NTTドコモが住信SBIネット銀行を傘下に収め、ドコモサービスとの連携に向けたサービス開発を進めている。具体的なサービスの登場は夏以降になる見込みだが、現在の進捗とドコモの状況に関して、同社コンシューマサービスカンパニー ウォレットサービス部長の田原務氏に話を聞いた。

  • NTTドコモコンシューマサービスカンパニーウォレットサービス部長 田原務氏

    NTTドコモコンシューマサービスカンパニーウォレットサービス部長 田原務氏

ドコモ+三井住友信託銀行+住信SBIネット銀行で一緒に取り組む

ドコモが住信SBIネット銀行の株式公開買付(TOB)を発表したのが2025年5月のこと。もともとは三井住友信託銀行からの提案でスタートしたという買収劇だが、ドコモの金融事業にとっては悲願だった銀行への参入ということで、途中で交渉が振り出しに戻るなど紆余曲折はあったものの最終的にTOBが成立した。

10月1日には住信SBIネット銀行のサービス名「NEOBANK」が「d NEOBANK」と改称された。この名称はドコモ側からの働きかけではなく、住信SBIネット銀行側からの提案で変更されたものだと田原氏は説明する。そして12月19日には、社名が住信SBIネット銀行から「ドコモSMTBネット銀行」へと変更することが発表されている。変更は2026年8月3日の予定。

背景には、もともと住信SBIネット銀行の株主だった三井住友信託銀行の意向があった。当初の計画では持株比率がドコモ65.81%/三井住友信託銀行34.19%で、議決権比率は50%ずつというディールだったが、最終的に議決権比率は変えないものの、持株比率は55.37%対44.63%となった。ドコモの連結子会社であるという点は変わらない。

「金利のある世界」となって銀行業界の戦略も大きく動いており、三井住友信託銀行側にとっては従来の富裕層への取り組みを強化するとともに、住信SBIネット銀行との連携を維持することでマスリテール業務などを送客するといった棲み分けを図れる点などを重視したようだ。

社名自体は、12月の発表会でドコモの前田義晃社長が「あえて」と表現していたが、(合併ではないものの)銀行業界の伝統ともいえる各社の社名をつなげた「ドコモSMTBネット銀行」という名称になった。田原氏は、「協業パートナーである三井住友信託銀行、既存の住信SBIネット銀行のお客様、そして住信SBIネット銀行自体といったいろいろを勘案した結果、この名前になった」と話す。この3社をはじめとしたステークホルダーが一緒になって拡大に向けて取り組んでいく、そうした意図を踏まえた名前なのだという。

ちなみに「住信SBIネット銀行」には「SSNB」という略称も使われる。同様に考えると新銀行の略称は「DSNB」となりそうだが、現時点で特に略称を定めてはいないそうだ。

  • 新社名と新サービスロゴ

    新社名と新サービスロゴ。ドコモと言えば赤いロゴだが、既存ユーザーの存在を考え、住信SBIネット銀行の青いカラーとロゴのイメージの変更は難しいと判断したそうだ

金融持株会社設立の方向で体制を強化

社名変更の8月へ向けての取り組みとしては、新たに「金融事業持株会社の設立を検討している」と田原氏は話す。金融業界では金融持株会社の設立がオーソドックスな手段で、ドコモと同じようにモバイル業界から金融に進出しているKDDIも金融持株会社のauフィナンシャルホールディングスを設立している。ただ、ソフトバンクはPayPay金融グループ、楽天はフィンテックグループカンパニーとして金融などの事業を統括している形をとっており、各社の対応が分かれている格好。ドコモでは、純粋持株会社ではなく金融事業持株会社の設立を想定しているそうだ。

ドコモにはドコモSMTBネット銀行だけでなく、dカード/d払い/マネックス証券/ドコモファイナンスなどの金融・決済部門がある。これらを分社化し、ドコモグループ内でしっかり連携してシナジーを生かせるような仕組みや組織体制にしていく考えだという。業法やガバナンスへの対応、専門知識を持った経営層の関与を進める上で分社化が必要だという判断だ。

現在、金融戦略部/ウォレットサービス部/クレジットサービス部を担当するコンシューマサービスカンパニー統括長は江藤俊弘常務執行役員。田原氏はその下でウォレットサービス部長の任に就いている。基本的にはこの3部門に加えて管理部門や監査部門などを含めて異動することが想定されている。

さらにここにドコモ・ファイナンス、ドコモ・インシュアランス、マネックス証券、そしてドコモSMTBネット銀行といった金融各社が加わって、ドコモの金融会社としての連携を強化する体制を作り上げていく方向性のようだ。

連携の鍵はdアカウント、さらに改善を目指す

銀行業は、ドコモの金融事業にとっては「最後の欠けたピース」であり、これで必要なピースがほぼ揃ったというのが田原氏の認識。この最後のピースを活用し、例えば決済と銀行口座をセットにする、ドコモ回線ユーザーの銀行連携を進めるといった具合に、まずは金融サービス間の連携とドコモ回線との連携という2つの軸で進めていく考えだ。

決済の面では、dカードがすでに1,800万契約、dカード PLATINUMも100万契約を突破するなど好調で、ここに銀行口座連携が加わることで双方の拡大が図れる。dカードやドコモ回線の引き落とし口座としてドコモSMTBネット銀行を設定するとdポイントを優遇するといった施策もこれまでは提供できなかったが、今後は可能となる。

引き落とし口座設定でメインバンクとしての使われ方が増えれば、ドコモSMTBネット銀行の預金獲得増にもつながる。預金量を拡大するために、「一定の預金残高でdポイント優遇」といった施策もありえるだろう。

日本のキャッシュレス決済比率は、2025年の政府目標だった40%を上回る42.8%を1年前倒しの2024年に達成した。この比率はより実態に即した新指標では51.7%になっており、政府は2030年にこの新指標で65%、将来的には80%にすることを目指している。

  • 経済産業省のキャッシュレス決済比率の指標

    経済産業省のキャッシュレス決済比率の指標。旧指標と新指標では数字が異なり、実態としてはおおむね50%を超える程度になっている

そうしてキャッシュレス決済比率が高まると加盟店側の手数料負担がさらに重くなるため、値下げ圧力が加速すると田原氏は予測。そうした状況下では決済手数料以外のビジネスモデルとして銀行業の取り組みが重要になってくると見ている。

「銀行は人の生活にもっと密接に結びついている金融サービス」と田原氏は語る。これをハブにして、決済サービスとの連携、ドコモ・ファイナンスによる借入、マネックス証券での投資信託、積み立てなど、金融・決済事業全体で最適化したサービスを提供していく考えだ。

そこで鍵となるのはやはりdアカウントだ。住信SBIネット銀行ユーザーのうち、「ざっくり言うと1/3がドコモ回線ユーザー」だと田原氏は説明し、それ以外のユーザーにもドコモサービスを連携して使ってもらうためには、dアカウントといかに連携するかが重要になる。

  • 田原氏

ただ、dアカウント自体はドコモ回線利用者の顧客管理システムと強く結びついており、柔軟性に欠けている。ドコモの前田社長もそうした課題感を持っていて、これまでも改善の方針を示していたが、問題の完全な解消には数年かかる見込みだという。

抜本的な解決に向けた改修は進めつつ、当面は「ドコモサービスとの連携を設定する場合にはdアカウントが必要になる」形で、住信SBIネット銀行ユーザーは現行のアカウントをそのまま使い続けることになる。dアカウントとの連携が必要な場合も、パスキーを使った認証などをさらに改善させ、ユーザー体験を向上させていきたいとしている。

住信SBIネット銀行は、「UI/UXが非常に優れている」と田原氏は評価し、dアカウント連携でもそうしたUI/UXを損なわないような設計にしていく方針。住信SBIネット銀行とドコモの開発チームが交流し、ワーキンググループを作ってサービス連携に取り組んでいるのだという。

こうした両社の交流では、すでにドコモからは20人弱が住信SBIネット銀行に出向しており、「UI/UXを起点にしてサービスをデザインしていく」との考えを田原氏は示しており、あくまでユーザー体験を重視していく方針だ。

なお、dカードとミライノカードのような重複事業に関しては、当面は既存サービスを継続するが、サービス内容を踏まえてdカードの特典の方がよりお得になる設計ができれば移行してもらうこともありえるという。そういったサービス設計は今後検討していく。住宅ローンだと「フラット35」に強いドコモ・ファイナンスと変動金利に強い住信SBIネット銀行といった棲み分けも踏まえて事業を整理していくそうだ。