き合い、本音をぶつけ合う黒岩の脚本は相対的にエンタメ度が高くなる。
「ドラマを見ながらネット上につぶやき、放送終了後から次回にかけて感想や考察で盛り上がる」という点も含め、令和のトップ脚本家であることに疑いの余地はない。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。